夜間頻尿の3つの原因について解説します(写真:mits/PIXTA)

日本大学医学部泌尿器科学系泌尿器科学分野主任教授の郄橋悟氏によれば、数ある尿トラブルのなかで、最も悩んでいる人が多いのは「夜間頻尿」で、40歳以上の女性で62.1%(2580万人)、男性で71.4%(2640万人)、全体では66.7%もの人に夜間頻尿があるそうです。

本稿では、郄橋氏の著書『頻尿・尿もれ自力でできるリセット法』から、一部を抜粋・編集して、「夜間頻尿」の3つの原因と、それぞれの「なりやすい人」「その対策」について紹介します。

じつは「膀胱」は脳とつながっている

通常、尿が150〜200mlぐらいたまると「トイレに行こうかな」という程度の尿意を感じ始めます。尿が300〜400mlぐらいたまると「トイレに行かないともれちゃう!」という最大尿意を抱きます。

ところが年をとって尿道括約筋が衰えると、150〜200mlの量でも、最大尿意を抱くようになってしまいます。つまり、普通の人の半量で膀胱が「緊急事態」のサイレンを鳴らすのです。

このような「尿意をもよおす」という現象は、膀胱が尿で引き伸ばされたことを、脳の「排尿中枢」が察知して起こります。

膀胱に尿がたまったことを脳の排尿中枢に伝えるのは脊髄と「末梢神経」です。

末梢神経には「体性神経」と「自律神経」があります。自律神経は自動的(自律的)に機能している神経で、自分では動かせない不随意筋(平滑筋)を支配しています。その自律神経には、体を活動的にする「交感神経」と、体を休ませる「副交感神経」があります。

・排尿するとき…尿道括約筋が緩み、副交感神経が働いて膀胱が収縮します

・尿意を我慢するとき…尿道括約筋が収縮し、交感神経が働いて膀胱が弛緩します

悩む人が最多! 「夜間頻尿」の正体

数ある尿トラブルのなかで、最も悩んでいる人が多いのが「夜間頻尿」です。40歳以上の女性で62.1%(2580万人)、男性で71.4%(2640万人)、全体では66.7%もの人に夜間頻尿があるとされます(「日本排尿機能学会2023年疫学調査」より)。

「夜寝てから朝起きるまでに、トイレのために1回以上起きる」。これが「夜間頻尿」の定義です。ただし、起きる予定時刻の少し前に「トイレに行きたいと思って目覚め、トイレに行ったら寝床には戻らない」のは「1回」に数えません。トイレの後でまた眠ったときを「1回」と数えます。

「1回起きるだけ」なら、それほど困らない人が多いかもしれません。実際、あまり心配しなくてもいいと思います。困るのは、2回、3回、それ以上起きる場合です。なぜなら、夜間頻尿は睡眠の質を落とすので、昼間の活動に影響が出るからです。日常生活に影響することが、夜間頻尿の最も大きな問題です。

睡眠には「深い眠り(ノンレム睡眠)」と「浅い眠り(レム睡眠)」の2種類の状態があります。ノンレム睡眠とレム睡眠は交互に現れるもので、7時間眠るとしたら、ひと晩の眠りのなかでノンレム・レムのサイクルが4〜5回くり返されます。

最低3時間は眠らないと、1サイクルは回りません。トイレのために何度も起きる人は1サイクルを確保できないので、睡眠の質が落ち、寝不足状態になるのです。

夜間頻尿に悩む人の数が多いのは、原因が2つも3つも重なりがちだからです。主な原因は、次のようなことです。

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本来なら夜間の尿量は、日中の尿量に比べると極端に少ないのです。睡眠中には「抗利尿ホルモン」という「尿を作らせない物質」が分泌されて、腎臓から出る水分量が抑制されるからです。

ざっくり言うと1日の3分の1は寝ているので、抗利尿ホルモンの働きがなければ、夜に1日の3分の1に当たる量の尿が出ることになります。1日の尿量が1500mlなら夜に500ml出る計算ですが、そんなに出るなら睡眠中に1〜2回は起きるでしょう。起きなくて済むのは、抗利尿ホルモンが出ているからです。

夜の尿量は、どれくらいでしょうか。夜、トイレに行くのであれば、そのときに出た量を測って、それを1日の尿量で割り算すると、「夜間尿量率」がわかります。これが33%以上あると、「夜間多尿」です。

実は、若いときには就寝中にたくさん分泌されていた「抗利尿ホルモン」も、加齢とともに減っていきます。そのため、夜に作られる尿量が増えるのです。この「抗利尿ホルモン分泌の低下」による夜間多尿が、夜間頻尿の原因になるわけです。

なお、就寝前の「水やアルコールの飲みすぎ」も、夜間多尿の原因になります。さらに「糖尿病、高血圧、心不全などの病気がある」ことも、原因の1つになります。

加齢で低下する、ふくらはぎの「ポンプ機能」

原因下半身にたまった水分が、うまく排出されない

「足のむくみ」があるなら、それが夜間多尿につながっている可能性があります。本来、ふくらはぎには心臓と同じような"ポンプ作用"があります。ポンプ作用により、下半身の水分が上半身に戻され、水分は体内を循環するのです。

ところが運動不足や加齢で、ふくらはぎのポンプ機能が落ちることがあります。すると、体を起こしている昼間に、本来は尿として排出されるはずの水分が下半身にたまったままになります。そして夜、体を横たえると、たまった水分が上半身に戻ってくるため、心臓が「水分が余っている」と判断して、それが尿になってしまうのです。

特に出産した女性や妊娠中の女性は、リンパ液や血液の流れが悪くなるので、この現象が起きやすくなります。

原因「睡眠時無呼吸症候群」の可能性

睡眠障害のなかで最も注意すべきは「睡眠時無呼吸症候群」です。ほうっておくと心不全、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、腎不全、ED(勃起障害)などの病気を誘発することもあります。実は、夜中に3〜4回目が覚めてトイレに行くのは睡眠時無呼吸症候群の典型的な症状でもあります。

夜間頻尿は、ほうっておくとやっかいな症状ですが、ほとんどはよくなります。具体的な対策としては、水分のとりすぎを避け、水分摂取のタイミングを適切にすること、足のむくみを取ることなどの生活改善が有効です。

ただし、夜間頻尿の原因が、高血圧などの持病にあることもあります。ごくまれですが、抗利尿ホルモンの作用システムが壊れて、夜に薄い尿がたくさん出る病気もあります。また、生まれつき抗利尿ホルモンの分泌が悪い病気もあります。セルフケアで改善しない場合、このようなケースも考えられるので、泌尿器科を受診してください。

女性に多い「腹圧性尿失禁」

物を持ったとき、咳やくしゃみをしたとき、笑ったとき。このような、お腹に力が入ったときに起こる尿もれは「腹圧性尿失禁」と呼ばれます。

主な原因は2つ、「尿道括約筋の衰え」と「骨盤底筋の緩み」です。腹圧性尿失禁が現れるのは、ほとんど女性です。女性は尿道が短く、出口まですぐなので、少しお腹に力が入っただけで尿が出やすいからです。特に、

・40歳以上

・肥満ぎみ

・2回以上の経腟分娩の経験がある

こんな女性に、よく出る症状です。

尿道を締めている「尿道括約筋」が「腹圧」に負けてこじ開けられてしまい、尿がもれ出やすいのです。尿道括約筋の「括」の字は、「くくる」とも読みます。加齢や出産などによって、文字どおり「括る力」が弱まってしまった尿道括約筋は、尿道を締めることが難しくなり、少しの腹圧にも負けてしまいます。


しかも、骨盤底筋が緩んでくると膀胱や尿道が下がってきて、骨盤底筋は尿道をしっかり支えられなくなります。そうなると、尿道はグラグラして、うまく閉じることができません。

腹圧性尿失禁には、骨盤底筋トレーニングと減量が有効です。骨盤底筋がしっかりしていれば、腹圧がかかるのと同じタイミングで、尿道を閉鎖させる尿道括約筋の圧が上がります。ですから腹圧に負けて、尿がもれ出ることはありません。骨盤底筋が鍛えられれば、尿道括約筋の締める力も戻ってきて、尿道を閉じることができるようになります。

膀胱に腹圧がかかり続けていると、それだけで膀胱や内臓が骨盤のほうに下がることがあります。骨盤底筋トレーニングは、それに抵抗することにもなります。

なお、肥満体だと、少しの振動でも膀胱が圧迫されます。運動やダイエットで脂肪を減らすことができれば、お腹が膀胱を圧迫することがなくなります。お腹の重さで骨盤底筋に負担がかかり、骨盤底筋を緩ませることも防げます。

(郄橋 悟 : 日本大学医学部泌尿器科学系泌尿器科学分野主任教授)