左:『モガディシュ 脱出までの14⽇間』 ©2021 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS & FILMMAKERS R&K All Rights Reserved.(写真:カルチュア・エンタテインメント提供)、中央:『ワンダー 君は太陽』 Wonder © 2017 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC and Walden Media, LLC. Artwork & Supplementary Materials © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. (写真:キノフィルムズ提供)、右:『さがす』 ©2022『さがす』製作委員会(写真:ギャガ提供)

仕事で忙しくて平日はなかなか映画を観ることができない。そこで週末に映画をいざ観よう、と思っても作品選択肢が多すぎて、結局なにを観ていいかわからない……。そんな人に向けて週末の金土日、それぞれの気分に合わせたおすすめ映画を紹介します(なお、気分は独断と偏見ですが)。

Amazon Prime VideoやNetflixなどのサブスクリプションサービスで配信されている作品をピックアップしていますので、秋の夜長のお供にどうぞ。

スケール感を味わう『モガディシュ 脱出までの14日間』

金曜日の気分とテーマ:
仕事を終えて開放的な気分!非日常な世界をのぞいてワクワクしたい。映画ならではのスケール感を味わえる作品

『モガディシュ 脱出までの14日間』(2021)
Amazon Prime Video/U-NEXT/Huluにて定額内で視聴可能(2024年11月6日時点)

「事実は小説よりも奇なり」なる言葉がありますが、韓国映画『モガディシュ 脱出までの14日間』(2021)は、まさにその好例だと言える作品。


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ソウル五輪を成功させた韓国が、北朝鮮よりも先んじて国連への加盟を目指していた1991年。

ソマリアの首都モガディシュで、ロビー活動と妨害工作を行っていた韓国と北朝鮮の大使員たちが、現政府に不満を持った反乱軍による内戦に巻き込まれてしまいます。


映画『モガディシュ 脱出までの14日間』 ©2021 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS & FILMMAKERS R&K All Rights Reserved.(写真:カルチュア・エンタテインメント提供)

敵対しているはずの両者が極限状態の中で歩み寄りながら、決死の脱出を試みる姿が実話を基に描かれた作品です。

韓国では2021年のNo.1ヒット作(興行収入・観客動員数)となり、海外を舞台にしながらも、朝鮮半島の南北問題を浮き彫りにさせた展開も秀逸な映画です。

国際的な社会問題を声高に訴えるだけでなく、誰でも楽しめるエンタメ映画に仕上げた韓国映画界の底力に感服させられます。驚くべきことに、近年になってようやく本事件の顛末が公表され、映画化が実現したという経緯がありました。


『モガディシュ 脱出までの14⽇間』/Blu-ray&DVD発売中/発売元:カルチュア・パブリッシャーズ/販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング/©2021 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS & FILMMAKERS R&K All Rights Reserved.(写真:カルチュア・エンタテインメント提供)

事件の顛末が“公表”されたという、韓国とのお国柄の違いにも驚くばかり。

知られざる史実を映画の題材にすることは、『大統領の陰謀』(1976)や『バイス』(2018)など、ハリウッド映画のお家芸的なジャンルだったりしますが、残念ながら日本映画ではなかなか成立しにくいジャンル。

この作品は、韓国と北朝鮮の大使たちが、“脱出”という同じ目的のために手を組むという展開によって、相互理解を描くのかと思えば、国際情勢の現実に翻弄されてしまうという苦い終幕は、平和であることの意味を多角的に考えさせられたりもします。

同時に、政治サスペンスであり、脱出劇を描いた人間ドラマでもあり、ド派手なアクションも満載で、特に大使館の“蔵書”を盾にしながら非常線を突破してゆく怒涛のカーアクションは痛快です!

日本の社会構造をあぶり出す『さがす』

土曜日の気分とテーマ:
ゆっくり時間があるので、ふだん見過ごしていることにも目を向けたり、じっくり考えごとをしたりできる社会派な作品

『さがす』(2022)
Netflix/Amazon Prime Video/U-NEXT/Huluにて定額内で視聴可能(2024年11月6日時点)

交番や駅など街の掲示板に貼られた重要指名手配のポスターは、誰しも一度は目にしたことがあるはず。

『さがす』(2022)は、生活が楽になるからと「指名手配中の連続殺人犯を捕まえたら、300万円の賞金がもらえる」と冗談めいて話していた父親が、突然失踪してしまう事件の顛末を描いた社会派のミステリー映画。

これまで誰も見たことがないような、強烈な父親像を演じた佐藤二朗を目撃できるのも重要なポイントです。格差社会をモチーフにした『さがす』で描かれるのは、一度落ちてしまったら抜け出そうとしても抜け出せない奈落のような社会構造。


映画『さがす』 ©2022『さがす』製作委員会(写真:ギャガ提供)

一攫千金を狙って生活を楽にしようと試みる危うさは、昨今SNSで仲間を募って強盗をさせる集団の危うさにも似ているかもしれません。一方で、今作が持つユーモアには暗澹たる気持ちを和らげる効果があり、その象徴となるのが関西弁のセリフ。

いっけんすると親子喧嘩をしているかのような父と娘との会話の中に、お互いに対する“思いやり”や“優しさ”を感じさせるからにほかなりません。関西におけるツッコミは、相手を放っておかない(構ってあげる)優しさなのです。


『さがす』/Blu-ray&DVD発売中/発売・販売元:ギャガ/©2022『さがす』製作委員会(写真:ギャガ提供)

父親を探しにハローワークへと赴いた娘は、派遣先の工事現場で同僚から砂煙の向こう側にいる人物が父親だと教えられます。

しかし、「お父さん」と呼びかけた砂煙の向こう側にいたのは、掲示板に貼られていた、あの指名手配像によく似た若者だったのです。

指名手配犯の潜伏先などに既視感があるのは、いくつかの実際の事件がモデルになっているからで、やがて物語は予想外の展開を迎えます。

タイトルの“さがす”を平仮名にしたことで、広義に解釈できる仕掛けになっているのも一興。

絶望的な顛末ながら、社会の底辺から抜け出そうと試みた父親と娘の姿に、意外や意外、熱い涙があふれてしまうような作品です。

新しい挑戦への勇気をもらう『ワンダー 君は太陽』

日曜日の気分とテーマ:
仕事が始まる月曜日が見えてきて、テンションが下がり気味。元気をもらえて、明日からまた仕事を頑張れるような作品

『ワンダー 君は太陽』(2017)
Netflix/Amazon Prime Video/U-NEXT/Huluにて定額内で視聴可能(2024年11月6日時点)

この映画は、特別な顔を持って生まれた難病のために、人前に出ることが恥ずかしく、学校に行けないでいるオギーという小学生の男子が主人公。

彼の両親は、このまま家に引き篭もったままだと社会性が身に付かなくなるのではないか? と心配します。

そこで、困難が待ち構えていることを承知で、オギーを小学校へ送り出すのです。ところが、同級生たちは優しく接してくれるどころか、彼の顔をからかう始末です。


映画『ワンダー 君は太陽』 Wonder © 2017 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC and Walden Media, LLC. Artwork & Supplementary Materials © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. (写真:キノフィルムズ提供)

そう聞くと「いじめられた子どもを描いた“お涙ちょうだい”の映画か」と思うかも知れません。しかし、この映画がどんな映画とも似ていないのは、物語が始まって20分くらい経過すると、主人公であるオギーの視点で描かれていた物語が、何の前触れもなく突然オギーのお姉さんの視点に切り替わるという点にあります。

つまり、お姉さんから見たオギーの物語になるのです。やがて物語は、オギーのお姉さんの視点からオギーにとって初めての友達となる少年の視点に切り替わり、さらに、オギーのお姉さんの親友の視点に切り替わるなど、物語の視点がオギーの周囲にいる人たちへと数珠繋ぎに変化。

この映画は多角的な視点を持つことで、誰かが“いじめられている”ことに対して、わたしたち観客も能動的に考えるようになるような構成になっているというわけです。


『ワンダー 君は太陽』Blu-ray&DVD発売中/発売元:キノフィルムズ/木下グループ/販売元:ハピネット・メディアマーケティング/Wonder © 2017 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC and Walden Media, LLC. Artwork & Supplementary Materials © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. (写真:キノフィルムズ提供)

重要なのは、映画全体のカメラのポジションが、よく観ると少し低めになっているという点。子どもの「目線」=「視点」になっているのです。

つまり、子どもの問題を大人の視点で解決するのではなく、子どもの視点で解決しなければならないのではないか? ということを、映像表現においても実践しているのです。

「いじめっ子を追い出そう!」とのスローガンで、原作小説が全米のPTAで推薦書籍に選ばれた際、作者のR.J.パラシオは違和感を抱いたと言います。

それは、いじめる側を排除するだけでは、新たないじめを生み出すことに繋がるだけではないか? と考えたからです。

そこで彼女は、続編小説『もうひとつのワンダー』を執筆するのですが、この続編の主人公はオギーではなく、さらに視点が変化してオギーをいじめた同級生を描いた小説です。

ちなみに、そのいじめっ子がナチスドイツによるユダヤ人迫害を経験した祖母から戦争中の話を伝え聞く姿を描いた『ホワイトバード はじまりのワンダー』(2024)という続編映画が、日本でも今冬に劇場公開されます。

新たな環境に身を置かなければならない時は、誰もが不安に駆られてしまうもの。そんなときに少しだけ勇気を出せる、そんな映画です。

(松崎 健夫 : 映画評論家)