下請けいじめ?243回タダでやり直し...VTuber業界の実態は?2Dモデラーの九条ゼロ氏「胸を不自然なくらい揺らして欲しいと…」
かわいい、かっこいい魅力的なアバター姿でリスナーを楽しませる「VTuber」をめぐり、先日ある騒動が起こった。問題となったのは、VTuberの大手事務所「ホロライブ」を運営する「カバー」が、23の下請け業者に対して行った“無償でのアバター修正”。
【映像】「胸の揺れをバインバインに…」九条ゼロ氏の“やり直し”経験
髪の毛の揺れや、動きのなめらかさなど、発注時には明確にされていなかった事柄について、2022年4月から2023年12月にかけて、合計243回にわたり無償で繰り返しやり直しを依頼したとのこと。下請け業者の8割はフリーランスだった。
さらに経費処理を忘れ、指定期日までに代金を支払わなかったケースも発覚。これを受けて公正取引委員会はカバーに対し、下請法違反を認定し、是正勧告・指導する事態となった。カバーは「従業員の採用をはじめ、取引フローの見直し、社内研修における社内周知等、社内体制の刷新を進める」とした上で、「本勧告等を真摯に受け止め、責任を痛感しております。(中略)当社としてはクリエイターの皆様や各お取引先様との取引を円滑かつ安心して進められるよう体制を整えていく必要があると考えております。引き続きコンプライアンスの強化と再発防止に向け、改善を図る方針でございます」と発表した。『ABEMA Prime』では、VTuber業界のリアルと今後を考えた。
■VTuber業界の実態
VTuberの体を動かすシステムを作る「モデラ―」でもある、VTuberの九条ゼロ氏は、業界の実態について「修正依頼は当たり前にある。私も元々無償で修正していたが、キリがなくなって、他の依頼にも響いてくるため、『3回まで無償、それ以上は有償』と料金表に書くことにした」。
VTuber企画専門のプロデューサーであるuyet(ユエット)代表取締役の金井洸樹氏は、「事前に回数の上限について話をしていなければ、10回程度の修正はあり得る」とした上で、「なるべく往復回数を減らす方が楽なため、まとめて修正箇所を伝えることが多いが、『なんか違う』と具体的でない修正もあるのではないか」と述べる。
九条氏は自らが経験した「やり直し」の中には、依頼者から「胸を不自然なくらい揺らして欲しい」と頼まれ、希望に近づけようと4度修正したところ、「友達に変だと言われた」と言われ、元に戻したケースもあったという。
VTuberを作るためには、声を担当する「中の人」と、ビジュアルを描くイラストレーター(通称「ママ」)、そしてモデラー(通称「パパ」)の仕事が必要となる。「イラストは細かいパーツでわけられている。目だけでも、白目と黒目、上下のまつげとわかれたパーツのイラストを受け取り、専用のソフトに取り込む」。
ソフト上では「イラストに細かい点を置き、それを線でつないで、メッシュ状にしていく」といった作業を行う。「かなり細かくて、集中力が必要だ」。そして、動けるアバターが完成する。「カメラに向かって話すと、目や口、頭の動きにあわせて、イラストが動く。これを“トラッキング”と言う」。
今回のカバーのようなトラブルが起きる背景には、「専門の会社もあるが、ネット上で活動してる個人クリエイターがほとんど」という現状があるという。「個人クリエイターが、タレント事務所と直接契約を結んだり、個人VTuberから依頼を受けたりする。詳しい人が間に入らないと、問題が起きやすい」と、金井氏は指摘する。
とくにネックになるのが「個別契約」だという。「タレント1人について、イラストレーターとモデラー、グッズ用のイラスト作成も外注するなど、1つの事務所が依頼するクリエイターが多い。純粋に契約している相手が多いと、トラブルは起きやすくなる」。
■「オタクの世界だから、本当にこだわるからこそファンがつく」
無償修正発注について、“大手”の影響はあるのか。九条氏は「自分もカバーからなら考えてしまうかもしれない」というほど、大きな実績・名刺になると語る。また、新業界のため、契約・法律面で手探りのクリエイターも存在するという。金井氏は「大企業→大量のフリーランス」という特有の契約状況と、「好きだから仕事を受けている」という人もいると話す。
九条氏は「この業界で“事前ヒアリング(契約の取り決め)”はあまり聞かない」と商慣習を明かす。「言っても伝わらない気がする。イラストを見て、『この動きが似合うだろう』と考える。私は制作途中の動画を見せて、納品前の段階で相談する」。修正を“3回まで無償”としたのは、同業者からのアドバイスだった。「制作期間約1週間のモデリング作業で、1作品の価格は20万円に設定している。修正については3回までは無償で行う。それ以降は1回あたり5000円としている。中には1日で終わる修正もあれば、数日かかる場合もある」。
金井氏は「後から対応可能な修正もあれば、内容は軽くても、手順を戻す必要があると大変になる。“情報の非対称性”があって、発注者と受注者の『これはいける』『難しい』にズレがある」と説明する。
これらの背景を聞いて、起業家で投資家の成田修造氏は「依頼者がデザイナーでないと、難易度もわからないまま、ざっくりとお願いするのだろう」と考察する。「アニメやゲーム業界に近い。キャラクターとコンテンツ、ストーリーを作るチームがわかれている。依頼者に“作れるスキル”があれば成り立つが、専門集団をコントロールするのは難しい」。
QYResearch「Vtuberの世界市場レポート2023-2029」によると、世界のVTuberトップ5プレイヤーは、2023年時点でトップがANYCOLOR(にじさんじ)のシェア19.78%。以降はCOVER Group(ホロライブなど)の18.30%、Bilibiliの7.10%、774 incの1.17%、Re:AcTの0.77%と続く。
成田氏は「オタクの世界だから本当にこだわる。こだわるからこそファンがつく。だからカバーや、にじさんじは支持者も多く、伸びている」としつつ、「巻き込まれるクリエイターさんはかわいそうだなと思うものの、やはり伸びている会社はその分お金も良くて、実績も付く」ような構造があるとの考えを示す。
■「(VTuberは今後)日本でも海外でも、まだまだ伸びる」
金井氏によると、VTuber業界は「こだわりを持つクリエイターが支えている。いいものを作りたい気持ちは一緒だが、契約などの面で、途中経過なところが多々ある」のが現状だという。
九条氏も事前に動きを伝えてもらえれば、こちらも助かる。依頼者は初めて頼むため、わからないことも多く、だからこそ後から言う。『わからないこと』もふくめて、先に言うスタイルが広まったらいい」と願っている。
11月1日から施行された「フリーランス新法」による変化はあるのか。「依頼者が発注するとき用のテンプレートを準備している。きちんと契約していけば、トラブルも減っていくのではないか」。
市場規模そのものは、どうなるのだろう。金井氏は「世代的なボリュームゾーンは、18歳から35歳と言われているが、その下にも伸びている。YouTubeやTikTokの切り抜き動画で、頻繁にVTuberがサジェストされる人も結構いる」と説明する。
グローバルインフォメーションの調べによると、世界的なVTuber市場は2023年の約1911億円から、2029年には約7214億円になると予測されている。しかし、国内有数のVTuberプロダクションであるANYCOLOR(「にじさんじ」運営)の業績を見ると、2025年4月期第1四半期は、前年同期比で売上高が16.9%減少、営業利益が33%減となった。
「足踏み」や「頭打ち」との意見もあるが、九条氏は「全然そんなことはない」と前向きだ。「VTuberが出てきたときは、物珍しさで盛り上がった。今は浸透して、“文化”になりつつあるだけだ」。
金井氏も「日本でも海外でも、まだまだ伸びる」と考えている。「大きな事務所は、テレビ番組を持ち始めている。個人で活動していても、国の省庁と仕事をするVTuberもいれば、ロケット発射の実況や、選挙特番をやっている子もいる。いままで活躍の幅は、芸能に絞られていたが、他にも広がっていくと、成長の余地はある」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)