【おむすび】物語はついに阪神・淡路大震災を描く…リアルな震災描写の裏にスタッフの強い「覚悟」 1年以上、愚直に重ねた当事者取材
放送中の連続テレビ小説『おむすび』(NHK総合ほか)第5週「あの日のこと」では、結(橋本環奈/少女時代:磯村アメリ)とその家族が9年前に被災した阪神・淡路大震災が描かれている。本日放送された第22回では、聖人(北村有起哉)が理髪店を営み、結たちが暮らした家が倒壊していた。さらに、歩(仲里依紗/少女時代:高松咲希)の親友・真紀(大島美優)が亡くなったことが知らされた。
本作のスタッフは1年以上の取材期間を費やし、多くの被災者、関係者、専門家に話を聞いたという。「制作陣一同、覚悟を持って描いた」という震災の描写について、第5週の演出を担当した松木健祐さんに聞いた。
震災のことは当事者にしかわからない。だから「わからない」ことに向き合い続ける覚悟で
「阪神・淡路が起こったとき、私は福岡に住む小学校3年生でした。震災に関しては、高速道路が倒れている映像をテレビで見たぐらいの記憶しかなく、そういう人間が向き合うのが、なんだか申し訳ないと思いながら制作していました。震災のことは、被災した当事者にしかわかりません。だから私たちは『わからない』という視点を大切にしながら、『わからない』ということに向き合い続ける覚悟で、スタッフ・キャスト一丸となって挑みました」
「被災した方々はもちろんのこと、震災考証の室粼益輝さん、避難所の管理に当たられていた学校の先生、市役所の職員さん、地域のリーダーの方など、さまざまな立場の方たちに、とにかくヒアリングをしました。避難所の管理をされていた方たちには、実際に撮影現場に来ていただき、スタッフ一同で取り囲んでインタビューをしたんです。『今は、地震発生から1時間後です。この時間帯の避難所の状況はどうでしたか? 3時間後はどうですか? カーテンは開いていましたか? ストーブはありますか?』など、細かく刻んだ時系列で聞いていきました。資料もたくさん読み込みましたが、やはり文献で全てがわかるようなことではないので、とにかく愚直に取材を積み重ねていきました」
震災後生まれの橋本環奈が悩みながら結を演じる。それがこのドラマを作る意味
松木さんによると、震災発生直後の資料や映像は非常に少ないのだという。実際に当時避難所で被災者のケアに奔走した方々にこうして事細かに取材したからこそのリアリティが、月曜放送の第21回と本日放送の22回の避難所のシーンに表れていた。当事者に取材を重ねた中で驚いたことは? と尋ねると、松木さんは、
「私は、被災した皆さんはショックを受けて暗い顔でうなだれていたり、泣いていたり悲鳴が上がったりしているのかと想像していました。でも実際は、地震発生直後は皆さんある種の興奮状態で、思い思いにおしゃべりをしていたという話を伺って、『なるほど、そうなのか』と思いました。避難所のシーンにはこうしたことも反映しています。それから、食料配給の遅れ。多くの皆さんが地震当日は水さえ飲めなかったとおっしゃっていました。翌日にやっとバナナが1本配給されたというような話も多くて。当日におむすびが配られた第21回・22回の描写について、『うちの避難所には来なかった』とおっしゃる方ももちろんいらっしゃると思いますが、ドラマのなかではギリギリ子どもとお年寄りは食べられるような状況であったという設定にしました」
と明かし、さらに、米田家の人々の役割についてはこう語った。
「『おむすび』は、震災から9年が経ったタイミングで米田家の人たちがそれぞれにその経験を振り返り、向き合うという物語になっています。主人公の結だけでなく、姉・歩、父・聖人、母・愛子(麻生久美子)、それを見守る祖父・永吉(松平健)、祖母・佳代(宮崎美子)と、それぞれの視点を描きました」
「取材をして痛感した『同じ時を過ごし、同じ震災を経験しても、それぞれ違う視点があり、思いがある』ということを、米田家の人々に託しました。また、今回とても感慨深かったのは、結を演じる橋本環奈さんが震災後に生まれた方であるということです。震災後生まれの橋本さんが、一生懸命悩みながら震災のことを語ろうとする姿に、撮影していてとても胸を打たれましたし、それこそが今このドラマを作る意味だとも思いました」
9年間を費やして、ようやく震災の話ができるようになった米田家の人々。これから彼らが「心の復興」を遂げていく物語を見守りたい。
(まいどなニュース特約・佐野 華英)