川辺駿が見た日本のサッカー環境【写真:徳原隆元】

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川辺駿が見た日本のサッカー環境は「かなり整っていていい」

 J1リーグ第34節を終えて首位に立っているサンフレッチェ広島で、シーズン後半戦の躍進を支えている1人が、今夏に欧州でのプレーから復帰したMF川辺駿だ。

 スイス、ベルギーで3シーズンを過ごしたが、日本と欧州におけるチーム内での評価や信頼の勝ち獲り方、そしてホームとアウェーにある意外な部分での差を話した。(取材・文=轡田哲朗/全4回の3回目)

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 川辺は地元・広島の出身で下部組織から育ってトップチーム昇格。ジュビロ磐田への期限付き移籍も挟みながら活躍してきた。2021年夏にスイス1部グラスホッパーへ移籍すると2シーズンを過ごし、ベルギー1部スタンダール・リエージュでも1シーズンを戦って今夏に広島へ復帰した。スイス、ベルギーでの3シーズンすべてでレギュラーを獲得してフル稼働し、中盤の選手としては十分な数字と言える7ゴール、9ゴール、7ゴールとコンスタントに結果を残してきた。

 川辺は「1点を取るごとにチームから、特に選手は信頼をもろに表現してくれる」と、ある意味では分かりやすい部分があったという。そして「監督もそうだったけど、活躍すればするほど信頼されていって、自分もそれに応えたいという思いでの相乗効果で良くなっていったと思う。走ればボールが出てくるし、信頼している選手しか見ていないと感じた。だからこそ最初は信頼を得るまでが大変だったけど、それはボールが出てこないとかでなく、ボールは出てくるけど、信頼している選手のほうがもっと来るというイメージですね。信頼をされるようになってからが楽しいではないけど、ポジションも1つ前のインサイドハーフやトップ下だったので自由にやらせてもらった」と話す。

 一方で、必ずしもすべてにおいて“欧州が上”というわけではないとの印象を口にする。特にスタジアムでの環境面は、日本と欧州の間に違いがあると話す。

「サッカーで言えば日本の環境は整っていて、だいぶいいと思う。ヨーロッパのトップクラブに行けば差はないかもしれないけど、ある程度のクラブは、環境が整っていないわけじゃないけど、日本ほど整っていない。用具や芝生など選手をサポートするような環境が日本は手厚いと思う。ただ、リエージュはすごく整っていた。国内でもビッグクラブですから。でも、アウェーに行った時のロッカールームは違いましたね。ホームチームはいいけど、アウェーチームのものはすごく簡易だったりする。そういう環境もあっちでは当たり前だと思う。それもまた自分が経験して成長できた、鍛えられた部分だった」

スイスではアウェーの洗礼も経験

 日本ではスタジアムの構造的にホームとアウェーのロッカールームに差があることは少ない。また、アウェーチームが不便に感じないようにホームチームが協力する姿勢を見せ、お互いにいい環境を作り合うところがある。しかし、欧州では「アウェーの洗礼」を設備の部分から浴びせられるのが珍しくないという。

 スイスではFCチューリッヒとのダービーマッチに臨んだこともあった川辺だが、「特にダービーなんかは自分たちがアウェーだなと感じる。家族には、来てほしくないくらい危ない。殺気立った雰囲気がすごくあったし、実際に危ないこともあった。サポーターから何か投げ込まれたり、汚いジェスチャーも普通の環境で。でも、面白かったですけどね。アウェーだと、活躍してスタジアム静かになる雰囲気がすごく気持ち良かった」と、安全性の部分で感じた問題と、選手として快感を得られる部分の両面について触れた。

 欧州移籍がステップアップを意味すると捉えられる日本サッカーの環境だが、経験者として川辺は「ヨーロッパに行っているたくさんの人が発信していると思うけど、キラキラしている部分は皆さんが得ている情報だけというか、活躍すればすごくキラキラしているけど、それ以外の部分はすごく大変なことも、孤独な時間もある。サッカーから頭が離れない時間もあって、試合や練習での悔しさもあるし、そういうのを経験しないと分からないこともたくさんあった」と実感を込める。

 それでも、「その悔しさや苦しさが大きい分、活躍した時の嬉しさ、ゴールやアシストですよね。そういう活躍の嬉しさはもう、今までにないくらいだった。それはヨーロッパに行かないと分からないのかもしれない」と話した。

 ただし、そこまで話したあとに、川辺は「苦しい時間のほうが多いと思うけど」とも苦笑いしながら付け加えた。

 良くも悪くも平等や公平性を重視する日本と、競争と格差が顕著でそれが当たり前の欧州。その差を経験することは、サッカー選手としても1人の人間としても深みを増すことにつながるはずだ。

[プロフィール]
川辺駿(かわべ・はやお)/1995年9月8日生まれ、広島県出身。広島ユース―広島―磐田―広島―グラスホッパー(スイス)―スタンダール・リエージュ(ベルギー)―広島。J1通算192試合15得点、J2通算33試合3得点、J3通算1試合0得点、日本代表通算6試合1得点。高いテクニックと豊富な運動量を誇るボランチ。2022年1月にはイングランド1部ウォルバーハンプトンと契約を結び、注目を集めた。(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)