シンガポール・チャンギ国際空港のターミナル間を結ぶ三菱重工製のAGT(記者撮影)

9月24日から27日にかけてドイツ・ベルリンで開催された国際鉄道見本市「イノトランス」では、ドイツのシーメンス、フランスのアルストム、中国中車といった車両製造の大手企業の展示が目立った。

日本勢も車両組み立てから電機品やインフラ製造まで30を超える企業・団体が出展した。日立製作所や三菱電機のように単独で大型のブースを構え、派手なディスプレイを施して客の目を惹きつける企業もあったが、日本鉄道システム輸出組合(JORSA)のパビリオンに共同出展した企業・団体もあった。

「AGT」で存在感

JORSAパビリオンは巨大なホールをほぼ丸ごと借り切り、フロアの中央はJORSAの商談スペース。それを取り囲むように16の企業・団体がブースを構える。フロアの制約上、独自ブースのような派手な展示はせずパネル展示にとどまるブースが多かった。

ただ、「イノトランスは新規の顧客獲得よりも既知の顧客との情報交換が主目的である」と話す企業担当者もいて、情報交換だけであればパネル展示で十分という判断なのだろう。

そんな中、パネルの前で足を止めた客に対してその内容をスタッフが一生懸命説明しているブースがあった。

「ブースは小さいが、意気込みではシーメンスやアルストムに負けていません」――。

熱を帯びた口調でこう話したのは三菱重工業の説明員である。同社はJORSAパビリオンに出展した事業者の1社である。

日本の鉄道メーカーというと、日立製作所、川崎重工業など車両製造を手掛けるメーカーか、三菱電機や日本信号など電機品を製造するメーカーがまず思い浮かぶが、三菱重工もかつては機関車や客車を製造していた。また、台湾の高速鉄道では日本連合7社のリーダーとして鉄道システムを構築している。

そんな同社は、自動案内軌条式旅客輸送システム(AGT : Automated Guideway Transit)の分野で大きな存在感を発揮している。

AGTとは、小型で軽量の車両がコンピューター制御による自動運転により専用軌道上にある「案内軌条」に従ってゴムタイヤで走行する交通システム。路面電車やバスでは輸送力が足りず、鉄道では輸送力が過多となる区間において、その中間の公共交通システムとして誕生した。日本では従来の鉄道と区別する形で新交通システムと呼ばれることが多い。

三菱重工が日本国内で手掛けたAGTの代表例としては東京臨海新交通臨海線「ゆりかもめ」、埼玉新都市交通伊奈線「ニューシャトル」などが挙げられる。海外では、香港、シンガポール、仁川、ドバイなど世界の主要国の空港において、ターミナル間の旅客輸送に用いられている。アメリカでもアトランタ、ワシントンDC、マイアミなど主要都市の空港で続々と採用されている。


2015年に幕張メッセで開かれた「鉄道技術展」の三菱重工ブースに展示された埼玉新都市交通「ニューシャトル」の車両(記者撮影)

「架線レス」の新システム

AGTは小型軽量車両を用いるため建設費を抑えることができ、ゴムタイヤを使用するため鉄輪と比べ急勾配でも走行できる。鉄道の勾配は最大でも2度くらいだが、AGTは10度の勾配でも走行可能である。しかも、ゴムタイヤは鉄輪よりも騒音レベルが小さいので住宅街でも走行できるという点も長所に加えられる。その反面、ゴムタイヤの摩耗が鉄輪よりも早いため、交換による維持費がかさむといったデメリットもある。

なお、AGTはバス以上鉄道未満の中規模輸送に適しているとされるが、マカオのLRTに導入された同社のAGTは東京メトロ丸ノ内線02系と同レベルの輸送力を持つ。逆に空港ターミナル間の旅客輸送に使われるAGTは都市を走るAGTと比べ定員が少ないが、コンパクトなニュータウンでの運行にも適している。

そして、「今回のイノトランスで初めて大々的に紹介します」と教えてくれたのが、「Prismo(プリズモ)」というシステムである。目玉技術は給電レールが不要となる「架線レス」の実現だ。

車両は新開発の蓄電デバイスが供給する電力で走行する。駅に停車すると、客の乗降時間内という短時間内に駅で急速充電し、次の駅に向かうための電力を確保する。給電レールが不要になったことも建設コストやメンテナンスコストの削減につながる。駅間が長ければ長くなるほどより多くの電力が必要となり、短時間で十分な電力をチャージできないかもしれないが、都市部や空港のターミナル間であれば駅間も短く問題なさそうだ。

そして、「架線レスによって建設コストを抑えることができるとともに、メンテナンスコストも減ります」と担当者が説明する。これが架線レスの最大のメリットである。

また、同社のAGTは国内、海外ともに軌道の両側の壁に取り付けられたガイドレールに車両の案内輪を押し当て、これに沿って進む「側面案内方式」が多い。この場合はガイドレールが2本ということになるが、今回、中央下部に1本だけガイドレールを設ける「中央案内方式」も新たにラインナップに加えた。

同社では過去に中央案内方式の実績もあり、「海外のお客様から1本のガイドレールシステムのご要望があり、レパートリーに追加した」としている。中央案内方式は軌道を小型化できるメリットがある。架線レスと組み合わせればさらに効果は大きくなりそうだ。

軌道の小型化で採用広がるか

軌道の小型化はほかにもメリットがある。従来の同社のAGTは最小曲線半径が30mだったが、これをさらに小さくできるのだ。

通常、AGTは道路の上などに建設されることが多いため、道路のカーブに合わせてAGTの軌道もカーブする。つまり、よりきついカーブにも対応できるようになるということだ。ブースに掲げられたパネルには「22.5m」という表示があったが、「現在開発段階であり、来年春以降に予定している正式発表の際には数値変更の可能性がある」という。


「プリズモ」を紹介するイノトランスの三菱重工ブースとスタッフ(記者撮影)

まだパンフレットもできあがっていない、誕生したばかりのシステムだけに、「営業活動はこれから」とのことだが、従来の鉄道よりも優れた点の多いシステムだけに、同社がAGTで実績をあげていない地域でも展開できる可能性がある。日立や川重といった伝統的な鉄道メーカーだけでなく、三菱重工の動向も要注目だ。


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(大坂 直樹 : 東洋経済 記者)