PS2を代表するホラーゲーム『サイレントヒル2』がフルリメイク。その魅力とは?(画像:『サイレントヒル2』公式サイトより)  

カルト的な人気を誇るホラーゲーム『サイレントヒル2』のリメイク版が2024年10月8日に発売された。本作は、2001年にPlayStation 2で発売された同名タイトルをリメイクした作品である。

ジャンルとしてはサイコロジカルホラーゲームとなる。不気味なクリーチャーが出てくるのは間違いないのだが、それ以上に心理的(サイコロジカル)な恐怖を描いている作品といえよう。

世界的な評価も高く、レビュー集積サイトMetacriticでは100点中86点を獲得。筆者も実際にプレイしてみたところ、「2001年あたりの独特の空気」を強く感じられる一作となっていた。

霧だらけの町で死んだ妻を探す物語


主人公のジェイムス。いまひとつ冴えない男で、歯並びが少しよくないところまで丁寧に描写されている(画像:『サイレントヒル2』公式サイトより) 

本作の主人公は、3年前に妻を失ったジェイムス。なぜか死んだはずの妻から手紙が届き、それに導かれてサイレントヒルという田舎町へと向かうことになる。

サイレントヒルの町は霧で満たされており、人影もなく奇妙な雰囲気が蔓延している。先が見えないなか歩みを進めたジェイムスは、おぞましい事態に遭遇することになる。

原作は、固定されたカメラからジェイムスを見て操作をするスタイル(昔の「バイオハザード」シリーズのような形式)だったが、リメイクでは肩越しに景色を見るカメラワークになった。

また、原作を壊さない形で要素が追加されており、道中の謎解きやエンディングが増えている。リメイクの方向性としては、原作を尊重しつつ現代風にするといったものだろう。


霧だらけのサイレントヒル。かつてはハード性能の限界もあってあえて周囲を見づらくしていたと思われるが、今回は霧をビジュアルのひとつとしてしっかり描写している(画像:『サイレントヒル2』公式サイトより) 

前述のように、本作はサイコロジカルホラーである。ジャンプスケア(急に大きな音を出したり、画面いっぱいに何かを出して驚かせる演出)は控えめで、雰囲気で恐怖を煽ってくるのが特徴だ。

リメイク版『サイレントヒル2』で特に秀逸なのが“音”である。聞こえてくる音は環境音のようでありながら、常に不安を煽る音が鳴っているのだ。

例えば、うなり声に聞こえるような風の音、何かのささやき声、何かがドアや床を叩く音など、常に聴覚から不安を覚えさせようとする。ヘッドホンで遊ぶべき作品といえよう。

原作から存在した「敵が近づくとノイズを発するラジオ」も健在である。これは敵に近づいているというヒントになるうえ、ホラーらしい雰囲気を演出する優れたシステムである。夜中に遊べば、常に背後に不安がつきまとっているような感覚を味わえるだろう。

『バイオ』フォロワーをあえて強調


リメイク版はヒントなどが充実しているが、それでも建物のなかをきっちり探索しなければ先に進めない(画像:『サイレントヒル2』公式サイトより) 

一方で、リメイク版『サイレントヒル2』を遊んで筆者が違和感を覚えたのが『バイオハザード』のフォロワーであることを強調している部分だ。

『サイレントヒル2』は明らかに、カプコンの『バイオハザード』シリーズから影響を受けている。前述の固定カメラもそうだし、奇妙な謎解き、アイテムのリソース管理(残数を気にしながらゲームを進める)といった部分も似通っている。

謎解きは特徴的なものが多い。鍵を探して行き先を見つけるというのは当たり前で、単なるアパートにも仰々しいメダルの謎解きがあるのだ。

サイレントヒルに到着したときも興味深い。ここで主人公のジェイムスは何をするのかというと、まず割れたレコードを探し、それを接着剤でつけて、続いてコインを探して、最後にジュークボックスにかけることでようやく次へ行けるのだ。

いかにもゲーム的であり、現実ではまずありえない奇妙な謎解きだ。これは怖さよりおもしろさが勝るので恐怖を演出するという意味ではノイズなのだが、しかし、リメイク版ではあえてそこが強調されているようだ。


近接武器、ハンドガン、ショットガン、ライフルと武器の種類は少なめ。クリーチャーの動きもすべて作り直されている(画像:『サイレントヒル2』公式サイトより) 

バトルにおけるゲームシステムも強化されている。本作はクリーチャーと戦うときに銃のみならず、鉄パイプなどの近接武器も存在する。リメイク版では近接武器が使いやすくなっているうえ、敵の攻撃をうまく回避しつつ、殴りまくって踏みつけるといったアクションができるようになっている。

不気味なクリーチャーをぶん殴って踏みつけるのは、スピード感ある演出もあいまって気持ちよいのだが、一方で心理的恐怖を忘れる瞬間でもある。

正直、私はリメイクで「ウォーキングシミュレーター」としての側面を強めるものだと思っていた。ウォーキングシミュレーターは名前のとおり、歩くことをゲームにしたもの。プレイヤーはただ歩くだけだが、それで世界を見て回ったりストーリーを追うことを楽しむわけだ。

実際、『サイレントヒル2』にもそういう場面があるし、本作を「ウォーキングシミュレーター」というジャンルの源流のひとつとみなす人もいる。何より、心理的恐怖を描くのであれば謎解きやバトルはもっと控えめでもよい。

にもかかわらず、なぜリメイク版ではそれを強調したのか。理由のひとつとして考えられるのは、本作を2001年のゲームであることを示すため、あるいは原作らしさを出すためである。

2001年の空気が詰まっている


敵を見つけても、戦う必要がなければスルーしたほうがよい、というのも『バイオハザード』を思い起こさせる(画像:『サイレントヒル2』公式サイトより) 

初代『バイオハザード』が発売されたのは1996年のことである。この作品はブームになり、3Dグラフィックを活用したホラーゲームが日本でも多くの人に認知され、さまざまな方向が模索される。

フォロワーである『サイレントヒル』シリーズは精神的な恐怖にフォーカスした。ジェイムスは妻を失っており、ほかの登場人物も不安や恐怖を抱えており、それがサイレントヒルという世界に反映されてしまうのである。

とはいえ、あくまで『バイオハザード』フォロワーなわけである。謎解きやバトルがなければ、当時あまり注目されなかった可能性があるだろう。

何より、このころからすでにウォーキングシミュレーターの芽生えはあったが、そういう言葉があったわけでもないし、何よりジャンルとして確立していたわけでもなかった。ゆえにリメイクでその文脈を汲み取ったのだろう。


ムービーはキャラクター同士が喋る会話シーンが多め。画的には退屈に見えるのだが、表情の描写が細かいので間が持っている(画像:『サイレントヒル2』公式サイトより) 

また、『サイレントヒル2』の心理的な苦しみの描写からも2001年という時代を感じられる。

現代は精神疾患がミーム化、つまり流行りのものとして消費される時代になっており、一部の層からある種のおしゃれさ・かわいらしさとして捉えられている節がある。そして、その態度はゲームにすらなっている。

もちろん、精神疾患をまじめに取り扱ったゲームもあるし、その描き方も多様化している。心の病に対する考えも今と昔ではいろいろな意味で大きく変化しているし、ゲームによるアプローチもいろいろと変わったわけだ。

『サイレントヒル2』では、霧に囲まれた重く苦しい田舎町で、冴えない人たちが自分の精神に悩まされている。ある者は親に関する悩みを抱え、またある者は自分の立場や容姿を受け入れられない。

その精神を詳細に描くことはしないが、雰囲気でそれを感じさせるのだ。彼・彼女らが語る言葉から全貌が明らかになることはないが、苦しみを抱えていることはよくわかる。リメイク版はキャラクターの表情も秀逸で、各人が抱える苦痛がまさしく顔に表れているかのようである。

『サイレントヒル2』で重要なものは何かといえば、その雰囲気であろう。リメイクで現代風にはなったものの、当時の空気をきちんと拾えているようだ。まさしく、2001年のサイコロジカルホラーを蘇らせた一作といえる。

(渡邉 卓也 : ゲームライター)