群馬県南牧村の長谷川最定村長。村で生まれ育ち、寺の住職も兼務している(記者撮影)

群馬県南西部の山間部に、国内で最も高齢化が進む村がある。65歳以上が人口に占める「高齢化率」が日本一高いまちとして知られる南牧村(なんもくむら)だ。9月末現在の高齢化率は68.2%に上る(過疎化が急速に進む村のルポはこちら)。

2014年、民間の有識者団体が将来の若年女性の人口減少率を予想したところ、30年間で50%以下に減少する「消滅可能性自治体」として全国ワースト1位の減少率(89.9%減)となり、今年4月の同様の再検証でも同じく最下位だった。実際にこの10年ほどの間に村の人口は500人超減少し、現在は1440人にまで落ち込んでいる。

10月1日に就任した石破茂首相は初代の地方創生担当相を務めた経歴もあり、地方創生交付金の規模を倍増するなど、地方創生を加速させる方針を明らかにしている。10月11日には、自身が本部長を務める「新しい地方経済・生活環境創生本部」を設置した。

日本で最も老いが進む過疎地はどのような問題に直面し、今後の地方創生に何を期待するのか。南牧村の長谷川最定(さいじょう)村長(71)に聞いた。

こんにゃく芋で栄えた豊かな村だった

――村長が南牧村で過ごした70年の間に、村はどのように変わってきたのでしょうか。

私が生まれた頃はこんにゃく芋の生産が非常に盛んで、高く取引されていた。戸当たりの農家収入は全国有数で相当高く、非常に豊かな村だった。

しかし1965年頃から農業の機械化が始まって品種改良も進み、値崩れが起きて、今までのように生活ができなくなった。私が大学生のときくらいから、農家を継いでもダメだということで、東京に行ったり、大会社に勤めたりと、だんだん転出が増えていった。

企業を誘致しようにも、道が非常に悪く、高速道路も完備しているような時代でなく交通網が悪くて難しかった。何とかやっている自治体と、うちみたいに人口が本当に激減しているところの違いは「地場産業」があるかどうか。でも、今から「南牧村といえば」というものを確立するのは至難の業だ。

――「平成の市町村合併」の時代には、隣町との合併の話もあったようですね。

隣の下仁田町と法定合併協議会で協議を終了し、議決して官報に載せるだけの段階までいったが、隣町で反対運動が起きた。下仁田にしてみたら、多くの貧乏人を抱えてどうするのかと。

他力本願ではないけれど、農業がダメになっても、ある程度スムーズに通勤可能な近隣に大きな労働力を吸収できる産業を持っている地域があれば、地場産業がなくてもやっていける。ただ、この村の努力ではどうにもならないのが現状だ。

今後広域連合や広域合併をやる選択肢はあると思うし、例えば、市町村合併で市になれば、市全体の高齢化率は下がり、財政面で有利になる部分はあるかもしれない。とはいえ現実にこの地域だけ見れば、それで人口減を食い止めて、高齢化率が下がることは考えられない。

――人口減少が急速に進む村の課題をどのようにとらえていますか。

大きく挙げると、地域のコミュニティ崩壊、将来を担う子どもが非常に少ないことが一番の課題だ。

村の行政区は15あり、もう少し小さい単位の分区が55ある。分区は少し前まで60あったが、住民が亡くなったり、子どものところに移ったりして、誰もいなくなった区もある。行政の役割を担うなり手がいなくて、コミュニティ崩壊が始まっている。お祭り1つにしても、今までだったらできていたことができなくなった。


群馬県南牧村役場に設置された、現在の村の人口を知らせるパネル(記者撮影)

私の頃は小中学生が2000人以上いたが、(今春に小中学校が統合する形でオープンした)義務教育学校は9年生まで全部合わせて20人しかいない。

村に3つある介護施設も、労働力として外国人を入れることに真剣に取り組んでいかないといけなくなる。役場の採用に関しても、私が役場職員であるときからを含めて採用に関わったこの15年くらいで、正式な新卒採用はいまだにゼロだ。

15年後の“安定”を目指している

――そうした中で、人口減少を食い止めることは可能なのでしょうか。

急に増やすとか、V字回復とか、この現状をすぐに挽回する手はどう考えてもない。この村がいちばん栄えた頃の状態に戻すのは無理だが、15年後くらいに(人口が)安定していける計画を立てて努力している。


過疎が進む村内の様子。日中でも人影はまばらだ(記者撮影)

村としてやっていける人口は現在の半分程度の700〜800人だ。これから年間だいたい60人くらいが亡くなり、人口ピラミッドの上部で1番ボリュームがある高齢者が間違いなくいなくなる。10年だと600人だ。

一方、年間の出生数はゼロだった時期もあったが、今は少し回復して2〜3人が生まれる。2.5世帯が年間平均で入ってきたら、15年後の人口は700〜800になる。そのための(移住定住促進)政策を今やっていて、現状では計画以上に達成しているが、これを絶対続けないといけない。

もともと出生の単位が少なすぎるから、われわれがやっていることは「化ける」可能性がある。外から移住する人はほとんど単身だったが、村で結婚して子育てするのが夢だという女性が2人いて、ともに外で男性を見つけて結婚し、村で子どもができている。微々たる数だけど、少し明かりが見えてきた。

あとはどうやって生活し、食っていくかだ。村で新しい住宅を作って、賃貸料が月2万4000円。村の支援も含めて安く生活できて、生活で困らないというのは大きい。(移住は)仕事とセットじゃないといけない。

――消滅可能性自治体や地方創生の話が出てきたのは2014年、ちょうど長谷川さんが村長になった頃でした。

(2014年の)5月1日に着任したが、ゴールデンウィーク明けに、「消滅可能性自治体」の話が出てきた。全国町村長大会の勉強会場に行ったら、「おお来たぞ、来たぞ」とみんながこっちを指差している。当時の新聞に、南牧村が「消滅可能性都市1番」と出ていた。

予想とそんなに狂っていないから、びっくりはしなかった。ただ、「どうせ消滅しちゃうんだ」と、これから努力しようというときに諦めムードに拍車をかけてしまうようで残念だった。


長谷川最定(はせがわ・さいじょう)/1953年生まれ。群馬県南牧村出身。大正大学卒業。南牧村役場職員を経て、2014年に南牧村長に初当選。現在3期目。寺の住職も兼務する(記者撮影)

――これまでの国の「地方創生」政策を振り返っていかがでしょうか。自治体が主体的に行う取り組みを国が後押しする、といった趣旨で進められてきたと思います。

地方創生の良かったところは、今まで過疎の村は努力していないからそうなった、という一般的な見方に対し、地方は地方で大変で、お金をある程度分配しないといけない、とお金がつくシステムが1つできたことだ。

例えば地域おこし協力隊の制度や、ふるさと納税みたいなシステムも出てきて、大変な地方が努力をすれば若干かもしれないけれど創生できるチャンスが出てきたのはよかった。それまで、「過疎対策」みたいなかたちで片づけられていたから。

国は交付金の制度設計の見直しを

――その後、地方創生の戦略を策定した自治体に交付金を出す制度が設けられ、今回誕生した石破新政権は予算規模を倍増する方針も示しています。

実際のところ、地方創生の交付金は使いづらい。全部が全部ではないけど、地方に任すと言いながら、任せて失敗したり、無駄にお金が使われたりしないように、国がコントロールしている。「これに当てはまるならいいけど、これから外れたらダメ」という縛りがハナから交付金にある。

要は、交付金(の使い道として)はハード事業がダメで、ソフト事業だと。だけど、村単位ではソフト事業は厳しく、基本的には村が必要とするのはハードがほとんどだ。地方創生だと、移住者が住むところがないといけないので、アパート形式のものを整備したり、交流したりするようなものを建てる必要がある。

(ソフトでいうと)この村は非常に観光が弱いが、これから立ち上げようにも、ノウハウがない。結局コンサルに頼まないと何もできないが、人頼みだとうまくいかないかもしれない。いきなりこの村を観光で生きる村に変えるわけにはいかないし、ソフトに金を使う意味があるのかと思う。

今まで箱物ばかり作るから箱物に頼らないように(ハードを作るな)と国が言うのはわかるが、ソフトで村は変えられない。交付金を倍増すると言われているが、もう少し手綱を緩めて、市町村に使い方を任せてもらいたい。最初から門前払いせず、こちらが提案すればメニューを作ってほしい。

――地方創生をコンサルに丸投げする自治体も多いという指摘が上がってきました。

ふざけていると思ったのは、いちばん最初に地方創生の将来計画を立てるわけだが、そのときに全国の多くの自治体がコンサルに頼んでいた。

うちもそうしないとやっていられないと言う職員がいたが、自分の自治体がこれからどう動くかを人任せにするのは許されるのかと思った。村を知らない東京のコンサルが出した計画でなく、ここに住む自分たちが将来のことを考えてやろうと言った。

画一的なメニューでは絶対失敗する

――前の岸田政権では「デジタル田園都市国家構想」がキーワードでした。情報通信技術を使って、都市と地方の格差をなくすという発想ですが、村のデジタル利活用はいかがですか。

まず引っかかるのは、「デジタル田園都市国家構想」という名前だ。南牧村は、田園でも都市でもないし、そんなもののメニューがこっちに合うわけがない。(群馬県の大都市である)前橋市や高崎市を目指しても意味がまったくないと思うが、みんな同じ所を目指せ、みたいなメニューが多すぎる。

ここは70%がお年寄りで、メールすら送れない人たちがいっぱいいる。例えば、過去にパソコン教室のようなものをやったときは、最初は100人も来たけど、1カ月経ったら2人しか残らなかった。

国も県もDXを進めているが、そもそも使おうとしない人が多い地域では、お金をかけてもたかだか1〜2割程度しか使わない。その人たちにお金を使うくらいなら、他の8〜9割の年寄りのためにシェアハウスでも建てることにお金を使いたいという話になる。

こういう町村でデジタル化を進めても難しいし、5年、10年先をみてデジタル化していくのは無理がある。そこを何としても目指せと言ったって、メニューが1個だったら絶対無理。「これじゃなきゃ認められない」という制約がもうマッチしていないし、絶対失敗する。

――これから他に、石破政権に期待したいことはありますか。

(役場の)職員は過去の半分になり、行政サービスが低下して、いざ災害が起きると困る。全国どこでも派遣するのは難しいとは思うが、自治体が要望したら国から職員を派遣してほしい。

市町村を信用できないなら、お金だけではなく、人を出してくれるシステムがほしい。直接頼もうとすると「すべて県を通してください」となるので、もう少し人的交流や話を気楽にできる体制がほしい。

(茶山 瞭 : 東洋経済 記者)