ある日突然不登校になった小2息子…新卒23歳担任が告白した「原因になったかもしれない」出来事

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日本の小中学校における不登校の生徒は約30万人と過去最多に。不登校の生徒数は10年連続で増え続けている。一方で、学校は不登校の生徒一人一人の理解や対応に追いついていないケースが多い。教師の人手不足や激務も深刻な問題だ。2021年の文部科学省の調査によると、令和3年の小・中学校の教師不足の人数(不足率)は、始業日時点で合計2086人(0.35%)、高等学校は、217人(0.14%)、特別支援学校は、255人(0.32%)。始業日に全国で2500人を超える教師不足が明らかとなった。このような環境で、不登校の子どもを持つ親は学校や教師に何を求め、どのように相談すればいいのか迷う。

さまざまな環境で悩み苦しむ子どもと親を、NPO法人『福祉広場』代表の池添素さんは支えている。不登校や発達障害の子どもと親にかかわり続けて40年。親たちに「素さんがいたから私たち親子は生きてこられた」と感謝される。

池添素さんに子どもの不登校の現状についてジャーナリストの島沢優子さんが取材し、具体的なエピソードと共にお伝えしていく連載「子どもの不登校と向き合うあなたへ〜待つ時間は親子がわかり合う刻」。過去の連載でも不登校になった子どもの親が学校とのコミュニケーションに悩み行動してきた様子をお伝えしてきた。第4回では、ある日突然不登校になった子どもの親が学校や教師へと話し合い考えたこと、子どもとの向き合って学んだことについてお伝えしていく。不登校児の親たちを勇気づけ、闇から救い出した言葉とは。

池添 素(いけぞえ・もと)

NPO法人「福祉広場」理事長。京都市職員として保育所や児童福祉センター療育課などで勤務した後、1994年に「らく相談室」を開設。2012年にNPO法人福祉広場へ移行し、相談事業を継続している。子育て相談、発達相談、不登校相談、ひきこもりや親子関係の相談など内容は多岐にわたり、年齢も多様な相談を引き受けている。著書に『ちょっと気になる子どもと子育て―子どものサインに気づいて』『いつからでもやりなおせる子育て―子どもといっしょに育ちを振り返る』『笑顔で向きあって−今日から始める安心子育て−』『子育てはいつもスタート―もっと親になるために』『いつからでもやりなおせる子育て第2章』(いずれも、かもがわ出版)『育ちの根っこ―子育て・療育・つながる支援』(全障研出版)『子どもを笑顔にする療育―発達・遊び・生活』(全障研出版)『連れ合いと相方―介護される側と介護する側』(共著=かもがわ出版)立命館大学産業社会学部 非常勤講師、京都市保育園連盟巡回保育相談員。

ある日突然不登校

小学2年生だった9月、ひとりっ子の息子アキラくん(仮名)は突然不登校になった。

前の日まで運動会でやるダンスの曲をかけてとせがみ、かけてあげると喜んでリビングで練習した。それなのに翌朝「学校に行きたくない」と渋った。

保育士として働くマサトさん(仮名)は「青天の霹靂(へきれき)でした。運動会を楽しみにしていたし、何の予兆もありませんでした」と明かす。その朝は妻が説得して登校させたが、翌日からは一日行かなかったり、2限目で家に帰ってきたりの息子を見守るしかなかった。理由が見当たらず、本人も口を閉ざすので打つ手がなかった。

困り果てたマサトさんがハッと思い出したのが池添さんだった。勤務先の保育園に巡回指導に来た縁で、池添さんの講演を聴いたことがある。連絡をし、妻とともに福祉広場へ。アキラの話をすると「今はゆっくりさせてあげたら」と言われた。専門的なアドバイスはなかったが、夫婦ともに前向きな気持ちに変われた。

――よう頑張ったんやな。えらいなあ。お父さん、お母さんもしんどいな。一緒に頑張ろうな――

親の自分たちに、いたわりの言葉をかけてくれた。

「あの言葉は救いでした。当たり前に聞こえますが、それを言ってくれる人は誰もいませんでしたから」とマサトさん。子どもの不登校に対し、親は責任を感じてしまいがちだ。マサトさん夫婦も、池添に話す前は息子の不登校を他人に言えなかった。

「でも、池添さんにかかわってもらうようになって、うちの子、実は家にいますと言えるようになりました。そこから勤務先など周囲の人たちに事情をわかってもらえたり、共感してもらえたんです。それまでは、息子のありのままの姿を認められなかったのかもしれません。親としてこうあらなくては、しっかりしなければと何か社会から要求されているように感じていました」

アキラくんに対して同様の態度だったことは否定できない。例えば「あれはできるけど、これはできへんな」と評価したり「準備したのか?」と行動を確認した。どこの親でも言ってそうではあるが「完璧でないといけない、みたいなストレスを無意識のうちに与えていたように思います」。

これについて池添さんは「子どもが行きたくないっていうことを、親御さんにどう理解してもらうかが大事なんです」と言う。学校に行きたくないという自分の気持ちを親に言えたことは「すごく素敵なことなんだって思ってほしい」。その意味で、息子の不登校を受け入れたマサトさん夫婦に対し、頑張った、偉いよとねぎらった。親を通して、子どもに「頑張ったね」と伝えているのだ。

「今思えば、僕ら親自身を受け止めて安心させてくれたんですね。一緒に頑張ろうなって、寄り添ってもらえたのも大きかったです」

対応を渋る学校

池添さんのアドバイスを受け、2年生の秋から学校に定期的に面談の場を持ってもらった。教員たちは「何とかして学校に来てくれたら」と言ったが、マサトさんたちは「息子が自分で行きたいっていうタイミングまで待ってあげてほしい」と伝えた。それでも「連れて来てくれたら、こちらでやります」と言いスタンスを変えなかった。

一方で、「教室以外でどこが登校できる場所はないでしょうか?」と尋ねても「それはないです」とにべもなかった。コロナによる混乱があったからなのか、保健室や別室での登校も許されなかった。

そのころ気になって受けさせた発達検査の結果は、学習面で少なからず配慮が必要な部分があった。発達障害に詳しい池添さんや発達の専門医らと連携を取ってもらえないか頼んだが、それについても学校は渋った。保育士のマサトさんからすれば、相談機関とスクラムを組みたがらない学校が不思議でたまらなかった。保育園ではすぐに専門家を入れて抜本的な解決を図るのが常だった。子どもファーストでない気がした。

逆に「学校に来させてくれないと、ねえ……」と子どもが来ないと何も出来ないと言いたげだった。また「お父さん、お母さんはどうしたいですか?」と聞くので「もちろん学校には行ってほしいし、行かなくていいなんて思っていない。息子も学校に行きたいとは思ってはいる」と伝えた。

アキラくんは学校には行けなかったが、祖母が送るなどして学童にはほぼ毎日通っていた。14時半ごろから17時まで友達と遊んだ。学童の職員には不登校や学習障害(LD)のことも伝え、手厚いサポートを受けた。放課後に「よく来たね」と笑顔で迎えてもらえた。

ターニングポイントになった担任の告白

マサトさんは学校に対し「学童には通えていますから、友達関係には何ら問題はありません。どこか学校に安心できないことがあるんだと思います」と訴え続けた。すると、3学期があと数日で終わるというある日、いつものように面談に参加していた担任が意を決したように口を開いた。

「あの……。僕がアキラさんをちょっと厳しく怒ったことがきっかけやと思います。そのせいで多分学校に行けなくなったというか、行きづらくなったんやと思います」

新卒で弱冠23歳の男性教員は緊張した面持ちで、およそ半年前の出来事を明かしてくれた。新任教員には指導担当の教員がつくが、ベテランの厳しい人だったようだ。したがってアキラくんの担任は心理的に追い込まれたようだった。うなだれたまま「(指導担当の)先生のようにしっかりとクラスをまとめないといけないと思って、厳しく指導をしてしまいました。それでこういうことになったんだと思います」と吐露した。学年主任など同席した教員らは全員、困ったように下を向いた。

マサトさんはこの担任の告白を好意的に受け止めた。

「そんなこと、普通は黙ってますよね。教職一年目の先生で、そんなふうに自分の非を認めるってよっぽど悩んだろうなと思いました。何というか、今の学校のあり方としてどうなのか。教員同士の関係性も含めて、そういった先生たちのストレスが子どもに影響を与えていることは否めないと感じました」

学校は特に行事を重要視する。学習効果として大切なのはわかるが、その出来栄えや子どもたちをしっかりまとめることに目をとらわれてしまえば、子ども一人ひとりの気持ちを感じ取ることがおざなりにならないだろうか。

「自分も先生という立場でやらせてもらってますけど、学校の先生たちだって決して子どもを恫喝したり、追い詰めたいと思っている人はひとりもいないと思います。つまり、自分のクラスから不登校の子を出してしまったとか、自分の責任だと思わせるような学校の職員体系を見直してほしいですね」(マサトさん)。

担任は、自宅に何度も来てくれたり、電話で連絡してくれたりと、アキラくんと一所懸命向き合おうとしてくれた不器用なところはあったかもしれないが、学校の教員文化の問題は小さくないようだ。

この日が、マサトさん家族にとってひとつのターニングポイントになった。

◇後編【不登校の小2息子に「欲しがるものすべて」与えていい?「子どもに寄り添う」本当の意味】では、担任の先生の告白を受けて、マサトさんが考え、行動したことをお伝えする。不登校後の息子の驚くべき変化とは。

不登校の小2息子に「欲しがるものすべて」与えていい?「子どもに寄り添う」本当の意味