『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』©︎ & TM DC ©︎ 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. IMAX(R) is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories

写真拡大

 映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』が史上まれに見る苦境に立たされている。10月4日に北米で公開された本作は、2度目の週末となった10月11日~13日の3日間で興行収入705万ドルを記録。初週末の興行収入3767万ドルと比較し、マイナス81.3%という大暴落となった。

参考:『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』北米No.1もなぜ“苦戦”? 興収と評価を真剣に分析する

 この数字は、スーパーヒーロー映画の集客力が衰えていると評価された、2023年の『マーベルズ』(2週目マイナス78.1%)、『ザ・フラッシュ』(2週目マイナス72.5%)を下回るもの。事実として、コミック原作映画としては歴代ワーストの結果となってしまった。

 北米興収は5161万ドル、海外興収は1億1370万ドルで、世界興収は1億6531万ドル。製作費は2億ドルと報じられており――もちろん、これを鵜呑みにするならばの話ではあるが――劇場公開での黒字化は絶望的だ。

 しかし、この結果が北米メディアやSNSでの異常なネガティブキャンペーンによってもたらされたことには触れておかなければならない。とりわけ大手メディアの論調は目に余るもので、公開前から「前作の興行収入には遠く及ばないだろう」という報道が広められ、公開直後には「初日の夜に観たけれど、客席は埋まっておらず、観客の集中力も低い」とする奇妙に主観的なレポートが執筆され(ふだん、記者が公開初日の様子を報告するような記事はほとんど掲載されない)、特に製作トラブルはなかったにもかかわらず、ジェームズ・ガン率いるDCスタジオと連携しなかったトッド・フィリップス監督や主演ホアキン・フェニックスの傲慢だと指摘するようなゴシップが掲載されたのだ。「製作費2億ドル」の報道も監督によって否定されているが、メディアはこのことを無視しつづけている。

 巨額の製作費を投じた話題作や、人気シリーズの新作が『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』と同等の結果に終わることは時々あるが、メディアからこれほどの逆風を受ける作品は、近年あまり見たことがない。北米で批評家や観客の評価が低いことは事実だが、少なくとも筆者には、この映画を「見るに堪えないもの」とする言説にはまるで賛同できないのである。あえて作品の諸要素を批判的に見るとしても、本作より試みが成功していない映画や、シンプルにクオリティが低い映画はたくさんあるからだ。

 幸い、本作は日本でも賛否両論となっているものの、ネガティブな言説が必要以上に喧伝されることはなくなっている印象だ。しかし北米では、作品に好意的な感想を持たないメディアや映画ファン・コミックファンによって、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の印象が悪い形で固定化されてしまった。同じく北米メディアでは、「評判がよくなかったから」という理由で劇場に行かなかった人の声も紹介されているが、そうした人々の動きは一連のネガティブキャンペーンに参加した人々が作り出したものだ。今後、コミックを大胆に再解釈する映画や、リスクあるアイデアに対してスタジオが高予算を投入する機会はさらに減ることだろう。それもまた、メディアやファンが望んだ結果である。

 本作の興行がふるわなかったことで、北米市場全体の週末興収は7460万ドルにとどまった。全米脚本家組合&全米映画俳優組合のWストライキの影響に業界全体が苦しんでいた、昨年の同週と比較してもわずか55%の数字である。昨年は『テイラー・スウィフト: THE ERAS TOUR』のヒットがあったとはいえ、この結果は映画産業にとっても大きな痛手だ。いったい誰がこんな事態を望んだというのか?

 『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』から週末ランキング首位を奪ったのは、人気スラッシャーホラー映画『テリファー』シリーズの最新作『テリファー 聖夜の悪夢』。北米2514館で週末興収1830万ドルを記録し、前作『テリファー 終わらない惨劇』(2022年)の世界興収1570万ドルを早くも上回るロケットスタートとなった。

 『テリファー』シリーズは殺人鬼アート・ザ・クラウンが巻き起こす惨劇を描き、途中退場者が続出するほどのゴア描写と、新たなホラーアイコンとなったキャラクターの人気で大きな支持を獲得。第3弾となる本作は、クリスマスを祝うマイルズ郡の人々を、アート・ザ・クラウンがまたもや恐怖と絶望のどん底に突き落とす。Rotten Tomatoesでは批評家スコア77%・観客スコア90%、出口調査に基づくCinemaScoreでは「B」評価という高評価を得た。

 低予算のホラー映画は、つねに思わぬヒットの可能性を秘めているが、『テリファー』シリーズの特徴は、興行的に有利な大手スタジオではなく、主にストリーミングサービスやWeb事業を展開するCineverseが配給を務めているところ。宣伝費を抑えてターゲットを絞り込み、SNSを通じたプロモーション戦略によって劇場動員につなげてみせた。

 前年のストライキ以降、プロモーションの予算を抑えることでスケールを小さくし、そのうえで「小さく稼ぐ」戦略はしばしばみられたが、本作はその進化系といえ、Cineverseは自社のホラーメディア「Bloody Disgusting」の読者や、配信サービスを使用するホラーファンに積極的にアプローチして、いわばファンダムの動員に成功した。事実として観客の反応は良いわけだから、「ジャンルやシリーズのファンを喜ばせた」という意味で『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』とは真逆を行ったことになる。

 しかし、ファンダム相手のビジネスに向かってゆく(そうせざるをえなくなった)映画業界が、さらなる活況と、文化としての広がりを生み出せるかどうか。今週の初登場作品には、ファレル・ウィリアムスの半生をレゴによるアニメーションで描いた『Piece by Piece(原題)』や、鬼才アリ・アッバシ監督が若きドナルド・トランプを描いた『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』があり、どちらも映画賞レースでの健闘が期待されているが、週末ランキングで前者は第5位、後者は10位と興行的にはやや厳しい。人気トーク番組の初回放送を描いた実話コメディ『Saturday Night(原題)』も拡大公開を迎えたが、公開規模に対して伸び悩んでいるのが実情だ。

北米映画興行ランキング(10月11日~10月13日)1.『テリファー 聖夜の悪夢』(初登場)1830万ドル/2514館/累計1830万ドル/1週/Cineverse

2.『野生の島のロズ』(→前週2位)1345万ドル(-28.8%)/3854館(-143館)/累計8373万ドル/3週/ユニバーサル

3.『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(↓前週1位)705万ドル(-81.3%)/4102館(変動なし)/累計5161万ドル/2週/ワーナー

4.『ビートルジュース ビートルジュース』(↓前週3位)705万ドル(-30.5%)/3408館(-168館)/累計2億7561万ドル/6週/ワーナー

5.『Piece by Piece(原題)』(初登場)380万ドル/1865館/累計380万ドル/1週/Focus Features

6.『トランスフォーマー/ONE』(↓前週4位)365万ドル(-32.2%)/2758館(-348館)/累計5285万ドル/4週/パラマウント

7.『Saturday Night(原題)』(初登場)343万ドル(+1167.7%)/2309館(+2288館)/累計418万ドル/3週/ソニー

8.『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』(初登場)300万ドル/1845館/累計300万ドル/1週/東宝

9.『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(再上映)(初登場)230万ドル/1700館/累計230万ドル/1週/ディズニー

10.『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』(初登場)158万ドル/1740館/累計158万ドル/1週/Briarcliff Entertainment

(※Box Office Mojo、Deadline調べ。データは2024年10月14日未明時点の速報値であり、最終確定値とは誤差が生じることがあります)

参照https://www.boxofficemojo.com/weekend/2024W41/https://variety.com/2024/film/box-office/terrifier-3-tops-box-office-joker-folie-a-deux-collapses-1236176346/https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/terrifier-3-box-office-joker-1236030807/https://deadline.com/2024/10/box-office-terrifier-3-joker-folie-a-deux-the-apprentice-1236113611/https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/joker-folie-a-deux-who-blame-dc-1236025585/https://variety.com/2024/film/news/inside-joker-2-opening-night-imax-screening-1236169047/(文=稲垣貴俊)