リンパ浮腫の日帰り手術も可能な「LVA手術」とは? 当日の流れと術後の注意点を解説
リンパ浮腫は、リンパ液が体内に滞り、手足が腫れる病態です。この症状に対する治療法として注目されているのが「LVA手術(リンパ管静脈吻合術)」です。一体、どんな手術で、どんな注意点があるのでしょうか? そこで、「LVA手術」について、銀座リプロ外科の永尾先生に、Medical DOC編集部が話を聞きました。
≫「リンパ浮腫」の原因・治療法を医師が解説 がん治療の後遺症で起こりやすいのはなぜ?監修医師:
永尾 光一(銀座リプロ外科)
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻した後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する。2009年より東邦大学医学部教授、2010年より東邦大学医療センター大森病院リプロダクションセンター長となる。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。日本泌尿器科学会専門医、日本生殖医学会専門医のほかに、日本形成外科学会専門医も取得しており、泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
リンパ浮腫とは? 医師が解説
編集部
リンパ浮腫とはなんですか?
永尾先生
白血球の一種であるリンパ球の通り道であるリンパ管やリンパ節などの組織の総称を「リンパ」や「リンパ系」と呼んでいます。リンパ系のうっ滞によって足がむくむ病態の一つがリンパ浮腫です。乳がんや子宮がん、卵巣がんなどの治療のあとに、リンパ液の流れが悪くなることで発生します。また、生まれつきのリンパ浮腫、原因がはっきりしないリンパ浮腫を生じる方もいらっしゃいます。
編集部
どのような症状が表れますか?
永尾先生
まず初期には張りや痛み、だるさなどを感じることが多くあります。これは手足がむくむよりも前に表れます。中期以降になると、手足が太くなり、倦怠感や熱感を感じることが多くあります。また、表れる症状は、朝が比較的軽く、時間とともに重くなっていくという特徴もあります。
編集部
リンパ浮腫が発生しやすい場所というのはありますか?
永尾先生
がん治療後のリンパ浮腫では、乳がん術後の場合は背中や二の腕、婦人科がん術後の場合なら太ももや下腹部など、リンパ節郭清(がんの周辺にあるリンパ節を切除すること)した部分の近くに起こることが多くあります。原発性リンパ浮腫や抗がん剤の影響が強い場合も、手や足からむくみ始める傾向があります。
編集部
リンパ浮腫を治療しないでいるとどうなりますか?
永尾先生
腕や足が太くなったり、皮膚が厚くなったり、皮下の脂肪組織が硬くなったりします。また、病状が進んでしまったら、治療してもなかなか元には戻りにくくなってしまうのも厄介なところです。また、リンパの流れが悪いことで、蜂窩織炎(ほうかしきえん/皮膚とそのすぐ下の組織に生じる、広がりやすい細菌感染症)などの感染症を引き起こすこともあります。
リンパ浮腫の治療は?
編集部
リンパ浮腫の治療にはどんなものがありますか?
永尾先生
リンパ浮腫には保存的治療と、外科治療があります。非常に早期のリンパ浮腫であれば、保存療法のみで改善することも期待できますが、それ以降の場合は外科治療を導入する前提で保存的治療に取り組んでいただくことになります。外科治療の効果を十分に得るためにも、適切な保存的治療や日々のケアの方法を知っておくことはとても大切です。
編集部
まず保存的治療について教えてください。
永尾先生
保存的治療の基本は複合的理学療法と呼ばれ、4つの主要素「スキンケア、医療リンパドレナージ(マッサージ)、圧迫療法、運動療法」を個別の症状に応じて実施します。圧迫療法については、医療機関が開発した、リンパ浮腫専用の下着や靴、ストッキングなどがありますので、興味のある方は調べてみてください。基本的には、それを就寝時以外は装着したまま過ごす必要があります。多くの医療機関で各種メーカーのものを揃えており、専門のスタッフがフィッテイングや履き方指導も行ってくれるところがほとんどだと思います。夏の暑いときに着用できずに症状を悪化させてしまう方が多いので、その様な悩みがある場合は医師に相談するようにしてください。また、下肢リンパ浮腫の方で、パンプスやスニーカーなど履ける靴がないというお悩みの方も多くおられます。その様な方に、見た目も普通で、通勤や外出時にはいても違和感のないという靴が出ていますので、こちらも興味のある方は調べてみてください。運動療法は、特別なことをする必要はありませんので、自宅で毎日適度な運動を心がけるようにしましょう。運動をするということは、脂肪を燃焼し、筋肉でポンプ機能を維持するためにとても大切なことです。できれば、一日に5000歩以上は歩くように心がけるようにしましょう。定期的なドレナージも推奨されています。
編集部
外科治療にはどんなものがありますか?
永尾先生
「顕微鏡下リンパ細静脈管吻合術(LVA)」という手術があります。リンパ管を道路に例えると、道路が渋滞しているのがリンパ浮腫なので、バイパス道路を作るようなイメージです。手術は顕微鏡下で行われ、直径0.5mm前後のリンパ管と皮下静脈を吻合(ふんごう/ぴったり合わせること)し、リンパ液の通り道(バイパス)を作成します。ほかには、やや侵襲の大きい手術として、リンパ節移植術(LNT)や脂肪吸引術(LS)などもあります。
LVA手術の流れが知りたい 注意点も教えて
編集部
LVA手術をする場合、どんな流れで行われますか?
永尾先生
術前検査や説明は外来で事前に行いますので、LVA手術のみであれば、特に入院の必要はありません。手術は局所麻酔で、2~3時間で終了します。皮膚切開したところに防水テープを貼り、弾性ストッキングやスリーブまたは弾性包帯で圧迫をしたあとは帰宅できます。
編集部
手術をするにあたって、注意点などはありますか?
永尾先生
繰り返しになりますが、手術をするといっても、指示された保存的治療や生活指導などはしっかりと行っていただきます。手術すれば全て解決というわけではないので、ケアを怠らずに続けましょう。
編集部
具体的にどんなことに気をつけたら良いでしょうか。
永尾先生
まずは体重のコントロールです。体重の増加は、ただ単に脂肪がついて腕や脚が太くなるというだけでなく、リンパ管がリンパ液を運ぶ能力にも悪い影響を及ぼします。また、筋肉のポンプ機能は静脈の血液が心臓に戻ることを助けますので、適度な運動もとても大事です。もうひとつは、感染対策です。リンパ管やリンパ節は免疫に大きくかかわっているため、リンパ節を切除すると、免疫機能が落ちている可能性があります。手術した側の腕や脚に傷をつけない、例えば排水口の掃除では手袋をする、水虫などに特に注意するなど、日ごろから細菌の入り口とならないように注意することが大切です。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあればお願いします。
永尾先生
リンパ浮腫は早期に診断し、ケアや治療を開始することが大事です。軽症から中等度であれば日帰り手術も可能ですが、進行してしまうと日帰り手術が難しくなってしまうこともあります。思い当たる症状のある方は、ぜひ早めの受診や検査をお勧めします。
編集部まとめ
LVAはリンパ浮腫に悩む方々にとって効果の高い治療法であり、日帰り手術が可能な点も魅力です。しかし、術後の注意点を守ったり、術後のケアを続けたりすることも非常に重要とのことでした。リンパ浮腫の症状を軽減し、進行を予防し、生活の質を向上させるために、専門医と相談しながら最適な治療法を選びましょう。
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