大谷翔平いざ世界一へ! ドジャース番米国人記者が明かすMVP、ベンチ裏秘話から真美子夫人、自宅放映騒動まで…
メジャー史上初の「50-50」を達成するなど“MVP級”の活躍の大谷(写真・共同通信)
ドジャースの大谷翔平(30)の勢いはどこまで続くのか。2023年秋に、右肘靭帯の修復手術を受け、今季は打者に専念したことで、スピードという新たな武器が開花。9月20日のマーリンズ戦で、メジャーリーグ史上初の「50(本塁打)-50(盗塁)」を達成すると、レギュラーシーズン2試合を残した時点で、その数字を「53-57」にまで伸ばしている(成績は9月28日時点、以下同)。
エンゼルス時代はポストシーズンとは無縁だったものの、ドジャースに移籍し、メジャー7年めにして初めて悲願の地区優勝&プレーオフ出場権を手にした。大谷が最終目標とするワールドシリーズ制覇への道はまだ長いが、10月2日(日本時間、以下同)にスタートするポストシーズンを前に、ドジャースに密着取材する2人の米国人記者に、今季の大谷の秘話とプレーオフの行方について語り合ってもらった。
――まずは、大谷の「50-50」達成について。記録を達成したマーリンズ戦は、6打数6安打10打点の大爆発だった。
ビル・プランケット(以下BP) 相手がナ・リーグ勝率最下位だったとはいえ、6安打、3本塁打、10打点、2盗塁とはね。6回に49号を打った後、ファンは空席が目立った右翼席に移動し、50号を打った7回には、ものすごい数の人が右翼席で記念球を手にしようと待ちかまえていた。
ジャック・ハリス(以下JH) 結局、打球が飛んだのは左中間だったけどね(笑)。
BP 私なら左中間で待ちかまえていたかな(笑)。それが、本来の彼の本塁打の打球方向だからね。
JH ドジャースが「30万ドル(約4300万円)でボールを譲ってくれ」とオファーしたけど、キャッチしたファンは断わったみたいだね。オークションにかければ、もっと値がつくと考えたんだろう。
結局、大谷の50号のホームランボールはオークションに出品され、最低入札額50万ドル(約7250万円)、即決価格450万ドル(約6億5300万円)と設定された(入札期間は10月10日まで)。
■満票のMVP獲得でも驚かない成績
――今季、大谷は打者に専念し、打率.309、54本塁打、130打点、57盗塁という数字を残している。シーズンを通したパフォーマンスは、どう評価する?
BP 40-40は狙っていると思った。キャンプの時点で走塁に力を入れていたからね。でも、50盗塁は予想していなかった。50本塁打も怪我さえなければと思っていたけど、実際に達成すると驚きだ。
JH 今季は打者に専念するから、ある程度は数字がよくなると予想はできた。でも、投手をやっていないことで、ルーティンが崩れるからどうなるかなということも考えた。しかし、三冠王争いをするなんて素晴らしかった。
BP 来季も狙うかもね。投手として復帰するから、体力を温存しなければいけない。そのぶん、盗塁は減るかもしれないけど、打者としての技術は9月に入ってまた上がったように感じる。盗塁についてつけ加えると、彼は今季ほとんど失敗しなかった。走塁技術そのものも高いが、投手のモーションを読むのがうまく、配球も読んでいる。
JH 盗塁に関しては、2023年の大幅なルール改正で投手の牽制が制限され、ベースのサイズが大きくなり塁間が約11.4センチ短くなったという見方もある。確かに、昨季からリーグ全体で企図数も成功数も増えた。まあ、大谷には関係ないと思うけど。
――エンゼルスからドジャースへ移籍し、ア・リーグからナ・リーグへ戦いの場を移したが、リーグをまたいでの2年連続3度めのMVP受賞の可能性についてはどうか? 過去DH(指名打者)がMVPになった例はないというデータもある。
BP 「守備についていない」という人もいるけど、大谷の走塁も含めたオフェンスの成績は、ナ・リーグでは断トツ。メッツのフランシスコ・リンドーア(打率.273、31本塁打、86打点)はショートであり、オフェンスとディフェンスを合わせれば「総合力で貢献度は大谷を上回るのでは?」という指摘もあるけど、オフェンスでの差があまりにも大きすぎる。また、彼はシーズン終盤を怪我で欠場したから、その点でもほぼフル出場している大谷にはかなわない。
ブレーブスのマルセル・オズナ(打率.308、39本塁打、102打点)は、大谷と同じDH。ダイヤモンドバックスのケテル・マルテ(打率.292、35本塁打、93打点)は一時、三冠王を狙えるのでは、というところまで数字を上げたけど、8月中旬過ぎから足首を捻挫して2週間ほど休んだ。ライバルが次々と脱落し、大谷だけが残った。50-50のインパクトもあるし、もはや満票でも驚かない。
JH そうだね。DHがMVPに選ばれるなら、ほかの選手よりも成績がちょっといい程度では無理だ。突出した数字を残さないと。ただ、大谷の数字は突出どころではない。
――一方で、プレーオフに向けて、ドジャースはとくに先発投手に不安があるとされる。
JH 本来であれば、先発はタイラー・グラスノー(9勝6敗)、山本由伸(6勝2敗)、ジャック・フラハティ(13勝7敗)、必要なら4番手はウォーカー・ビューラー(1勝6敗)だったけど、グラスノーが右肘捻挫で今季絶望。山本は右肩の腱板損傷から復帰したばかりで、復帰戦はよかったけど、その後はピリッとしない。フラハティは相手の打順が3巡めになると崩れる傾向がある。おそらく先発の1番手はフラハティだが、投げてみないとわからないという点で不安は大きい。
BP プレーオフでは、必ずしも長いイニングを投げる必要はない。ドジャースの場合、先発が5回まで投げてくれたら、あと12個のアウトをリリーフでカバーするというのが近年の戦い方。ただ、そのリリーフも心配だけどね。
■打ち勝つには五番以降の打線が鍵
――ドジャースはシーズンを通してクローザーを固定できなかった。
JH そもそも、それをまっとうできる投手がいない。エバン・フィリップス(4勝1敗18S、防御率3.69)が候補だったけど安定感に欠けた。7月にホワイトソックスからマイケル・コペック(6勝8敗15S、防御率3.51)がトレードで加入以来、いいピッチングを続けていた。だが最近は制球が安定せず、三振を取れるのは魅力だけど、3連続死球も考えられる。彼にクローザーをまかせるのは怖い。
BP 仮にクローザーを固定しても3連投、4連投になる可能性もある。やはり固定は難しかった。
JH 今季は先発が不安定だったこともあって、リリーフ陣の多くの選手が登板過多になっていた。それが原因で、負傷者リストに入った投手も少なくない。プレーオフでは連投が多くなり、勝ち進むに連れてどんどん疲弊していくことも考えられる。
――投手陣が厳しいなら、打ち勝つしかない。
JH “MVPトリオ”の大谷、ムーキー・ベッツ、フレディ・フリーマンはいい。四番のテオスカー・ヘルナンデスも勝負強い。でも、今季はウィル・スミスが不振だし、マックス・マンシー、ギャビン・ラックスも期待したほどではない。結局、打ち勝つには五番以降がある程度働いてくれないと限界がある。
BP 昨季のプレーオフでは、ベッツ、フリーマンが完全に抑え込まれ、ナ・リーグ地区シリーズでダイヤモンドバックスに3連敗した。やはり、オフェンスに頼る戦い方は、リスクが高い。
JH 大谷が、初めてのポストシーズンでどんなプレーをできるのか。そこも未知数といえる。相手は徹底的にマークしてくる。大谷は8月までは、得点圏であまり打てていなかった。ポストシーズンに入れば、レギュラーシーズン以上に、相手投手は大谷へのマークを徹底するだろうね。左投手なら高めのまっすぐでカウントを稼いで、外角低めのスライダーで仕留める。ボール球に手を出さず我慢できるかどうか。
BP 確かに、大谷は初めてのプレーオフだし、エンゼルス時代はプレッシャーのかかる試合を一度も経験していない。WBCで優勝した経験はあるけれど、ポストシーズンのプレッシャー、投手の本気度の差は比較にならない。
JH 9月23日のロッキーズ戦では、1点ビハインドの9回、大谷が同点弾を放ち、ベッツがサヨナラ本塁打を放ったけど、あれはこれまででいちばんプレッシャーのかかる場面で結果を出したケースだったかもしれない。
BP あの試合を含めたそれまでの8試合は、36打数18安打(打率.500)、6本塁打、19打点、12得点、7盗塁。これがプレーオフの数字だったら、ドジャースはオフェンスで苦労しないけどね。
――少し話が脱線するが、来季、投手陣は大谷を含め、トニー・ゴンソリン、ダスティン・メイ、タイラー・グラスノー、ギャビン・ストーンらは、全員が故障明けということになる。山本も今季は肩を痛めて、2カ月以上も戦列を離れた。
JH 大谷にとっては悪くない状況だよ。おそらく、当初は中6日で先発ということになるだろう。ほかのチームなら特別待遇だが、みんな故障明けで、ドジャースには中4日で投げられる投手がいない。よって来季、先発は中5日か6日が普通になる。それよりも読めないのは、2度めのトミー・ジョン手術からの復帰という点。(大谷は2018年10月に一度めのトミー・ジョン手術を受けたが)2020年は投手として、まともに投げられなかった。
BP オフェンスでは盗塁を除けば、今季と同様の数字を残してもおかしくない。でも、投手としてはまったく予想ができない。ここまでリハビリは順調だが、打者と対戦したときにどうなるか。
■例の一件以降、試合前の取材がなくなった
――大谷は今季、以前にもましてプライベートを明かしているように見えるが?
BP デコイ(大谷の愛犬デコピンの愛称)はMVPだ。8月29日のオリオールズ戦での始球式では、マウンドから大谷がいるホームベースまでボールを咥えて届けたが、本当に驚いた。一方で、元通訳の水原一平がいなくなってから、チームメイトとの関係がよくなった気がする。通訳を介さずに話す場面が増えて、それがプラスに働いた。一平を通してのコミュニケーションには限界があったけど、今は普通に英語で話している。だから、チームメイトも受け入れた(※現在の通訳のウィル・アイアトン氏はもともと球団の職員で、水原被告のように、常に大谷と行動をともにしているわけではない)。
JH オールスターのレッドカーペットショーでは、真美子夫人をともなって参加した。これまでに比べれば、プライベートを見せているように映るし、一平問題にある程度の決着がついてからは、プライベートが安定し、それがいい方向に働いているのではないか。ただ4月から5月までは、10日に1回ぐらい試合前にも話していたが、“例の一件”があってから取材に応じてくれなくなってしまった。リーグを通して、大谷の取材機会を増やしてくれるように訴えているが、大谷に気を使ってか取材機会が制限されている。
――例の一件とは?
JH 日本のテレビ局が、大谷の自宅が特定できるような映像を流したり、近隣住民へのインタビューなどをおこなったことだよ。もちろん、それが直接の原因とは言われていない。ただあの後、試合前の取材機会がなくなってしまったのは事実だ。
BP 試合前の取材というのは試合後とは違って、トピックが多岐にわたる。だからある意味、互いを知るいい機会だった。それまでは真美子夫人のことも、聞かれれば普通に答えていたのに……。我々が彼の奥さんの話を記事にすることはないが、選手と雑談するとき、奥さんや子供の話も普通にする。それで話が弾み、距離が近くなることもある。
JH 結婚や移籍など、生活環境の変化のなかで、エンゼルス時代よりも試合後に話す回数は増えた。仮に4打数ノーヒットでも、チームのリーダーとして、話をする必要はあるからね。その役割を、ベッツやフリーマンと分担している。しかし、メジャーリーグの最高の選手として、大谷にはもっと多くのことを発信してほしいとも思うよ。
――最後に、あらためてプレーオフに向けてひと言お願いします。
BP 昨季のドジャースは、あまりにも早い段階で優勝が決まり、シーズン終盤に緊張感のある試合を経験できなかった。その流れで、地区シリーズでダイヤモンドバックスに敗れたわけだけど、今季はレギュラーシーズンの終盤まで優勝争いを続けてきたからね。それはプラスに働くのではないか。
JH 昨季は、プレーオフ出場決定からシリーズ開幕まで少し時間が空いてしまった。投手の疲労回復という点では有利に働くけど、打者にとっては試合勘が鈍ってしまいかねない不利な状況ともいえ、残念ながらその懸念が的中した。ただ、勝って当然というなかでスタートした昨季とは違って、今季のドジャースは(相次ぐ投手陣の負傷離脱もあって)厳しいだろう、という予想のなかでプレーオフに臨むことになる。案外、そういうときのほうが勝ち進むかもしれない。
大谷が花巻東高校時代に書いた人生設計には「26歳でワールドシリーズ優勝」と記されている。4年遅れたが、ついに“世界一”への挑戦が始まったーー。
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