2024年上半期(1月〜6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。仕事術部門の第4位は――。(初公開日:2024年2月5日)
どうすればビジネスチャットを使いこなせるのか。クロスリバー代表の越川慎司さんは「メールと同じように使ってはいけない。目的と重要度がすぐにわかるように工夫する必要がある」という――。(第3回)

※本稿は、越川慎司『時短の一流、二流、三流』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/CHOLTICHA KRANJUMNONG
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CHOLTICHA KRANJUMNONG

■ショートカットキーは時短につながるのか

キーボードショートカットの使い方だけでも、人によって大きな差があります。例えば、あなたが「Ctrl+C」(コピー)と「Ctrl+V」(ペースト=貼り付け)だけを知っているなら、それはある意味では時短につながっています。しかし、実際にはこれ以上のショートカットがあり、それを知らないことで失われる時間は想像以上に大きいのです。

とは言っても、ショートカットを覚えれば覚えるほど、その効果が増えていくわけではありませんでした。いったいどうしたら、キーボード操作で効率と効果を上げていくことができるのでしょうか。

当然ながら、ショートカットをほとんど使わない人は、効率が高いとは言えません。ショートカットキーがあるのにまったく使わないのは、エレベーターがある高層ビルをわざわざ階段で上るのと一緒です。たくさんのショートカットを覚えようと努力する人はたくさんいます。「ショートカット大全」といったマニュアル本を買った経験がある人も、多いのではないでしょうか。

私は過去に4冊も購入しましたが、ほとんど活用できませんでした。ショートカットキーは、たくさん覚えれば覚えるほど生産性が上がると考えがちです。しかし、このアプローチには落とし穴があります。それは、必要ないショートカットまで覚えてしまい、結局どれが本当に役立つのかを見失ってしまう可能性があることです。

また、ショートカットキーを覚えることが目的になってしまうと、時短にはつながりません。手段を目的化すると、実現したいことが達成できず、学習時間は浪費となるのです。

■効果を評価し、必要なものだけを使う

一流もショートカットキーを学んでいます。しかし、できる限り多くのショートカットキーを覚えようとは思いません。タイパ(時間生産性)の観点から「必要最低限のショートカットだけを覚える」という方針を採ります。それだとタイパを確実に上げることは無理ではないかと思えますが、実はその選び方に高度な戦略があります。

一流はまず、自分がどのような作業に最も多くの時間を費やしているのかを明確にし、その作業を効率化するショートカットを選びます。次に、そのショートカットが実際にどれほどの効果をもたらすのかを計測し、絶えずその効果を評価、再評価します。このような方法で、必要最低限のショートカットを継続的に見直しているのです。

さらに一流は、ショートカットを単なる「操作の省略」だとは考えません。彼らにとって、ショートカットは「目的までの最短ルート」なのです。ですから、新しいショートカットを知っても、すぐに記憶しようとしているわけではありません。その新しいショートカットが、現在使用しているショートカットよりも効果が高いと確信した場合のみ、学習します。この「必要最低限の効率化」こそが、一流が持つ最も重要な特性なのです。

一流は、必要なものを見極めて習得する
必死に覚えても、それを使わなければ意味がない

■ビジネスチャットをメールのように使う人たち

ビジネスチャットは、社内メールを平均49%も減らし、社内会議も25%も減らすといった時短効果があります(*1)。しかし、その使い方を間違えると、時短はできません。

ビジネスチャットで業務効率を上げている組織を見ると、チャットの送り手が時短のカギであることが分かりました。メールと同じように、丁寧で長い文を送ると、効率を落とします。

写真=iStock.com/strixcode
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/strixcode

「○○担当課長代理、お疲れ様です。営業本部 営業開発グループ 担当部長代理補佐の□□です。先日の合同会議に参加いただき、誠に有難うございました……」

このように、堅苦しいチャットを送るのはNGです。こうしたチャットを受け取ると、相手はうんざりして放置してしまいます。

要点を先に伝えるのは効率的です。「要は何か?」を理解できないと、相手は残りの文章を読んでくれません。各企業の意思決定者826名にインタビューしたところ78%は10秒以内に要点を探し、それを理解すると残りの文章を読むことが判明しました。

しかし、場合によっては突然チャットが来て驚く人もいるかもしれません。唐突なメッセージは相手を戸惑わせて、ときに不快な感情を持たせてしまいます。

(*1)クロスリバー社調査、2020年9月、対象1921社

■「目的」と「重要度」を意識するべき

一流は、チャットでまず「今ちょっといいですか」と聞きます。この一言を挟むことで、相手が他の作業に集中している場合でも、その人が気を取られることなく、リズムを保てます。

これは特に、リモートワークで分散したメンバーたちとコミュニケーションを取る際に有効です。しかし、単に一言お伺いを立てるだけで一流になれるわけではありません。一流のメッセージには、必ず「目的」と「重要度」が含まれています。

例えば、相手に対して、このメッセージに何分何秒の時間を使ってほしいのかを明示することで、相手もその時間だけ集中してメッセージに応じることができます。また、絵文字や「!」など記号を使って、明るい感情が伝わるような文章を送っています。ささいなことに感じるかもしれませんが、こうした積み重ねで相手と感情を共有することができます。そうした関係を作ってしまえば、少ない情報で伝わることが増え、結果的に時短につながるのです。

さらに、相手のオンライン状況が確認できる「プレゼンス機能」を使えば、相手の状況に合わせて、コミュニケーション手段を選ぶことができます。相手がオンラインであれば、90秒以内に返答が来る確率は75%以上となり、即座に情報をもらうことができます(*2)。下記の調査結果も参考にしてみてください。相手の状況を踏まえて使えるビジネスチャットの活用によって、メールよりも短時間で、そして確実に問題を解決することができます。

(*2)クロスリバー社調査、2023年、対象106社7865名

プレゼンス機能を使えば待ち時間を短縮できる(出所=『時短の一流、二流、三流』)
一流は、「今ちょっといいですか」と相手の状況を確認しながらチャットする
プレゼンスに応じたメッセージを送ることで相手は心地よく対応してくれる

■大容量のファイルをどうやって送るか

いつものように業務報告書を作成していると、気づくとそれが100MBを超えてしまいました。あなたはどうしますか?

今、この瞬間にも、どこかで同じような問題に直面しているビジネスパーソンがいることでしょう。その解決手段としていくつかの手法がありますが、安全でかつ効率的な方法を選ぶのが一流なのです。大きなファイルを相手に送る方法として、USBメモリに保存して郵送している人が各企業に一定数います。セキュリティを考えてメールやインターネットストレージサービスを使わないで情報を共有するためです。しかし、この方法は非効率そのものです。

次によく取る手法が、大きなファイルを圧縮ソフトで小さくしてから、メールで送る方法です。たしかに郵送よりはマシですが、圧縮に時間がかかりますし、相手が回答するための手間もかかります。また、メール自体が容量制限に縛られる場合が多く、それ以上の大きさのファイルはどうしても送れません。

■共有するだけでなく、作業効率も高める

一流は、クラウドのURLを共有します。クラウドストレージを用いることで、容量の大きいファイルを効率よく、安全に送ることができます。

まず、OneDriveやBox、GoogleDriveなどのクラウドストレージにファイルをアップロードします。その上で、共有設定をします。アクセスできる人、アクセス期限、ダウンロードの可否などの設定をします。その設定によって生成されたURLを相手に送るのです。

越川慎司『時短の一流、二流、三流』(明日香出版社)

クラウドストレージによっては、ファイルの変更履歴を保存できる場合があります。これは、何か問題が発生したときに原因を特定するのに非常に有用です。また、クラウドストレージを用いることで、物理的な場所に縛られずにどこからでもアクセスができます。さらに、一流はクラウド上で共有するだけでなく、同時に複数人が編集できるような設定をして共同作業を加速させます。こうすればお互いのファイルを送り合う手間を省き、一つのファイルを複数名で編集して、クラウド上で完成させることができます。

このようにクラウドストレージでの共同作業を行うと、メール添付で作業するよりも25%以上時短できることが、39社の行動実験で明らかになりました。容量の大きいファイルを共有するという、一見単純なタスクにおいても、効率と効果を同時に高める方法をつねに追求してみてください。このような積み重ねが、一流の人たちがつねにトップを走り続ける理由の一つなのです。

一流は、クラウドで共有し、共同作業も行う
効率と効果を考えるとクラウドストレージの活用は必須

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越川 慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表
元マイクロソフト役員。国内および外資系通信会社に勤務し、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践、800社以上の働き方改革の実行支援やオンライン研修を提供。オンライン講座は約6万人が受講し、満足度は98%を超える。著書に『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、近著に『29歳の教科書』(プレジデント社)がある。
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(株式会社クロスリバー代表 越川 慎司)