「有名なAVの男優に会いたかった」“紀州のドン・ファン殺人公判”須藤早貴(28)が明かした“AV出演の理由”と“口止め工作”「ホストと付き合っていた時期は1年生の時くらいに」〉から続く

 和歌山県田辺市の会社経営者で「紀州のドン・ファン」こと野崎幸助氏(享年77)が急性覚醒剤中毒で死亡した事件。殺人と覚醒剤取締法違反の罪に問われた55歳年下妻の須藤早貴被告(28)の裁判裁判が、和歌山地裁で行われている。法廷では、“犯行直後”の須藤の肉声も再生された。

【画像】須藤早貴容疑者19歳当時の“幻の花嫁姿”


初公判に出廷した須藤早貴被告=12日、和歌山地裁[イラスト・松元悠氏] ©時事通信

“犯行時間帯”に少なくとも8回、2階に移動

 事件が起きたのは2018年5月24日夜のこと。この時、現場の自宅内にいたのは野崎氏、須藤被告、家政婦A子さんの3人だった。

「A子さんは当日15時13分から20時7分まで外出しており、夫婦は約4時間、2人きりだった。検察側は、須藤被告が何らかの方法で致死量の覚醒剤を野崎氏に摂取させた“犯行時間帯”を、16時50分頃から20時頃の間と結論づけている。その間、須藤のスマホの健康管理アプリ『ヘルスケア』の記録等から、須藤が少なくとも8回、1階から遺体発見場所でもある2階へ移動していると指摘しています」(司法担当記者)

 野崎氏は、夕方になると2階の寝室に移動して就寝し、翌日未明には起床する生活スタイルだった。A子さんは帰宅後、野崎氏がいる2階の物音に気付き、一緒に1階リビングにいた須藤に様子を見てくるよう促したが、須藤はスルー。22時36分、再度A子さんから促された須藤が2階に上がり、動かなくなっている野崎氏を発見。同時刻、須藤が自身のスマホから119番通報した。

 法廷では、119番通報時の音声記録が再生された。つまり、法廷に流れたのは“犯行直後”の須藤の肉声である。以下はその主な内容だ。

須藤がしどろもどろになる場面も

――火事ですか、救急車ですか?

須藤「救急車をお願いします」

 住所に続き、傷病者の名前を聞かれて「野崎幸助です」と答える須藤。だが、119番の担当者から隣家の名前など自宅の詳しい位置を確認されると、田辺市での同居実態が2カ月ほどしかない須藤は「分からないです」としどろもどろに。その間に救急車が出動し、以後もやりとりが続く。

ーーどうされましたか?

須藤「(2階に)上がったら動かなくて」

――意識はありますか? 呼吸はしていますか?

須藤「していないです。椅子に座っていて」

――呼吸が止まる瞬間を誰か見ていますか?

須藤「見ていないです」

――男性ですか?

須藤「そうです」

――家には他に誰かいますか?

須藤「はい、お手伝いさんがいます」

 担当者は、野崎氏がソファに座った状態であることを再確認すると、2人で仰向けに寝かせるよう指示を出す。通話はスピーカーフォンになっており、A子さんの切羽詰まった声が飛び込んでくる。

A子さん「しっかりして! なんでこんなことに! 社長! 社長! 社長!」

 和歌山県出身のA子さんは、東京の自宅から月に10日ほど田辺市に通い、家政婦として野崎氏の身の回りの世話をしていた女性。野崎氏とは30年来の付き合いで、同氏の会社でも取締役を務めた側近の1人でもある。必死の呼びかけの声が法廷に響き渡る。

A子さん「しっかりして! 社長! 社長! 社長!」

 担当者が心肺蘇生の手順を口頭で丁寧に説明すると、胸骨圧迫のリズムを補助する電子音が「ピッピッピッ」と小刻みに流れる。

すでに死斑が出ていた

 通報から5分後、救急車が到着。A子さんは野崎氏のもとに残って心肺蘇生を続け、須藤が家の外へ救急隊を迎えに出て行ったところで、通報の音声記録は終わる。法廷の須藤は、じっと音声に耳を傾けていた。

「救急隊員が確認すると、野崎氏は脈拍や呼吸音がなく、死斑も出ていたため、その場で死亡と判断されました。医療機関へは搬送せず、田辺警察署に連絡をしています」(前出・司法担当記者)

 9月13日の第2回公判では、救急隊からの要請を受けて臨場した田辺署員のうち2人が検察側の証人として出廷。死体を調査した警部は、直腸温の高さや死後硬直の強度などの状況から、この時点で薬物使用の可能性も疑ったという。

 後日、新法解剖された野崎氏の胃の内容物からは致死量を超える覚醒剤成分が検出された。こうして謎に満ちた「紀州のドン・ファン事件」は幕を開けたのである。発生から6年余。事件は舞台を法廷に移し、以後も証人尋問を軸に続く。判決は12月12日――。

(「週刊文春」編集部/週刊文春Webオリジナル)