とよた真帆「夫・青山真治を見送って2年半。お互い30代で結婚、20年を夫婦として暮らしたパートナーを失った喪失感は今も消えないけれど」
女優業のかたわら、レストラン経営や盲導犬協会理事など、幅広い活動を続けているとよた真帆さん。芸能活動40年目を迎えた今年、歌手デビューも果たしました。発表したアルバムには、2年半前に亡くなった夫で映画監督・青山真治さんの影響も大きかったそうで──。(前後編の前編/構成◎藤澤志穂子 撮影◎本社 奥西義和)
【写真】とよたさんが経営するイタリアンレストラン「ロジエ」前にて
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夫・青山真治を見送って2年半が経ち
今年は私の芸能生活40周年。人生の残り時間を考えると、新しいことを始めるなら今しかない。
なので「やりたいことは全てやろう」と。歌手デビューにイタリアンレストラン経営、不動産会社の社外取締役など、ご縁を頂けたチャンスは全てチャレンジです。
夫の青山真治を見送って2年半。
20年を夫婦として暮らしたパートナーを失った喪失感は今も消えません。
お互い30代で結婚して、そこからの20年は自分を作る上ですごく重要な時間。一緒にいながら、それぞれが大人としてやれる空間があったという感じかな。
闘病にはコロナ禍も重なり
私は、こっちがダメならすぐあっちへ、といった「超ポジティブ志向」。
いっぽう青山は繊細で、ともすればネガティブ志向に陥りがちで、そんな青山を叱咤激励する、ということもあって。
周囲には「真帆は『極道の妻』もできる人だから」なんて言っていたようですけど(笑)。度胸がある、っていう意味の褒め言葉だったのかしら。
「僕の人生で最も良かったのは、真帆と結婚できたこと」だと言ってくれていました。
「闘病はコロナ禍と重なった時期。その頃からいろんな思いを打ち消すために忙しくしていたというのもありますね」
私も同じです。そんなパートナーを失った喪失感を埋めるために忙しくしている、ともいえるかな。
闘病はコロナ禍と重なった時期で、当時もなかなか会えなかった。その頃からいろんな思いを打ち消すために忙しくしていたというのもありますね。
青山の遺志を引き継ぎ、伝えていくのも私の大事な仕事です。
芸能生活40年目で歌手デビュー
7月には芸能生活40年目にして「歌手デビュー」もしました。
発表したアルバム『WILD FLOWER』は、実は青山の“DNA”が詰まった作品なんです。
『WILD FLOWER』(MAHO TOYOTA/株式会社SPICA)
青山作品の音楽を担当して下さっていた山田勲生さんと「いつか昭和歌謡のアルバムを作りましょう」という話は以前からふわっとありまして。青山が亡くなって焼香に来て下さった時、「本当にやりましょう」と仰ってくださったんです。
私が歌を本格的に始めたのは、青山が私の声をほめてくれたことがきっかけです。
結婚10年目位の頃。自宅でテレビの歌番組に合わせて私がハミングしていたら、パソコンに向かって作業中だった青山が突然、「真帆、歌うたえたの!」と驚いて。自分の作品で浅川マキさんの曲を歌える人を探していたのだけど「うちにいたのか!」って。(笑)
そこから一緒にカラオケ行くようになって、そのたびに私の歌声を褒めてくれて。
私も調子に乗って、ボイストレーニングを始めて、青山が演出する舞台やミュージカルで歌うように。
アルバムは、山田さんがプロデューサーで、ピアニストの土井淳さんが参加して下さり3人で製作開始。結果として浅川マキさん始めとする昭和歌謡だけでなく、ジャズやデュエットなど10曲を収録することになりました。
キラキラ輝く扉を開けたよう
私の普段の話し声はちょっと高めのトーンに聞こえるかな? アルバムでは普段より落ち着いた声で、さまざまな表情を見せているので意外に思われるかもしれませんね。
貴重なのは、山田さんのパソコンの奥深くに保存されていた青山の声を発見し、『もう少しよ』という曲に仕上げたこと。
米ブルース歌手、ドクター・ジョンの替え歌で、私もコーラスで参加しました。青山の撮影時の「スタート!」「カット!」という音声も重ねました。音響担当のスタッフだった方が残していた音声から、一つ一つ聞き直し選び抜いた音声です。
7年前に私が作詞した『Wild Life』も一曲に。オリジナル曲の『レディ・ジェーン』は私、山田さん、土井さんで作詞・作曲を担当していますが、東京・下北沢にある同名のバーがモチーフです。
青山ほか、多くの名優たちが通った老舗で、この歌は青山とも交流のあった俳優の斉藤工さんとのデュエットでMV(ミュージックビデオ)もここで撮影しました。青山作品におそらく最多出演の俳優、斉藤陽一郎さんもサポートしてくれています。8月からはカラオケDAMにも入りました。一つの念願でしたので嬉しいです。
このアルバムは私の一生の宝物、キラキラ輝く扉を開けたように思っています。
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