高齢の母が一人で暮らすには部屋数が多く、モノも増えすぎていた(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

「なんで片付けなアカンの?」

関西地方に住む40代の女性は、遠方の実家に住む母の態度に頭を抱えていた。夫を亡くし、一人で暮らす母は絶望的にモノが捨てられない。このままでは近隣トラブルも起きかねないし、火事にもなりかねない。なにより、一緒にいられないぶん、親には快適な家で暮らしていてほしかった。

本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。

YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信するゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)に、モノを捨てられなくなった親への対応策を聞いた。

動画:「3人分のモノで溢れる一軒家」このままじゃ掃除ができない!娘夫婦が説得 1/2【前編】

   意味の無い整理術や片付けは報われない「3人分のモノで溢れる1軒屋」2/2【後編】

大量の婚礼家具の隙間で寝る70代の母

70代の母が一人で暮らす一軒家は「4LDK+S」と広い。ただ、高齢の女性が一人でその広いスペースを有効活用できるわけもなく、家の大部分は不要品にまみれた状態になってしまっていた。

生活のほとんどは1階で完結し、2階にある部屋はほぼ物置。寝室は使わなくなった大型の婚礼家具で埋まり、母はその隙間に布団を敷いて眠っていた。

どんな経緯で実家を片付けるに至ったのか。今回の依頼者である娘(40代)が話す。


依頼主の娘と母。何を残し、捨てるのかを確認しながら片付けを進める(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

【写真】本棚にはゴキブリの糞がこびりつき…物置部屋は段ボールまみれ。それがすっきり生まれ変わった!【ビフォーアフターを見る】(24枚)

「お父さんが2019年に亡くなって、お母さんが1人で住むっていう形になったんですけど、その前におばあちゃんもいたので、タンスやら何やら荷物の量がすごくて。掃除するといってもモノが多すぎてどうにもできない状態で。自分ら(娘夫婦)でやろうと思っても遠方なのでなかなかできませんでした」

とにかく母には快適な暮らしを送ってほしい。それに、自分たちも安心して暮らしていたいという気持ちもある。しかし、片付けはうまくいかなかった。ときどき実家に戻っては母を説得し、いらないモノの仕分けをしていくように伝えたが、間を空けて再び実家に戻ってみても状況は何も変わっていなかった。

母には家を片付ける気がないようだ。「とりあえず2階の物置みたいになっている部屋だけでも片付けてもらおう」となんとか説得し、イーブイに見積もりを依頼した。しかし、事前の見積もりも済み、いざ作業をするとなった当日の朝、ここにきて母は娘にこんなことを言い出した。

「なんで片付けなアカンの?」

なぜこの人はわかってくれないのだろう。これだけ時間をかけて説得して、お金も自分たちが出して、イーブイのスタッフたちも家まで来てくれているのになんで? その場で大喧嘩になり、娘も感情が高ぶって泣いてしまった。


本来は訪問客があったときだけ使用する応接間も、いつの間にかモノで溢れていた(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

モノを捨てられない親に効く言葉

数多くのゴミ屋敷事例を見てきたイーブイ代表の二見文直氏によると、「人は高齢になればなるほど、自分を取り巻く環境を変えることに大きなストレスを感じるようになる」という。歳をとれば新しいことを始めづらくなるし、旅行も、行ったことのないような外国ではなく行き慣れた国内の町に限られがちだ。要はバイタリティーが落ちてしまう。

実家をモノ屋敷にしてしまう親を説得するにはどうすればいいのか。イーブイのスタッフたちは第三者の立場から、現場でゴミ屋敷やモノ屋敷の住人を説得する機会も多い。今回も母親と娘の間に入って説得を試みた文直氏の弟・信定氏に聞いた。


一見、生ゴミなどはないように見えるが、本棚の本やDVDなどにはゴキブリの糞がついており、状態はよくなかった(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

「一番は感情的にならないことです。説得する側が感情的になってしまえば、相手もヒートアップしてしまうのは目に見えています。せめて、こちらは冷静でいないと、話は前に進みません。

頭ごなしに『はよ処分せえ』では、まず説得できないので、『もう捨ててもいいんじゃない?』と言い方を変えてみたり、『これ最近いつ使った?』と遠回しに聞いてみたりすることです。自発的に『モノを減らそう』と思ってもらわないことには難しいです。いろんなレパートリーで根気強く説得を試していくしかありません」

実際に手を動かしていくうちに状況が変わることもある。作業開始後、「やっぱりモノは捨てたくない」と、依頼自体がキャンセルになってしまうことも珍しくない。一方で、状況が好転することもある。

「片付け前は親子で揉めていたけど、始まるとだんだん住人の様子が変わっていくこともあります。散らかっていた部屋がきれいになっていく様子はやっぱり気持ちがいいはずです。みるみる表情が明るくなり、『もっと片付けたい』と言ってくれるケースも少なくありません」(信定氏)

ただ、ここで身内が「ほな、これも処分せえや」「だったらもっと前から片付けたらよかったやん」などと余計な口を挟んでしまうと、状況は後戻りしてしまう。ここは、第三者である業者に任せてしまうほうが賢いだろう。


応接間を片付ける様子(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


今回は家具の配置も変え、部屋を住みやすく改造する(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

モノ屋敷の住人は「整理収納の本」を読みがち

現場に入ったスタッフは計6人。二見兄弟で1階の応接間を担当する。1階は母親が普段生活しているスペースなだけに、いるモノといらないモノをひとつずつ聞きながら仕分けしていくことになった。

応接間の壁四面には棚が敷き詰められ、テーブルの上も半分以上が細々としたモノで占められている。これでは、応接間としての機能も果たせていない。

モノ屋敷の特徴として、この部屋のように壁が見えなくなっている点がある。とにかく収納家具が多いのだ。

加えて、100円ショップや大型家具店に売っている収納カゴや衣装ケースもやけに多い。その中には、使うか使わないかわからないけど一応とっておくモノが無造作に詰め込まれていて、それがいくつも積み上がっている。


応接間には収納棚はたくさんあるが、どれもギチギチにモノが詰まっている(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

大抵、カゴの中身を取り出すことはめったにないので、次第に何が入っているのかもわからなくなってくる。カゴにモノを詰め込むだけでは片付けた気になっているだけで、ただ部屋の空間が狭くなっていくだけだ。

「片付けに悩まれている方、片付けが苦手な方に共通しているのが、整理収納関連の本を何冊も買っているということです。でも、片付けの大原則として、まずモノの総量を減らさないことには整理収納はできないんです。収納家具を増やすことよりも初めにするべきことは、とにかくモノの断捨離なんです」(文直氏)

2階の物置部屋も四方がモノで囲まれている。タンスなどの収納家具のほかにも、段ボールの数々、ビニール袋に入ったマットレスや敷き布団が積み上がっている。

モノ屋敷に多いのは、何十年も前に買ったホコリのかぶった家電。「こんなの売ってた時代があるんだ」と感心することもあるが、今使うとかなり不便なのできっと使わない。あとは、「用途の限られた家電」。たとえば、たこ焼き器、ポップコーンメーカー、ヨーグルトメーカーなどだ。


2階の和室は物置部屋となっており、段ボールまみれだ(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


ようやく床掃除ができるまで片付いた物置部屋(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


デッドスペースがなくなり、すっきり(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

モノで溢れまくっていた実家の現在


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「あれだけ片付けに反対していたお母さんが、一緒に1階の応接間の仕分けをしているうちにどんどん前向きになっていったんですよ」(文直氏)

この家の片付けをしたのは、3年前(2021年)のことだ。文直氏が当時を振り返りながらそう話す。片付けを開始すると、結果的には前述したような“いい方向”に状況が好転し、母親はノリノリになってモノを捨てだしたという。

当初は応接間と2階の物置部屋のみを片付ける予定だったが、途中で母親は“もっと片付けたい”と心境が一転。ただ、この日はトラックを3台しか借りていなかったため、そこまで手が回らなかった。

それから1カ月後、イーブイが2回目の作業に訪れると家の中はきれいに仕分けされていた。2階のもう一部屋も、キッチン周りも、婚礼家具だらけの寝室もすべて片付けることに成功し、娘を悩ませていた実家は見違えるほど快適な空間になった。


応接間も本来の役割を果たせそうなくらい、きれいに生まれ変わった(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

【写真】本棚にはゴキブリの糞がこびりつき…物置部屋は段ボールまみれ。それがすっきり生まれ変わった!【ビフォーアフターを見る】(24枚)

(國友 公司 : ルポライター)