by Morton Lin

TSMCやAMDの台頭によって苦戦しているIntelは、2021年に就任したパトリック・ゲルシンガーCEOの下で、ファウンドリサービスの拡充に向けた新戦略「IDM 2.0」を推進して立て直しを図っています。ところが、テクノロジー系ブログのStratecheryを運営するアナリストのベン・トンプソン氏は、Intelを立て直すには思い切って会社を分割するべきだと主張しています。

Intel Honesty - Stratechery by Ben Thompson

https://stratechery.com/2024/intel-honesty/



Intelはチップの研究開発から製造までを社内で行う体制で発展してきましたが、近年はチップの設計でAMDに遅れを取る一方、チップの製造ではTSMCに及ばないという状況に陥っています。そこでゲルシンガー氏は、他社からのチップ製造を受託するファウンドリ事業を拡大することにより、Intelのチップだけでなくパートナー企業のチップ製造にも注力する姿勢を打ち出しました。

しかし、2024年8月1日にIntelが報告した2024年第2四半期決算は約2400億円の赤字となり、1万5000人以上の従業員を解雇することを発表しました。また、2026年まで毎年数十億ドル(数千億円)の研究開発費とマーケティング支出を削減し、2024年は設備投資を20%以上削減することを明らかにしています。この決算発表の影響で、Intelの株価は1974年以来最悪となる26%の急落を記録し、2013年以来の最安値を記録しました。

Intelが2024年第2四半期の決算発表、2400億円超の赤字で約1万5000人の人員削減に踏み切る - GIGAZINE



トンプソン氏は、Intelの設計部門と製造部門はお互いのビジネスにとっての足かせになっていると指摘しています。まず、チップ業界には「製造よりも設計の方が利益率が高い」という現実があり、チップの設計を行うNVIDIAの粗利益率が60〜65%である一方、NVIDIAのチップを製造しているTSMCの粗利益率は50%近くです。しかし、Intelの製造部門は自社製チップの製造が主軸だったため、長年にわたりNVIDIAに近い利益率を持っていたとのこと。

これは、Intelの製造部門における最優先事項は自社製チップの製造であることを意味しており、ファウンドリ事業の見込み客に対するサービス低下につながります。また、Intelと競合するサードパーティーのチップ設計企業にとって、「Intel製チップを最優先するファウンドリ」にチップの設計図を渡すことはリスクにもなります。これらの問題が、ゲルシンガー氏の推し進めるIntel立て直し計画の障害になっているとトンプソン氏は指摘しています。

こうした問題を解決する唯一の方法だとトンプソン氏が主張しているのが、「Intelの製造事業をスピンオフして、独立した企業として運営すること」です。当然ながら、サードパーティーと協力するための体制を構築するには時間がかかりますが、製造部門が独立した企業となることで、大規模な変革を行う最大のインセンティブである「企業を存続させる必要性」が生まれるというわけです。

実際にIntelは2024年第2四半期の決算を受けて、ファウンドリ事業の分割を含めた選択肢を検討していると報じられていますが、これらの議論はまだ初期段階だとのこと。海外紙のBloombergは、ファウンドリ事業の分割といった思い切った決断に至る前に、生産施設の拡張計画を延期するといった選択をする可能性が高いと述べています。

Intel Exploring Options, Including Splitting Businesses, to Cope With Slump - Bloomberg

https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-08-30/intel-is-said-to-explore-options-to-cope-with-historic-slump



トンプソン氏は人々が直視するべき根本的な問題として、Intelの製造部門は最高品質のチップを製造しているわけでも、最先端のチップを製造しているわけでもないため、市場ベースでみれば存在している理由がないと指摘。ゲルシンガー氏は、TSMCをはじめとするファウンドリの最先端製造施設の大部分がアジアにあり、地政学的なバランスを取るにはIntelへの投資が重要だと訴えていますが、これは裏を返せば「アメリカ政府やハイテク企業が台湾以外の選択肢を持ちたい場合、Intelを助けるコストを負担する必要がある」ことを意味しています。

アメリカでは2022年8月に、「今後5年間でアメリカ国内の半導体製造能力の強化に約527億ドル(約7兆9300億円)を充てる」という条項を含む「Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors and Science Act(CHIPS法)」が成立し、Intelにも多額の補助金や融資が行われると期待されています。しかし、これらの資金はIntelが半導体製造で一定の基準を達成した場合に提供されるため、依然としてIntelは資金を得られていません。

Biden-Harris' Dream of US Chip Renaissance in Doubt as Intel Struggles - Bloomberg

https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-09-04/intel-s-money-woes-throw-biden-team-s-chip-strategy-into-turmoil



また、2024年9月には、IntelのファウンドリがBroadcomのテストをクリアできなかったことが明らかになっています。

Intelの半導体製造受託事業がBroadcomのテストをクリアできなかったことが報道により明らかに - GIGAZINE



Bloombergは、「Intelの苦境は、ペンダゴンへの最先端チップの安全な供給を確立し、2030年までに世界の最先端プロセッサの5分の1をアメリカで製造するという政策目標を達成する能力も、危険にさらす可能性があります」と報じています。

トンプソン氏は、アメリカ政府は企業に直接補助金や融資を与えるのではなく、「アメリカ国内で製造された基準を達成したプロセッサを、政府が一定量購入することを保証する」という購入保証政策が適していると考えています。これにより、「Intelの専門知識と設備を持つIntelからスピンアウトしたファウンドリ」が、企業として自立する道を確保できると、トンプソン氏は主張しました。

なお、Intelの最高財務責任者(CFO)を務めるデビッド・ジンズナー氏は、Intelのファウンドリ事業が「有意義な収益」を上げ始めるのは2027年になるとの見通しを示しています。

Intel manufacturing business will see 'meaningful' revenue in 2027, CFO says | Reuters

https://www.reuters.com/technology/intel-manufacturing-business-will-see-meaningful-revenue-2027-cfo-says-2024-09-04/