Intel Core Ultra(シリーズ2)、AMDに並ぶバッテリー持ちを実現できるかどうか。(Image: Kyle Barr - Gizmodo US)

夢を語るより、とにかくバッテリー持ちと目の前の課題が先、ってことなのかな。

IntelがノートPC向け新世代チップ、Lunar Lakeこと「Core Ultraプロセッサー(シリーズ2)」(以下Core Ultra 2)を発表しました。最近のIntelは第13世代・第14世代チップの不具合問題を抱えていて、この新チップは大丈夫なのかも気になるところです。

IntelがMeteor Lakeチップで「AI PC」なるコンセプトを打ち出してからまだ1年足らずですが、現在のIntelにはAIコンピューティングの夢を語る余裕はないのかもしれません。今回のローンチイベントではNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)のアピールはそこまでじゃなく、どっちかというとQualcommのようなARMアーキテクチャの制約を指摘するような発言が目立ってしまいました。

電力消費を大きく改善。今までのIntelチップで「もっとも効率的」に

Image: Kyle Barr - Gizmodo US

IntelはCore Ultra 200Vシリーズを「もっとも効率的なx86」チップだと言います。去年のMeteor Lakeに比べて消費電力が約40%削減されたそうで、タスクによってはそれ以上に効率が高まる場合もあるようです。

Intelいわく、Procyonを使った生産性系タスクのベンチマークではCore Ultra 200V搭載PCのバッテリーが20.1時間持続し、 Qualcomm X1E-80-100の18.4時間を上回りました。

ただMicrosoft Teamsでのビデオ会議では、Snapdragon X Elite搭載PCが12.7時間持ったのに対し、Core Ultra 7 268V搭載PCは10.7時間で力尽きてしまったようです。

8コア8スレッド。GPU・NPUももちろんあり

Core Ultra 2の選択肢は幅広く、省電力のIntel Core Ultra 5から、最上位のCore Ultra 9 288Vまで展開してますが、どれも省電力のEコアが4基にパワフルなPコアが4基、8コアで8スレッドというアーキテクチャです。

電力以外では、ローエンドなほうはPコアでの最大周波数が4.5GHz、キャッシュは8MB。ハイエンドなUltra 9 288Vは最大周波数5.1GHz、キャッシュは12MBです。今までIntelのCPUで可能になっていた並行処理、ハイパースレッディングが廃止されてるんですが、これは電力効率を改善するためとされています。

ハイパースレッディングは、「1つのコアで2つの処理を同時に行えるようにする技術」です。通常2つの作業は2つのコアで分担処理されますが、1つのコアで擬似的に再現することで作業の効率性を上げていました。

GPUに関しては、Core Ultra 5ならIntel Arc 130V、Core Ultra 7以上だとIntel Arc 140Vになります。

NPUも、ローエンドなチップはGen4 NPUが5基で演算能力は40TOPS(1秒あたり40兆回)、ハイエンドなほうはGen4 NPUが6基で47TOPSまたは48TOPSとなります。どちらもMicrosoftが設定したCopilot+ PCの基準をクリアしてるので、Windows 11のRecallを使いたい人も(そんなにいないかもしれませんが)安心です。

Core Ultra 2はすでにプレオーダー開始していて9月24日発売で、これを搭載したノートPCも、端末メーカー各社がこれから続々と発表していきます。

AI推しは控えめ。「NPUはあって当たり前」的なスタンス

Lunar LakeのBlenderでの処理速度はMeteor Lakeの2倍、とのこと。(Image: Kyle Barr - Gizmodo US)

IntelはCore Ultra 2のAI系処理に関して、Blenderでのノイズ除去では先代のCore Ultra 7 155Hより20%高速になったとし、さらに特定のアプリでのAIによるアップスケーリング等でははるかに上回る性能だとしています。ただ、Intelがこの比較をするツールとしてBlenderを選んだのは、SnapdragonではエミュレーションしないとBlenderを動かせないから、かもしれません。

現在の状況は、去年12月にIntelのCEO、Pat Gelsinger氏がNPUのすばらしさをステージで語ったときとは変わってきています。今のIntelは第13世代・第14世代チップの問題に悩まされていますが、Core Ultra 2では同じまちがいを繰り返さないと誓っています。

Intelクライアントコンピューティンググループのバイスプレジデント・Robert Hallock氏は発表の中で、NPUの強力さをアピールしつつも、現状をかつての統合GPUの状況になぞらえました。以前は統合GPUは「バカにされた」ものですが、現在ではCPU処理を支える一環として認められています。つまりNPUはもはや特別な存在ではなく、CPU、GPUに次ぐモバイルチップの柱のひとつなのだという考え方です。

Hallock氏はまた、TOPSはニューラルプロセッシング能力の指標としてはふさわしくないとも付け加えました。TOPSはスピードや精度といったわずかな変数から導き出される単純な指標に過ぎず、これはコンピューティングの専門家やジャーナリストがここ1年指摘してきたことでもあります。

それから、NPUはAI PCがもたらしたわけじゃなく、同じようなプロセッサがスマホでは数年前から存在していることも意識したほうがいいです。Intelは20年前とかにGPU統合チップを作ったときも、新たな名前を付けたりはしませんでした。Hallock氏はNPUが騒がれすぎだとまでは言わないものの、発表の質疑応答の中で、AI専用の処理系統を作ったのは「自然な流れ」だったと言っていました。

Core Ultra 2のGPUはAIタスクのためにだけ作られたわけじゃありませんが、処理能力は67TOPSで、NPUの48TOPSを大きく上回ります。結局NPUが担うのはライトなAIアシスタントのタスクで、コーディングやグラフィックスといった生成AIタスクではないんです。

実際、重めのタスクではGPUとCPUが重要なようです。

Intelの新チップのデモでは画像生成AI Stable Diffusionを動かしていましたが、その中でもNPUよりGPUのほうが活躍していました。動画編集アプリ Adobe Premiereでの動画の分割タスクには、NPUよりCPUのほうがよく使われていました。

Snapdragonと比べてどうか、という話

Image: Kyle Barr - Gizmodo US

Intelは、Core Ultra 200Vシリーズはベンチマークで最高パフォーマンスだったと言ってましたが、それを確認するには実際のPCを使った検証が必要です。

ゲーミングに関しては、Lunar Lakeのグラフィックス処理性能はStrix PointやSnapdragonより高いといいます。

Intelはゲーム『F1 24』でCore Ultra 9 288Vのデモを行い、ハイ設定・アップスケーリングなしで、最上位のAMD Ryzen AI 300よりFPSが10〜20高くなると示しました。または自社製品との比較では、Core Ultra 9 288VがCore Ultra 7 155Hより約30高いFPSを出していました。

他のタイトルでも同様ですが、ただ外部GPU搭載のノートPC(GeForce RTXなどが載っているゲーミングPCなどのこと)に比べると低い値にはなっていました。

でもIntelは、x86アーキテクチャ向けに作られたゲームの大多数は、ARMベースではエミュレーションなしで動かないことを指摘しました。MicrosoftやQualcommも、最初のCopilot+ PCはゲーミングマシンではないことをユーザーに伝えています。それでもIntelのトップ層は、ARMアーキテクチャはアプリ側が未対応だと言いたくてしょうがない感じです。

Image: Kyle Barr - Gizmodo US

でもそういった指摘も、x86とARMの比較としては的外れです。ARMアーキテクチャの特長は最適化であり、ARM PCのバッテリーライフは15時間、ときに20時間を超えます(Lenovo Yoga Slim 7xやMicrosoft Surface ProみたいなCopilot+系PCは必ずしもそうじゃありませんが)。Intelが本当に評価されるには、バッテリー持ち10時間は超える必要があると思われ、Core Ultraシリーズ搭載の実機でそれが実現されているかどうか注目していきたいです。