トヨタ「ハイラックス」本格キャンパー登場の真相
東京キャンピングカーショー2024でプロトタイプが発表されたバンテックのキャンピングカー「アストラーレGX4」(筆者撮影)
大手キャンピングカーメーカーのバンテック(埼玉県所沢市)が、トヨタのピックアップトラック「ハイラックス」をベースにした高級キャンピングカー「アストラーレGX4(ASTRARE GX4)」を発表した。
従来、ピックアップトラックをベースとするキャンピングカーには、ベッド(荷台)部分にシェル(居住空間)を積載する「トラキャン(トラックキャンパー)」というタイプが一般的。シェルが脱着式のため、普通のトラックとしても乗れるが、居住空間は比較的せまい。
一方、バンテックが「東京キャンピングカーショー2024(2024年7月20〜21日・東京ビッグサイト)」で初披露したこのモデルは、キャブコン(キャブコンバージョン)と呼ばれるタイプ。運転席や後席のみを残し、車体後方に大型のシェルを架装することで、広い居住空間や豪華な装備を持つ本格仕様だ。また、外観がかなりワイルド。従来のキャンピングカーのイメージをガラリと変えるオフローダー仕様となっていることも注目だ。
【写真】トヨタ「ハイラックス」をベースにした、バンテックの本格キャンピングカー「アストラーレGX4」の内外装を詳しく見る(32枚)
タイ販売モデルを日本仕様にリメイク
しかも、このモデルは、同社が2023年から東南アジアのタイで発売している「アルファ(ALPHA)」の国内仕様版。日本未導入モデルをユーチューブなどで見た国内ユーザーからの熱い要望により、室内などを専用設計した日本仕様を開発したという。
まだ、プロトタイプながら、当日はこのモデルを見ようと長蛇の列ができるほどの注目を集めた。その詳細を会場で取材したので紹介してみよう。
国産ピックアップトラックは、東南アジアやアフリカなど、新興国で高い人気を誇っているのはご存じのとおり。それはタイも同様で、今回、初披露されたアストラーレGX4のベースとなるアルファは、現地でも人気の高いトヨタ・ハイラックスをベースに、外装ボディをバンテックが供給し、現地で架装を施している本格キャンピングカーだ。
ベースになっているトヨタ「ハイラックス」のZグレード(写真:トヨタ自動車)
海外で販売中のアルファは、2023年4月にタイで開催された「バンコク国際モーターショー」で発表。現地をはじめ、東南アジアで高い注目を集め、ブータン王国等にも納品した実績を持つという。だが、日本では、前述のとおり未導入だった。ところが、このモデルを紹介した同社のユーチューブ動画を見たファンから問い合わせが殺到。国内ファンの要望に応えるべく、国内仕様モデルを開発し、今回の発表に至ったという。
なお、アストラーレGX4は、国内では同社の「アストラーレ」というブランドからの発売を予定する。従来、同ブランドには、日産自動車の商用バン「キャラバン」をベースにした「アストラーレCC1」というモデルがある。こちらも、キャビン(居住空間)をすべて架装したキャブコン・モデルで、高い走行性能と居住性を両立していることが特徴。GX4も同様のコンセプトを持つ新型キャブコンとして国内導入される予定だ。
アストラーレGX4の外装
アストラーレGX4のスタイリング(筆者撮影)
アストラーレGX4のベース車は、ハイラックスのZグレード。最高出力150PSを発揮する2.4L・ディーゼルエンジンを搭載し、6速AT(オートマチック・トランスミッション)を採用、駆動方式はパートタイム4WDだ。
大きな特徴は、タイ仕様のアルファと同様、同社独自の技術を数多く投入した専用の外装だ。まず、強度と弾力性に優れるFRP(繊維強化プラスチック)一体成形のCSボディを採用。ボディを支えるためのフレームを持たず、継ぎ目もないCSボディは、優れた衝撃吸収性や発散性などを実現。万一の衝突事故でもCSボディがたわんで衝撃を和らげることで、室内の乗員への被害を軽減する効果などを生むという。
また、ボディ床下にあるサブフレームもオリジナル。住宅で例えると基礎にあたる場所で、キャンピングカーの住空間を支える部分に、独自の「ソリッドスクエアフレーム」を採用する。ねじれ剛性を強化していることが特徴で、高速道路でのコーナリングやカーブの多い場所で、室内の安定性を向上。走行中の高い安心感に貢献するという。
後ろから見たアストラーレGX4(筆者撮影)
また、ボディ形状やデザインには、空力性能を高める数々の工夫も施されている。横面などには、下部が隆起した逆段差形状を採用することで、雨天時などに水を誘導。ボディ上から水が垂れ落ちにくい構造とするほか、強度アップなどにも貢献している。
さらにボディ全体は、後方を比較的広くし、前方に向かうほど窄(すぼ)めるようなフォルムとする。また、先端は球体風の形状だ。このデザインは、新幹線などを参考にしたそうで、走行中にボディ上部が空力でしっかりと下に押さえつけられ、高い走行安定性を生むという。また、ボディ後方を広めにすることで、キャブコンとして可能な限り余裕ある室内スペースを確保する。
また、ボディの各部には、凹みも設けられているが、これは、ディンプル効果という空力を狙ったものだ。ディンプル効果とは、ボディの凹みに空気が入ることで乱気流が発生し、空気の流れをボディから剥離させる効果のこと。同社によれば、「ゴルフボールの表面がデコボコしているのと同じ原理」だという。これにより、ボディが走行中に風の影響を受けにくくなり、横風に強く、前からの走行風による抵抗も低減する。ほかにも、曲面を多用した形状を用いることで、ワイルドながら、流麗なイメージなども生み出している。
FRP一体成形となるCSボディ(筆者撮影)
ちなみに、ボディサイズは全長5640mm×全幅2100mm×全高2890mm。ベース車の前席と後席はそのまま残しているため、乗車定員は4名を確保している。
アストラーレGX4の内装
アストラーレGX4のインテリア(筆者撮影)
一方の室内は、前述のとおり、国内専用仕様だ。車体後部にあるエントランスからステップを上がり中に入ると、すぐ左側にキッチン。棚には電子レンジや45L冷蔵庫なども装備する。3.6KWhサブバッテリーを搭載するため、キャンプ場などでエンジンを停止したままでも家電製品を使うことが可能だ。通路を挟んで反対側の右側には、トイレやシャワーなどを装備できるマルチルームもある。
室内中央には、4人がけソファのあるダイネット(リビング)。テーブルは収納式で、ソファを展開すればベッドにすることも可能だ。室内前方の上方には、常設ベッドとなるバンクベッドも装備。ベッドは回転式のため、収納すれば荷物を置くことも可能だ。ほかにも、おしゃれな雰囲気を演出するグラスホルダー、高い断熱性を持つアクリル二重窓など、さまざまな快適装備も満載だ。
なお、就寝定員は3+2(子ども)名。ファミリー層などでも、十分にクルマ旅を楽しめる仕様となっている。
今後の開発
展示車両に装着されていたホイール&タイヤ(筆者撮影)
今回の展示車では、ほかにもオプションとして、ツイン6本スポークの社外製ホイールや、横浜ゴム製のジオランダーA/T4というブロックパターンタイヤ(サイズ265/65R17LT)などを装備。よりアウトドアテイストをアップする各パーツ類も装備されている。なお、価格(税込み)は、展示車の場合で1226万5000円だ。
バンテックの担当者によれば、今回の展示車は、これも先に述べたようにプロトタイプ。今後、さらに細部を煮詰めるが、とくに足まわりはさらなる強化を図るという。専用サスペンションなどを開発することで、キャビン架装による重量増に対応。加えて、オフロードなどでの走破性もアップさせる予定だ。
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そうした開発目標の背景には、おそらく、このモデルが4WD性能の高いハイラックスをベースとすることや、野性的スタイルを持つことも大きく関連しているだろう。一般的なキャンピングカー愛好家だけでなく、オフロード走行を楽しみたいユーザーも興味を持つはずだからだ。そして、これらの味付けにより、同社では、このモデルを、野山のハードなオフロードも走行でき、多様なアウトドア・フィールドを楽しめる「クロスカントリー・キャンパー」という新ジャンルを育てたいようだ。
なお、アストラーレGX4の正式発表は、2025年2月頃を予定。幕張メッセで毎年開催されている「ジャパンキャンピングカーショー」で、完成版を披露するという。ともあれ、日本でも人気の高いハイラックスをベースとし、従来にない新感覚のキャンピングカーが、今後どのように進化するのか、今から非常に興味深い。
(平塚 直樹 : ライター&エディター)