「心筋梗塞の治療法」はご存知ですか?治療期間や費用も医師が解説!
心筋梗塞の治療法とは?Medical DOC監修医が心筋梗塞の治療法・手術内容・治療薬・治療期間・費用・予防法などを解説します。
≫「急性心筋梗塞の前兆となる3つの初期症状」はご存知ですか?医師が解説!監修医師:
佐藤 浩樹(医師)
北海道大学医学部卒業。北海道大学大学院医学研究科(循環病態内科学)卒業。循環器専門医・総合内科専門医として各地の総合病院にて臨床経験を積み、現在は大学で臨床医学を教えている。大学では保健センター長を兼務。医学博士。日本内科学会総合専門医、日本循環器学会専門医、産業医、労働衛生コンサルタントの資格を有する。
「心筋梗塞」とは?
心筋梗塞とは、心臓の筋肉に酸素を送る血管である冠動脈がつまることにより、心臓の筋肉が壊死する疾患です。胸痛、胸部圧迫感、冷汗などの症状が現れます。命に関わる緊急性の高い疾患であり、迅速な診断と早期の治療が必要です。
心筋梗塞の治療法
治療法は、患者さんの病状や病期によって異なります。薬物療法、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス術、心臓リハビリテーション、栄養指導などが一般的です。以下に、各々の項目について要点を説明いたします。
薬物療法
心筋梗塞の基本となる治療です。具体的には、血栓を溶解するための血栓溶解薬、血を固まりにくくする抗血小板薬、β遮断薬、ACE阻害薬などが使用されます。これらの投薬治療は、循環器科で行われます。入院中は、患者さんの病状と病期に応じて投薬内容を見直します。退院後は、定期的な外来受診において、再発予防を目的とする薬物療法となります。
経皮的冠動脈インターベンション
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は、カテーテルという管を冠動脈に挿入して、バルーンを膨らませることで、つまった病変部位を広げる治療です。広げた後に、金属製のステントを留置することが多いです。循環器専門病院への入院が必要です。通常、局所麻酔下で行われるため、非侵襲的な治療に属します。急性期治療として用いられることが多く、有効性が高い治療です。主に、循環器内科医師が行います。合併症が起こらなければ、入院期間は数日から1週間程度です。
冠動脈バイパス術
冠動脈バイパス手術(CABG)は、薬物治療や経皮的冠動脈インターベンション治療が効果的でない場合や、複数の血管が狭まっている場合に行われます。循環器専門病院への入院が必要です。全身麻酔で行われるため、侵襲を伴う治療です。心臓血管外科医が行います。この手術では、体の他の部分から採取した血管(足の静脈や胸部の動脈など)を利用して、つまった病変部位を迂回して新しい血流路を作ります。術後の患者さんの回復具合にもよりますが、一般的には数週間から数ヶ月の入院期間が必要です。
心臓リハビリテーション
治療後の心臓リハビリテーションにはさまざまなプログラムが組まれますが、中でも運動療法がメインとなります。患者さん一人一人の病態に応じて、個別の運動プログラムが組まれます。循環器専門病院の中でも心臓リハビリテーションを行うことができる施設でなければ、この治療を受けることはできません。医師のみでなく、理学療法士、看護師、薬剤師、栄養士、臨床心理士などの多職種の医療専門スタッフが関わるのが特徴です。一般的には、軽度から中等度の有酸素運動(ウォーキングやエアロバイクなど)から始まり、心臓機能の状態をみながら段階的に進められ、心臓機能の回復とともに、全身的な持久力と筋力を強化します。
栄養指導
心筋梗塞の再発防止のため、栄養指導は重要です。バランスの取れた食事を通じて、血圧、脂質、血糖の適切な管理が可能となる指導を行います。具体的には、適切なカロリー摂取のもと、塩分、糖分、脂肪の摂取を控える食事内容の指導が行われます。
心筋梗塞の手術内容
現在は侵襲が少ない経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が選択されることが多いです。主に、循環器内科医師が行います。経皮的冠動脈インターベンションには、さまざまな手法があります。代表的な3つを説明いたします。
ステント術
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の手法の1つです。ステントとは、網状の形状をした金属製の管をいいます。方法として、カテーテルを使って、つまった冠動脈をバルーンルーンにて膨らませて冠動脈を広げ、その後にステントを留置します。最近は、ステントに工夫がなされ、再狭窄のリスクを減らすために、薬剤を放出するステントが使われることが多いです。施設が整った循環器専門病院にて行われており、短期間の入院ですむのが利点です。退院後は、定期的な外来通院が必要です。
血栓吸引療法
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の手法の1つです。冠動脈内の血栓を除去する手法です。カテーテルを用いて病変部位の冠動脈内に挿入し、血栓を吸引して取り除きます。新鮮な血栓が原因で冠動脈が閉塞している場合に有効であり、心筋のダメージを最小限に抑えることが可能です。ステント術と同様、施設が整った循環器専門病院にて行われており、短期間の入院ですむのが一般的です。退院後は、定期的な外来通院が必要です。
アテレクトミー
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の手法の1つです。アテレクトミーは、冠動脈内にできたプラークを直接除去する治療です。最も一般的なものに、ロータブレーターがあります。ロータブレーターとは、カテーテルの先端に装着されたダイヤモンド粒子を混ぜたドリルを利用して冠動脈内のつまった病変を削り取る治療です。この治療は、病変部が硬く、ステント治療で血管を広げることが難しい症例で使用することが多いです。高度な治療のため、循環器専門病院の中でも、厚生労働省が認定する施設基準を取得している病院のみが行うことができます。
心筋梗塞の治療薬
患者さんの病態や病期によって使用される治療薬は異なります。代表的な治療薬を紹介いたします。
血栓溶解薬
心筋梗塞は冠動脈に血栓がつまることで起こります。そのため、血栓溶解薬は、急性期に用いられ、血栓を溶かすことで、閉塞した冠動脈を再開通させ、心筋への血流を回復させます。初期投与と持続期で使う量に違いがあります。
抗血小板薬
抗血小板薬は、血小板の凝集を防ぎ、再び血栓が形成されるのを防ぎます。心筋梗塞後の再発予防に有効であり、長期にわたり使用されます。さまざまな種類の薬があります。医師の指示のもと用法用量を守って下さい。
ベータ遮断薬
ベータ遮断薬は、交感神経活性を抑えることにより、心拍数を減少させ、心臓の筋肉が必要とする酸素需要を低下させる薬です。そのため、心臓の負担を軽減し、心臓の機能の回復が可能となります。本薬も、長期的に使用されます。さまざまな種類の薬がありますので、医師の指示のもと用法容量を守ってください。
心筋梗塞の治療期間
患者の重症度や治療法によって治療期間は大きく異なります。急性期治療は発症後できるだけ早期に行われる必要があります。発症から数時間以内が理想です。急性期治療が成功した後は、集中治療室(ICU)に移され、24時間から48時間の厳重な監視下に置かれます。その後、病状が安定すれば一般病棟に移床され、数日から1週間程度の入院が必要です。状態が安定すれば退院となります。その後は、定期的な外来通院が必要です。
心筋梗塞の治療費用
選択された治療内容によって大きく異なります。急性期においては、緊急入院や集中治療室(ICU)での管理などが含まれますし、緊急の経皮的冠動脈疾患インターベンションや血栓溶解療法が行われた場合は高額となります。おおまかな目安として、総額は数十万円から百万円を超えることが多いです。また、内服する薬物治療の費用も無視できません。抗血小板薬、ベータ遮断薬、ACE阻害薬など、心筋梗塞の再発予防のために必要な薬は長期間にわたり服用する必要があります。大まかな目安として、月額数千円から数万円程度となります。しかしながら、多くの治療費は健康保険でカバーされるため、自己負担額は比較的少なく抑えられます。
心筋梗塞の予防法
心筋梗塞の発症は生活習慣病リスク因子が重要な鍵となりますので、これらの因子を適切にコントロールすることが重要です。具体的に以下で説明いたします。
摂取エネルギーの適正化
1日に摂取するエネルギーに注意して食事をとり、適正な体重をめざすことが重要です。適正な体重は等、22×(m換算での身長)2と計算することで求めることができます。そのうえで、総摂取エネルギーに対する栄養素の割合は、脂肪20~25%、炭水化物50~60%が理想です。
アルコールの摂取に注意する
多量の飲酒を避けて、純アルコール換算で1日あたり25 g/以下にとどめましょう。純アルコール(g)への換算は、お酒の量(mL)×[アルコール度数(%)÷100]×0.8で計算可能です。具体的には、ビール大瓶1本、日本酒1合強、ワインで250 mL以下にとどめるのが目安です。
運動
予防のためには、有酸素運動(ウオーキング、ジョギング、自転車など)が最適です。強度としては中等度を目標に、毎日30分以上(少なくとも週に3日)運動しましょう。一般的に中等度の運動とは、自覚的に「きつい」と感じない程度で、運動時の心拍数が100~120拍/分が目安です。
「心筋梗塞の治療」についてよくある質問
ここまで心筋梗塞の治療を紹介しました。ここでは「心筋梗塞の治療」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
心筋梗塞は手術をせずに治療することはできますか?
佐藤 浩樹 医師
薬物治療で改善する場合は、必ずしも手術は必要ありません。使用される代表的な薬物は、血栓溶解薬です。さらに、抗血小板薬やベータ遮断薬、ACE阻害薬などの薬剤が追加されることが多いです。
編集部まとめ
心筋梗塞の急性期の死亡率は、7~9%と報告されており、命に関わる疾患です。発症から時間経過とともに心臓の筋肉が壊死するので、早期発見および早期治療が重要です。また、発症には生活習慣病因子が大きくかかわっているので、日常生活を見直し、食事や運動などで予防対策に努めてください。
「心筋梗塞」と関連する病気
「心筋梗塞」と関連する病気は7個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
循環器科の病気
狭心症心膜炎解離性大動脈瘤
肺塞栓症呼吸器科の病気
胸膜炎消化器科の病気
胃食道逆流症整形外科の病気
肋間神経痛心筋梗塞と似た症状を呈する疾患は多いです。心筋梗塞と同様に、命にかかわる疾患もあるので、鑑別診断と治療を目的に、早期に医療機関を受診することをお勧めします。
「心筋梗塞」と関連する症状
「心筋梗塞」と関連している、似ている症状は8個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
胸痛
胸部圧迫感
左肩が痛い左腕が痛い
顎の痛み
冷や汗
胃部が痛い
背中が痛いこれらの症状は心筋梗塞以外の疾患でも起こります。軽い病気に伴う症状と誤解することもしばしばあります。命に関わる疾患に伴う症状の場合もあるので、早めに医療機関を受診して適切な指示をもらうことが重要です。
参考文献
急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
経皮的冠動脈形成術(PCI)とは?(国立循環器病研究センター)