東大宇宙博士が「地球外生命体」について解説します(写真:ktsimage/PIXTA)

「小惑星探査」や「火星移住」などのニュースから、UFO宇宙人の話題まで、私たちの好奇心を刺激する「宇宙」。だが、興味はあるものの「学ぶハードルが高い」と思う人も少なくない。

知らなくても困らない知識ではあるが、「ブラックホールの正体は何なのか」「宇宙人は存在するのか」など、現代科学でも未解決の「不思議」や「謎」は多く、知れば知るほど知的好奇心が膨らむ世界でもある。また、知見を得ることで視野が広がり、ものの見方が大きく変わることも大きな魅力だろう。

そんな宇宙の知識を誰でもわかるように「基本」を押さえながら、会話形式でやさしく解説したのが、井筒智彦氏の著書『東大宇宙博士が教える やわらか宇宙講座』だ

その井筒氏が「地球外生命体」について解説する。

宇宙人に対する科学者の「3つの見解」


今回は、地球外生命について見ていきましょう。

果たして宇宙のどこかには、人間のような、あるいは、人間を超える知性をもった宇宙人がいるのでしょうか。

じつは科学者の間でも、宇宙人に関する見解が分かれています。

以下に紹介する「3つの意見」のように、科学者の間でも、じつは

宇宙人いる派」と「宇宙人いない派」

で分かれているのです。

その「3つの意見」というのは、次のようになります。

宇宙人に対する科学者の「3つの見解」】

1 宇宙にある星の数を考えると、「宇宙人はいる(地球外知的生命は存在する)」
2 人間のような知的な生命はいないが、「微生物のような生命ならいる」
3 生命が生まれ、進化していくのは簡単ではないので、「宇宙人なんていない」

それぞれ、どのような考えを持っているのか、説明していきましょう。

宇宙人はいる派」の意見は?

【1】「宇宙人はいる」

宇宙にはとんでもない数の星があります。天の川銀河にはざっと2000億個の星があり、宇宙にはそんな銀河が2兆個もあります。

そんな宇宙も観測できるごく一部の範囲でしかありません。宇宙はそれだけ広範囲で、星がたくさんあるのです。


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そんななか、「知性をもった生命が、地球にしかいないなんて不自然だ」と考える人も多いでしょう。

宇宙にある星の数を考えると、いるに違いない」、これが「宇宙人はいる派」の考えです。

「どのくらい宇宙人の住む星が存在しそうなのか」を見積もった研究があります。

2020年の論文によると、「天の川銀河のなかに、宇宙人文明は36個ある」と書かれています。

いろんな仮定に基づいて推定したものですので、確実にあるというわけではありません。

それでも、具体的な数字が出るとワクワクしますよね。

【2】「微生物のような生命ならいる」

宇宙人に対する2つ目の考えは、「人間のような知性をもった生命はいないが、微生物のような生命ならいるのではないか」というもの。

言い換えると、「地球外知的生命」はいないけど、「地球外生命」ならいるという意見です。

「知的」ではないが「生命」はいる

地球外生命でしたら、太陽系のなかにうじゃうじゃいるかもしれません。その候補地と考えられるのが、次の3カ所です。

【太陽系のなかで「地球外生命がいる」と期待できる場所】
火星
木星の衛星「エウロパ」
土星の衛星「エンケラドス」

火星には太古の昔には広大な海があったようなので、生命が存在した可能性は大いにあります。

もしかしたら、地表には化石が転がっているかもしれませんし、地中にはいまも微生物のような生き物が生き残っているかもしれません。

現に、火星の生態系に配慮して、火星探査機を滅菌しているくらいです。

火星以外の候補地、木星の衛星「エウロパ」や土星の衛星「エンケラドス」の表面は氷で覆われていて、その氷の下には広大な海があると考えられています。

その海には、生命の材料となる「有機物」があり、生きるために必要な「エネルギー」もあると期待されています。

地球外生命がたくさんいてもおかしくない環境

つまり、地球外生命がたくさんいてもおかしくない環境だということです。

エウロパもエンケラドスも間欠泉があり、海の水が表面から吹き出すことがあります。

現地に行ってその水を採取し持ち帰ってくる探査機「はやぶさ」のような計画が検討されていますので、地球外生命の存在はこうした探査で決着がつくかもしれません。


衛星の海には、生き物はいるのか?(イラスト:村上テツヤ)

【3】「宇宙人なんていない」

太陽系に地球外生命の存在は期待できます。とはいえ、科学者のなかには、「宇宙人はおろか、地球外生命さえもいやしない」と考えている人もいます。

「そんなの夢がなさすぎる!」と思う人に知っていただきたいのは、「僕らは宇宙における生命を1種類しか知らないということ」です。人間以外にも、鳥、猫、虫、植物……いろいろな生き物がいるように見えても、地球生命は1種類しかいないのです。
 
どういうことなのでしょうか? じつは、地球にいる生き物はすべて親戚で、元をたどると、共通の祖先にたどりつきます。その証拠に、地球上のすべての生物は、共通するメカニズムで生きています。

地球上の生物に共通するメカニズムとは

どんなメカニズムなのかといいますと、簡単にいえば、本(DNA)にいろいろな設計図(遺伝子)が書いてあり、世話人(RNA)が設計図をコピーして工場(リボソーム)に届け、その設計図をもとに部品(タンパク質)がつくられるという仕組みです。

生物学の専門用語で「セントラルドグマ」といいます。じつは、微生物も人間も、みんな共通する仕組みで生きているのです。


地球上生物に共通する「セントラルドグマ」(イラスト:村上テツヤ)

問題なのは、その地球生命の「起源」。

私たちの先祖を根本までたどった「地球で最初の生命」が、どのようにして生まれたのかは、謎に包まれています。

宇宙の生命だけでなく、地球の生命も、その誕生のメカニズムは謎。宇宙で生命が誕生することが、必然なのか、偶然なのかもわからないのです。

火星や衛星の海に微生物さえもいなければ、生命は誕生すら難しいかもしれません。逆に予想外に進化した生き物がいれば、生命の誕生も進化も特別なことではないのかもしれません。

宇宙人」は「科学の視点」で迫ると、実に面白いテーマ

宇宙のいろいろな場所で生命が見つかるようになれば、生命は「ありふれた存在」ということになります。

「地球以外の場所でどんな生命が見つかるのか、あるいは見つからないのか」によって、地球生命の意味合いが変わってきます。

もちろん、宇宙において生命がありふれたものだとしても、地球生命が尊いものであることには変わりはありません。

地球生命と宇宙生命の謎は、絡み合っています。

「自分の身の回りにいる生き物たちについて深く知ることが、宇宙人がいるかどうかの謎を解くカギになる」

そう思うと、目に映る景色の見方が変わりませんか?

宇宙人」は、科学の視点で迫ると、じつに面白いテーマなのです。

(井筒 智彦 : 宇宙博士、東京大学 博士号(理学))