(写真:maruco/PIXTA)

写真拡大

全国150カ所を超える河川や地下水などから、続々と検出されている発がん性物質の有機フッ素化合物(以下、PFAS)。

防水加工されたフライパンやカーペット、容器包装紙、化粧品など、さまざまな日用品に使用されており、取り扱う工場付近の土壌や河川などから汚染が見つかっている。

米軍基地で使用している泡消火剤にも含まれており、米軍基地周からも高濃度のPFASが検出され、問題になっている。

横田基地(東京都福生市など)では昨年1月、米軍が起こした高濃度PFASを含む汚染水漏出事故を、米軍からの要望で日本政府が隠蔽していたことが明らかに(7月10日付東京新聞)。

また、昨年10月には、岡山県吉備中央町の浄水場から国の暫定目標値の28倍にあたる濃度のPFASが検出。

最近では、神戸市内の地下水でつくられたペットボトルのミネラルウオーターから、国の基準値50ナノグラム/lを超える100ナノグラム/lのPFASが検出されていた(7月12日読売新聞オンライン)。

相次ぐ汚染水の検出で、環境省と国土交通省は都道府県や水道事業者などに対し、全国の水道施設約1万2千カ所に調査を求めている。

気がかりなのは、健康への影響。

PFASの汚染調査を行っている京都大学(環境衛生学)准教授の原田浩二さんは、こう指摘する。

「摂取したからといって、すぐなんらかの影響が出るわけではありません。しかし、長期間にわたって摂取する量が多いと、肝臓がんや精巣がん、脂質異常症の原因となるコレステロール値の上昇、出生時体重の低下、甲状腺疾患などが増加することがアメリカの調査で示されています」

欧米では10年ほど前からPFASの規制が進んでいるが日本は出遅れている。

■欧米と比べるとゆるゆるの日本の基準値

日本の食品安全委員会は先月25日、PFASのなかでも毒性の高い“PFOA”と“PFOS”それぞれで、体重1kgあたり20ナノグラムを“耐容一日摂取量”にすると決定した。

耐容一日摂取量とは、ヒトが一生涯にわたって摂取し続けても健康に悪影響がないと推定される1日あたりの“摂取許容量”のこと。

しかし、欧米の摂取許容量は比べものにならないほど厳しい。

「欧州食品安全機関は、“PFOA”と“PFOS”ほか2種類の合計で体重1kgあたり0.63ナノグラムに設定。米環境保護局も、PFOAは0.1ナノグラム/kg、PFOSは0.03ナノグラム/kgに設定しました」(原田さん、以下同)

つまり日本は、欧州の約60倍、米国の約200〜600倍も摂取許容量がゆるいことになる。

なぜ、これほど差があるのか。

「この10年でヒトへの調査も多数行われ、健康への影響も小さくないことがわかってきました。

たとえば、子どもにジフテリアや破傷風のワクチンを接種した際、血中PFAS濃度が高い子どもほど抗体がつきにくかった。

また、妊婦のPFAS血中濃度が高いほど、乳児の出生時体重が低下していた、などの調査結果が報告されており、欧米ではこうしたデータを考慮して数値を厳しく見直した。しかし、日本の食品安全委員会は、約20年前の動物実験のみを参考にしています」

加えて日本は、PFASの“発がん性”も無視している。

世界保健機関(WHO)のがん研究機関(IARC)は昨年、PFOAを4段階ある分類のうちもっとも高い“発がん性がある”と決定。

ところが食品安全委員会は、IARCが示した研究結果には、《発がんがあったとするものや、なかったとするものもあり、“一貫性がない”》として、摂取許容量を決定する際の判断材料としなかった。

「食品安全委員会は、ヒトでの結果だけ見て判断していますが、ヒトはみんなが同じ生活習慣を持っているわけではないので、結果にバラつきは生じます。

しかしIARCは、ヒトだけでなく、動物実験での発がん性や、がん発生のメカニズムが明確であるかなど、3つの観点から総合的に評価して“発がん性がある”と結論づけているのです」

つまり、日本は自分たちに都合のいいデータで決めているのだ。

こうした国の姿勢に対し、「多摩地域の有機フッ素化合物汚染を明らかにする会」の代表、根木山幸夫さんは、こう憤る。

「食品安全委員会に対して、〈もっと規制を強化してほしい〉と3,900件あまりのパブリックコメントを集めて提出しましたが、まったく考慮されませんでした。

完全な証明ができないから考慮しないのでは、“第二の水俣”になってしまう。予防原則に立って考えてほしい」

日本と異なり、各国では、飲料水の基準値も厳しくなっている。

「摂取許容量は、あくまで健康影響に配慮した数値。飲料水の基準値は、摂取許容量をもとに、各国が現段階で達成できる数値を定めています」(原田さん、以下同)

■飲料水に含まれる基準値は現状維持のまま?

ドイツは4種類のPFASを合計して、20ナノグラム/lに規制する動きが進んでいる。米環境保護局は、合計70ナノグラム/lだった勧告値を、今年4月に引き下げて4ナノグラム/lという厳しい基準値にした。

「ただし最終目標とすべき飲料水のPFAS濃度は“0”だと言っています」

日本の飲料水の基準値は、現在50ナノグラム/l。これから新基準が設定されるが、「現状維持になる」と予測されている。

自身でできる対策はあるのか。

「PFASを摂取する主な経路は、飲み水です。まず自分が住む町の水はどうなのか、自治体のホームページを見たり問い合わせて、汚染の状況を把握することが重要です。

そのうえで“浄水器”の設置が有効です。安価な活性炭フィルターを自宅の蛇口につけるだけでも、およそのPFASは取り除けます」

さらに、化粧品や包装紙など、PFASが使用されていないかチェックし、含まれている製品の購入は避けることも大切だ。

個人でできる対策を取りながら、国や自治体に対策を求めていこう。