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順番に昼休みを取るよう伝えたらパワハラ扱いされてしまった──こんなXでの投稿が話題になっています。

金融機関で働いているという投稿者が就業中、女性社員3人が連れ立ってランチに出てしまい、電話や来客に対応してくれる人が不在だったことに気づいたそうです。

そこで、「一斉にランチに行くんじゃなくて順番で昼休みを取るような工夫して」と伝えたところ、「『パワハラ事案について』というメールを本部に送られてしまった」といいます。

この投稿に対しては、「お昼休みの電話受付止めればみんな幸せ」「自分が電話番してればいいのでは」といった声のほか、「休憩時間は一斉に取らせないとダメなルール」といった指摘も寄せられていました。

昼の時間帯に同僚や仲間と一緒に食事してリフレッシュするというのはオフィスでは珍しくない光景ですが、雇用主側が休憩時間を一斉に取らせないといけないというのは本当なのでしょうか。加藤寛崇弁護士に聞きました。

●休憩は“一斉付与”が原則だが…「例外が広範囲で認められている」

──休憩時間について、法律はどのように定めていますか。

労働基準法では、雇用主は、従業員の1日の労働時間が、6時間を超えるときは「45分以上」、8時間を超えるときは「1時間以上」の休憩時間を与えなければならないと定めています(34条1項)。

この休憩時間は、「一斉に与えなければならない」と定められています(34条2項)。「休憩時間は一斉に取らせないとダメ」という指摘は、このことを指していると思われます。

──必ず一斉に与えないといけないのでしょうか。

いえ、この「一斉付与の原則」に対しては、かなり広い例外があります。

一つは、従業員の過半数以上が加入する労働組合又は従業員の過半数代表者との労使協定がある場合です(労基法34条2項但書)。

もう一つは、一斉付与が困難な事業として、労基法施行規則31条で列挙された事業及び官公署の事業の場合です(労基法40条1項、別表第一)。同施行規則で列挙された事業は次の通りです。

・道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業
・物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
・金融、保険、媒介、周旋、集金、案内又は広告の事業
・映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業
・郵便、信書便又は電気通信の事業
・病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
・旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業

このように、例外に当たる事業はかなり広範囲で、来客・電話対応を必要とする業種は、例外事業の該当するものが大半だと思われます。今回話題となったケースである金融業も該当するので、一斉に休憩を取らせなくても労働基準法には違反しません。

●たとえ例外事業でも「労働条件に違反していないか」は要注意

──例外に当たる場合はどのように休憩を取らせてもいいのでしょうか。

法令上の休憩規制とは別個の問題として、労働条件に違反していないかという問題もあります。

労働条件通知書や就業規則で昼休憩が何時から何時までと明記されていれば、それが労働条件として定められた休憩時間帯となるので、従業員の同意なしにずらすことはできません。

また、休憩時間帯が定まっていない場合でも、法令上の休憩付与は雇用主の義務なので、いつ休憩を取るのか従業員任せにするのは適当ではありません。

── 一斉休憩を避ける仕組みとしてどのような方法が考えられますか。

たとえば、「昼休憩 11時30分〜13時30分のうち1時間とし、時間帯は従業員ごとにシフトで定める」などと就業規則等で定めた上で、シフトで休憩時間をずらして付与するといった運用が考えられます。   なお、一斉付与が雇用主に義務づけられるのは、あくまで1日の労働時間が6時間を超える場合の雇用主が義務として付与する休憩の場合です。1日の労働時間が6時間以下のパート従業員については休憩を付与する義務がないので、一斉付与も義務ではありません。

仮に例外となる事業に該当せず、労使協定も困難だが休憩時間をずらして付与することが必要なのであれば、パート従業員を雇用して調整することも考えられます。

【取材協力弁護士】
加藤 寛崇(かとう・ひろたか)弁護士
東大法学部卒。労働事件、家事事件など、多様な事件を扱う。労働事件は、労働事件専門の判例雑誌に掲載された裁判例も複数扱っている。
事務所名:みえ市民法律事務所
事務所URL:https://miecitizenlaw.com/