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これも「生活の知恵」なのだろうか──。スーパーマーケットに置いてある無料の「わさび」や「牛脂」を刺身や肉を買わずに持ち帰っていいかという相談が弁護士ドットコムに寄せられた。

相談者にはすでに持ち帰り“実績”があり、値札がなく代金を請求されたことはなく、とがめられたことはないようだ。わさびはマヨネーズに混ぜたり、アボカドにつけて食べるために欲しいのだという。牛脂は油の代用だとみられる。

スーパーでは、わさびや牛脂のほか、小袋に入った醤油や塩コショウを利用客の持ち帰り用に無料で提供していることがある。タダとはいえ、本来の用途とは無関係に持ち帰って問題ないだろうか。大和幸四郎弁護士に聞いた。

●悪質な持ち帰りは「窃盗罪」のおそれも

──無料提供のわさびや牛脂は、制限なく持ち帰って良いのでしょうか。

結論から申し上げますと、ダメでしょう。

常識の範囲内で持ち帰ることのみが許されていると考えるのが普通で、それがスーパー側の意思でもあると思います。その意思に反して制限なく持って帰ると、場合によっては窃盗罪(刑法235条)が成立する可能性があります。

──刺身や肉を買わずにわさびや牛脂を持ち帰ることは問題ないのでしょうか。

一般的に、無償提供のわさびや肉は刺身や肉料理のために利用して欲しいというのが、スーパー側の意思でしょうし、刺身や肉料理のために利用したいという他の客が持ち帰れなくなるおそれもあることから、刺身や肉を買わずに持ち帰ることは原則として認められないと思います。

──刺し身や肉は買わないものの、他の商品を購入するついでに持ち帰る場合はどうでしょうか。

難しい問題で、スーパー側の対応によるのではないでしょうか。

他の商品を購入してもらえば、スーパーとしては利益につながるので、他の商品を購入するついでなら「セーフ」という店もあるかもしれません。ただし、刺身や肉を購入する他の客が持ち帰りできなくなるおそれを考慮して「アウト」と判断する店もありそうです。

──スーパー側としては、特定の客に全部持っていかれるような事態を避けるためにはどんな対策をとることが考えられますか。

「個数制限」のほか、究極的な手段として「提供サービスの終了」や「出入り禁止措置」などが考えられると思います。

実際には、「肉1パックにつき牛脂1個まで」といったような個数制限を実施している店舗も少なくないのではないでしょうか。店側の意思が明示されている以上、許される範囲を超えた個数を無断で持ち帰れば、前述のように窃盗罪が成立する可能性があります。

出入り禁止措置については慎重に判断すべきですが、真似をして大量に持って帰る客が増えるなどの悪影響への懸念なども考慮すると、出入り禁止措置も可能だと思います。

私もよくスーパーに買い物に行くのですが、「大」サイズのビニール袋を大量に持って帰る客が一定数いたため、「大」の提供をやめて「中」だけとなって不便になった経験があります。

たしかに物価高の中、出費を抑えようと無償のサービス品を大量に持ち帰りたい気持ちもわからなくないですが、スーパー側の意思や他の客のことを考え、みんな気持ちよく買い物できるようにルールを守ることが大切だと思います。

【取材協力弁護士
大和 幸四郎(やまと・こうしろう)弁護士
佐賀県弁護士会。2010年4月〜2012年3月、佐賀県弁護士会・元消費者問題対策委員会委員長。佐賀大学客員教授。法律研究者、人権活動家。借金問題、相続・刑事・男女問題など実績多数。
事務所名:武雄法律事務所
事務所URL:http://www.takeohouritu.jp/