JR東日本の駅に設置されているATM「VIEW ALTTE」の特典もある(筆者撮影)

JR東日本がデジタル金融サービス「JRE BANK」を5月9日に開始した。初日には申し込みが殺到し、早々に受付を終了したほど。本来なら約1週間で届けられるキャッシュカード一体型の「JRE BANKデビット」の受け取りに、約3〜4週間もかかる状態となっている。

人気の理由は、銀行取引の特典に加えて、JR東日本グループならではの3つの特典に魅力があったからだ。詳しく説明しよう。

鉄道系ならではの3つの特典

JRE BANKは楽天銀行を所属銀行とした金融サービス。JR東日本グループのクレジットカード会社「ビューカード」が銀行代理業者となり、楽天銀行内に支店を持ち、預金や入出金、住宅ローンなどの業務を行う。すでに楽天銀行の口座を持っている人も、JRE BANKの口座を開設することができる。

支店名は「JREはやぶさ支店」「JREとき支店」「JREこまち支店」となるものの、ベースとなる銀行サービスは楽天銀行のもの。そのため条件をクリアすることでATM手数料や振込手数料などの優遇が得られる楽天銀行の「ハッピープログラム」とほぼ同様の「JRE BANKプラス」というサービスを提供する。

これらのATM手数料や振込手数料などの優遇については、現在、多くの銀行が提供しているので、さほど目新しくはない。JRE BANKではこのJRE BANKプラスに加えて、JR東日本グループならではの鉄道の特典があり、これに魅力を感じて申し込みが殺到していると思われる。

JRE BANKの鉄道のお得な特典は次の3つになるが、それぞれのメリットと、注意すべき点について解説する

・「JRE BANK優待割引券(4割引)」最大年10枚プレゼント

・「どこかにビューーン!2000ポイント割引クーポン」最大年12枚プレゼント

・「(モバイルSuica限定)Suicaグリーン券」最大年4枚プレゼント

新幹線が4割引になるのはメリット大

この3つの特典の中で一番お得といえるのが、JRE BANK優待割引券だ。JR東日本路線内の片道運賃や片道料金が4割引になる。JR東日本の指定席予約サービス「えきねっと」で購入できる乗車券等が対象で、JR東日本の新幹線にも利用できる。

新幹線や特急の場合、早めに購入することで0.5〜3割引になったりするが、対象となる乗車券の枚数が少なく、購入したいときにはなくなっていることが多い。ところがこの優待割引券があれば、いつでも4割引になるのは魅力的だ。


「JRE BANK優待割引券(4割引)」の特典を得るための条件(画像:JR東日本)

例えば、東京→仙台の場合、通常1万0890円(新幹線eチケット)が約6500円になって約4400円の割引になる。新幹線やJR特急列車なら乗車券に加えて特急券、急行券、グリーン券、座席指定券などの片道料金が割引になる。グランクラス、プレミアムグリーン、個室、寝台列車は普通片道乗車券のみで特急料金などは割引されない。

この特典を得るためには、年2回の判定日に50万円以上の資産残高があり、JR東日本グループのクレジットカード「ビューカード」の利用代金の引落、給与や賞与、年金などの受け取りをしていることが条件。筆者の場合、50万円以上の資産残高とビューカードの引落がクリアできそうなので、年2枚の優待割引券が期待できる。

ただし、この優待割引券の有効期限は約6カ月なので、使い切れない可能性がある。しかも対象はJR東日本の電車なので、JR東海の東海道新幹線は対象外。つまり、東京から関西への新幹線には使えない。金沢・敦賀まで延伸した北陸新幹線も、割引の対象は東京〜上越妙高間になるので注意したい。

このようなお得な特典はサービス開始当初だけだと思う人も多いようだが、JRE BANKの公式サイトには、2025年度以降の判定タイミングの記載がある。ひょっとすると2026年度は条件が変わるかもしれないが、少なくとも2025年度までは当初の条件で優待割引券がもらえるだろう。

JR東日本の沿線に住み、ビューカードとモバイルSuicaを利用し、50万円以上預けられる人なら、口座開設するメリットは大きいだろう。

2つ目の特典は、「どこかにビューーン!2000ポイント割引クーポン」最大年12枚プレゼント。「どこかにビューーン!」とは、JR東日本がおすすめする4つの行き先候補駅のどれか1つの駅まで、JRE POINT6000ポイント(例外あり)で往復できるサービス。条件を達成すると、このサービスが2000ポイント割引になり、4000ポイントで利用できる。


「どこかにビューーン!」の特典を得るための条件(画像:JR東日本)

しかも条件はビューカードの引落、給与の受け取りをしている人なら、年4回の判定時に50万円以上の資産残高で年12枚がもらえる。前述のJRE BANK優待割引券に比べてハードルが低く、すべて利用すると2万4000ポイントも割引になってかなり得できそうだが、あながちそうではない。

JRE POINTは登録したSuicaやビューカードを使って加盟店で買い物することで基本100円(税抜)ごとに1ポイントが貯まる。

JR東日本エリアの電車(定期券区間は除く)に乗ったり、えきねっとで乗車券を購入することでも貯まるなど、ポイントは貯めやすいほうだが、どこかにビューーン!の特典を年12枚使うためには、年4万8000ものポイントが必要になる。単純計算で年480万円の買い物をする必要があるというわけだ。また有効期限が約6カ月になるので、特典を多くもらっても特典を使うために必要な4000ポイントを貯められず、使い切れないケースが出るのではないかと思われる。

日常的に使いやすい「Suicaグリーン券」

3つ目の特典は、「(モバイルSuica限定)Suicaグリーン券」最大年4枚プレゼント。Suicaグリーン券は湘南新宿ラインや横須賀・総武線快速、東海道線などの普通列車のグリーン車で利用できる。料金は50kmまで750円、100kmまで1000円、101km以上は1550円となるのだが、この特典があれば乗車料金のみでグリーン車の座席が利用できる。

長時間立って乗車するようなときにグリーン車の座席が空いていれば、モバイルSuicaでサクッと登録して利用できるところが便利だ。


「Suicaグリーン券(モバイルSuica限定)」の特典を得るための条件(画像:JR東日本)

この特典の条件は、年4回の判定時に50万円以上の資産残高のみ。ただ、最大年4枚とこれまでの特典と比べると少ない。提供枚数が少ない=あまり利用してほしくない=利用価値が高い特典だということが想像できる。

Suicaグリーン券の有効期限は約3カ月になるが、仕事やちょっとしたレジャーで、年4枚くらいはラクラク利用できそうだ。足りない場合は、距離に関係なく基本JRE POINT600ポイントでSuicaグリーン券に交換できることも覚えておきたい。

JRE BANKにはこれら鉄道の特典のほかに、前述した銀行取引に関する特典がある。このJRE BANKプラスには5段階の会員ステージがあり、資産残高や銀行の取引件数によって提携ATMの手数料や他行への振込手数料の無料回数、銀行取引によるJRE POINT獲得倍率が変わる。


「JRE BANKプラス」の会員ステージごとの特典内容(画像:JR東日本)

これらの特典の中で特に魅力的なのが、JR東日本の駅を中心に381台設置されているATM「VIEW ALTTE(ビューアルッテ)」の引出手数料が、会員ステージに関係なく何度でも無料になることだ。


VIEW ALTTE。JRE BANKが開始したことでサインパネルを新デザインに変更中(画像:JR東日本)

3大メガバンクでは2020年や2021年にATM手数料が無料になる条件が変更になり、給与や年金の受け取り、投資信託の利用、紙の通帳をやめてインターネット通帳にするなどの条件が課せられるようになった。筆者はそれらの条件を達成できていないため、ATM手数料がかからない平日昼間に出金するよう心掛けている。

キャッシュレス決済が増えてATMでの出金はかなり少なくなったが、どうしても現金が必要になることもある。そんな出金のタイミングを考えなければいけないストレスがJRE BANKではなくなる。しかも駅を利用するついでに現金を引き出せるのが実に便利だ。

銀行取引でJRE POINTが貯まる

最近では給与振込、投資信託の利用など、銀行取引でポイントが獲得できるケースが増えてきた。JRE BANKでもプレミアム会員以上ならJRE POINTの獲得倍率が2または3倍になり、他行への振込や他行からの振込、給与などの受け取りでそれぞれ2または3ポイントを獲得。JRE BANKからビューカードの利用料金を5000円以上口座振替することでも、毎月10ポイントが得られる。


「JRE BANKプラス」の会員ステージごとのJRE POINT獲得数(画像:JR東日本)

これらの銀行取引の回数が、翌月の会員ステージの決定にも影響する仕組みだ。会員ステージ決定は残高または取引件数の条件において、どちらか上位ステージになったほうが優先されるので、仮に残高が50万円以上に及ばなかったとしても、取引件数が10件以上あれば会員ステージはプレミアムになる。


JRE BANKのアプリ画面。さまざまな取引やJRE POINT獲得数などの確認もスマホで完結する(画像:JR東日本)

JRE BANKではJCBブランドのデビット機能付きのキャッシュカード「JRE BANKデビット」が発行され、このカードで即時払いのデビット決済することでも、500円につき1ポイント(20歳以上)が貯まる。ただビューカードのクレジット払いのほうが1000円につき基本5ポイントとポイント還元率が高い。

なお、特典の対象となるビューカードとは、「ビュー・スイカ」カードや「JRE CARD」、「ビックカメラSuicaカード」など、JR東日本グループのクレジットカードのこと。提携他社が発行する「イオンSuicaカード」や「ANA Visa Suicaカード」など(「ii」マークがあるカード)は対象外となる。

口座開設で最大6000ポイント

現在、実施中の口座開設キャンペーンも見逃せない。このキャンペーンではJRE BANKの口座を開設し、期間中の判定日に3万円以上の資産残高があれば3000ポイント、ビューカードの利用料金の引落で1000ポイント、給与などの振込で2000ポイントと、最大6000ポイントがもらえる。しかも2025年4月30日までとキャンペーン期間が1年近くと長い。なお、第1期のキャンペーンは2024年6月30日までとなっている。

(綿谷 禎子 : ライター)