「悪質ホスト」問題を追いかける海外メディア、ジャニーズ性加害問題に続くか
女性を風俗や売春に追い込む「悪質ホスト」問題は、海外からも関心が高まっている。この問題を告発してきた一般社団法人「青少年を守る父母の連絡協議会」(青母連/玄秀盛代表)では、海外メディアの取材が相次いでいるほか、玄さんらが欧米諸国の大使館に請われて情報提供に出向いている。こうした関心の背景を探るべく、米メディアの取材現場に立ち会った。(ジャーナリスト・富岡悠希)
●「ホストクラブで人生がどう変わった?」
1月下旬、寒波が襲った平日の夜、新宿・歌舞伎町にある青母連の事務室に米メディアの撮影クルー3人が集まっていた。昨年、悪質ホストにつかまり、多額の金銭を貢いだYUさんが、一眼レフカメラ2台の前に座る。
顔出しできないYUさんを黒いシルエットで写すため、部屋の電気は落とされた。かわりに照明がたかれ、インタビュアー役となる特派員の女性が浮かび上がる。撮影担当のビデオグラファーはカメラの後ろに陣取り、プロデューサーが陰から見守った。
特派員は英語で質問を発したあと、間髪入れずに自身で日本語に訳した。
「いつごろからホストクラブに?」 「ホストにはいくら使った?」
こうした事実関係の質問が終わると、心情面などに迫る問いも放たれた。
「ホストクラブで人生がどう変わった?」
YUさんは、沈んだトーンの声で言葉を選びながら返答した。
「底辺、どん底まで堕ちました。やり直せるのかな」
●「どの国でもあり得ることだと思う」
約30分のインタビュー後、特派員とYUさんは、歌舞伎町のネオン街に向かった。YUさんが通っていたホストクラブには必要以上に近づかない範囲で、街中で会話している様子を撮影するためだ。
この夜の気温は5℃を下回り、コートに手袋という完全防寒でもこごえた。それでも時間をかけて、街中での撮影を続ける。ビデオグラファーは滑らかな映像にするため、ジンバル(手ブレを抑える機材)にカメラを載せて、2人を追いかけていた。
特派員は悪質ホスト問題について、日本人女性だから被害が生じている、とは捉えていない。
「やっぱり女性が男性の言うことを全部信じて自分の体まで売るのは、どの国でもあり得ることだと思います」
そして、米メディアがこの問題を報じる意味を次のように話した。
「若い女性が売掛というシステムで(借金を)返せなくなり、強要されて売春にいく現実は『ヒューマン・トラフィッキング』(人身取引)だと思う。もちろんホストクラブがすべていけないという形で人権を振りかざすことはありませんが、事実をきちっと調査していきたい」
●「海外メディアの『忖度なし』が力になる」
青母連の事務局長・田中芳秀さんによると、この米メディアだけでなく、フランスやドイツのテレビ局からも取材依頼が来ている。また、情報提供を求める欧米諸国の大使館があり、今年に入ってから玄さんと田中さんが出向いた。
海外メディアの取材を受ける理由の1つが「国内メディアでは突っ込めない部分を、海外の人たちは忖度なしで突っ込んでくれる」(田中さん)ためだ。
実際、日本のテレビ局による"忖度"事例が昨年に起きた。現場レベルでは悪質ホスト問題を取材したいと伝えてきたのに、本社の判断で一転して見送りとなったというのだ。
田中さんが、そのテレビ局について調べると、ホストを起用した番組などを制作していた。こうした事情を踏まえ、田中さんは次のように話す。
「海外メディアは、非常に人権意識が高い。この問題を構造的に理解し、人身取引と位置づけてくれる。旧ジャニーズ事務所の性加害問題は、BBC(イギリスの公共放送局)のドキュメンタリーが取り上げて、やっと動き出した。悪質ホスト問題の解決にも、同じように海外メディアの『忖度なし』が力になると考えている」
日本政府も悪質ホスト問題に対して、「人身取引」の表現を使い始めている。3月22日、参院内閣委員会で塩村あやか議員がこの問題を取り上げた。
その際、林正芳官房長官はホストクラブで多額の売掛を背負い、返済のために売春させられる事例について、「人身取引議定書に定める人身取引に該当しうる深刻な犯罪であると認識をしている」と答弁している。