中国の電池業界「過剰な値下げ合戦」が迫る淘汰
強気でならす経営者が多い中国で、億緯鋰能の劉金成・董事長の発言は異例だ。写真は2023年のフォーラムでスピーチする劉氏(同社ウェブサイトより)
「電池業界に過剰な値下げ合戦は必要ない。価格競争に未来はない」――。
中国の電池メーカー、億緯鋰能(EVEエナジー)の劉金成・董事長(会長に相当)のそんな発言が注目を集めている。EV(電気自動車)市場の拡大とともに急成長した中国の電池業界の先行きに、率直な懸念を表明したからだ。
2001年創業の億緯鋰能は、消費者向け電子機器用のリチウムイオン電池から事業をスタートし、現在はEV用の車載電池や蓄電システム用の大型電池なども生産・販売している。
CATLとBYDの2強体制に
冒頭の発言は3月17日、劉董事長が北京市で開催されたEV業界のフォーラムに登壇した際に飛び出した。
「2023年の車載電池業界では、寧徳時代新能源科技(CATL)と比亜迪(BYD)の2強体制が成立した。この2社は市場シェアが大きいだけでなく、黒字経営を実現している」
劉董事長はそう指摘し、2強体制の成立は「中国の電池業界が(利益よりも市場シェアを優先する拡大競争の段階から)理性的な発展の段階に入ったことを意味する」という認識を示した。
韓国の市場調査会社SNEリサーチのデータによれば、2023年の車載電池のグローバル市場において、首位のCATLは36.8%、第2位のBYDは15.8%のシェアを獲得。両社だけで世界市場の半分を押さえた。
CATLとBYDの2強が激しく競うなか、下位メーカーは淘汰のリスクが高まっている。写真は自社製の電池を搭載するBYDのEV(同社ウェブサイトより)
だが、2強以外の中国企業の市場シェアはいずれも1桁台にとどまる。具体的には第6位の中創新航科技(CALB)が4.7%、第8位の国軒高科(ゴーション・ハイテク)が2.4%、第9位の億緯鋰能が2.3%、第10位の欣旺達電子(サンオーダ)が1.5%だった。
技術・品質の向上に専念を
「かつての電池業界では、会社の売上高が2億元(約41億円、1元=約21円)を超えれば黒字化できると言われていた。だが今は、売上高が数十億元になっても赤字のメーカーがある」
劉董事長は下位メーカーの実態をそう述べ、「電池業界は本質的な競争に立ち戻らなければならない。むやみやたらな値下げ合戦をやめ、自社の技術と品質のレベルアップに専念すべきだ」と訴えた。
億緯鋰能を含む下位メーカーがいま最も恐れるシナリオは、CATLとBYDがさらなる値下げ競争を仕掛けてくることだ。2強同士の争いに巻き込まれれば、体力が弱った下位メーカーは致命傷になりかねない。
一部の下位メーカーはすでに深刻な経営危機に直面している。例えば香港証券取引所に上場する瑞浦蘭鈞能源(REPT)は2月29日、2023年の最終損益が18億〜20億元(約373億〜414億円)の赤字になるとの見通しを発表した。
(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は3月18日
(財新 Biz&Tech)