私もあなたも実は「スライサー」かもしれない
いつもちょっとだけ遅刻、本人は悪びれた素振りはなく……。そんな“スライサーさん”、あなたの周りにいませんか?(写真:Komaer / PIXTA)
音声プラットフォーム「Voicy」のチャンネル「学びの引き出しはるラジオ」で、13万人のフォロワーを持つ尾石晴さん。尾石さんの発信が共感を集める理由は、多くの人が感じているモヤモヤや不安を分解し、的確に言語化しているから。そこで今回、Voicyで2月26日に放送された「他人から無自覚に少しずつ取ってしまうスライサー」、および2月29日放送の「私スライサーかも 損したくない心理」をもとに、尾石さんに改めて記事を書いてもらいました。
時間やお金を「薄く」剥ぎ取られていく
ギバー、テイカー、マッチャー。
これらの言葉を聞いたことがありますか?
これはアダム・グラントというアメリカの心理学者が著書『GIVE & TAKE』の中で、「ギブ・アンド・テイク」の関係性をもとに、人間の考えや行動を3つに分類したものです。
見返りを気にせず他人に与える人を「ギバー」、自分の利益のために他人から何かを奪おうとする人を「テイカー」、ギバーとテイカーの中間的存在で、損得のバランスを考えて行動する人を「マッチャー」と呼んでいます。
私たちの職場や友人関係などでは、このような人たちが存在しています。
ギバーやマッチャーなら遭遇しても困りませんが、テイカーは、ときどき出没しては私たちを不愉快な気持ちにさせます。巧妙なふるまいや話術で人の手柄を横取りしたり、うまい具合に自分のミスを人に押し付けたりする人だからです。
しかし、テイカーほどあからさまではないのだけれど、薄く、薄ーく、他人の時間やお金、好意(気持ち)を奪っていく人もいます。
たとえば「ほんの数分の遅刻を毎回する」「割り勘のとき絶対に“端数払うよ”と申し出ない」「食事をシェアして食べるとき、一番おいしい部分や、多くの量をしっかり確保している」「自分で調べればわかることも人に調べさせる」「自分が言いにくいことを他人に言わせる」……。
このような人と一緒にいると、だんだんモヤモヤがたまっていきます。結果として、しだいに会うのがおっくうになり、こちらから誘う頻度が減ります。
「大きく何かを取られているわけではないけれど、あの人はちょっと……」という感じ。たまに会うのはいいけれど、長く一緒にはいたくないような人です。
このようなタイプを、テイカーではなく、ここでは「スライサー」と呼んでみます。
スライサーはとにかく「損したくない」
なぜ、スライサーはこのような行動をとってしまうのかを考えてみました。
テイカーの場合、行動は「自分の利益優先、自分が得したい」が動機です。
一方、スライサーは「得したい」というより、できるだけ「損したくない」が動機なのだと思います。本音では、自分が持っている時間、お金、気持ちは、すべて出したくない。
でも、世の中、そんなに都合よくいきませんよね。
だから「今日は頑張って予定をつけたのだから、数分の遅刻は許してほしい」「お金を出し合って食事するなら、自分が好きなものは譲りたくない」「とりあえず役割は引き受けるけれど、ほかの人がやってくれるならお願いしたい」となるのではないでしょうか。
その行動の背景にある心理は、「だって、私、損したくないんだもん」。
こういう人いますよね?
実は、世の中には圧倒的にテイカーよりスライサーが多いはずです。
友人関係がコロコロ変わる人は要注意
他人の時間やお金、好意を奪っていくスライサーの中でも、さらに要注意なパターンがあります。
それは、どのような場面でも、スライサー気質を発揮してしまう人。言ってみれば「全方位型のスライサー」です。
普通は、待ち合わせに遅刻されるのは嫌だけれど、食にはあまり欲がないから、相手がたくさん食べるのは気にならない、など、嫌に感じるポイントには程度の差があります。
しかし「全方位型のスライサー」は時間もお金も、気持ちも全部「損したくない」。
本人は息を吸って吐くように「損したくない」が染み付いている分、スライサーとしての“知恵”にも長けています。自分が損しないよう、黙って譲ってくれる優しい人や、文句を言わない人を選んで付き合っています。
一方、大抵の人はスライサーの搾取に気づくと次第に距離をとります。
だから「あの人、悪い人ではないんだけれど、友達がしょっちゅう入れ替わっている」。横で見ていてそう感じるような、深い人間関係を保てない人がいるならば、その人はひょっとするとスライサーかもしれません。
やっかいなのは、「ちょっとくらいの遅刻」「ちょっとくらいのお得」は指摘しにくいこと。むしろ、指摘する側がセコく見えてしまう。
はっきりモヤモヤしていることを言いにくい点では、あからさまに失礼なテイカーより付き合うのが難しいかもしれません。
また、スライサーの言動は、周囲にわからないぐらい、さりげなく人の時間や好意をかすめ取っていきます。
だから、その人と距離を取ろうとする自分が「ひょっとして冷たい人間なのでは?」と罪悪感を持ってしまうことも。
あなたがスライスされて嫌なものは?
とはいえ、私たちはみんな、どこかにこの「スライサー要素」を持っていると思います。
実際、Voicyでスライサーについて語ったあと、「放送を聞いて自分がスライサーだと気づいた」というコメントをたくさんもらいました。
「損したくない気持ち」、これが全くないという人はいないと思います。だから「スライサーの気質を改善して」と言いたいわけではないのです。
肝心なのは、自分がスライスされて嫌に感じるものは何なのか、自覚しておくこと。それは時間なのか、お金なのか、気持ちなのか、です。
たとえば、割り勘で多く払うのは気にならない人でも、相手が毎回、数分遅刻してくるのはストレスに感じているかもしれません。
その逆で、相手の遅刻は気にならないけれど、お金については1円も多く出したくないと思う人もいるでしょう。
スライスされてモヤモヤするポイントは、人によって違うのです。
言い換えれば、お金のスライスが気になる人と、時間のスライスが気になる人との組み合わせなら、お互い「たいして気にならない」関係でいられると予想できます。付き合いがおっくうになることもないはずです。
また、なぜ時間やお金をスライスされるとモヤモヤするのか、を考えてみるのもよいでしょう。
たとえば生まれ育った家庭環境が原因で、お金に対してシビアに考える癖がついているかもしれません。
それを自覚できれば、モヤモヤする相手との付き合い方をどうするか、また自分自身がどう心を整理するか、を客観的に見つめられるようになると思うのです。
(尾石 晴 : Voicyパーソナリティ)