C57形蒸気機関車が牽引しJR山口線を走る「SLやまぐち号」(写真:hayu/PIXTA)

各地で観光客の人気を集めるSL列車。乗客だけでなく、沿線で見物する人や「撮り鉄」も押し寄せ、地域はにぎわう。

そんなSL列車も、老朽化などにより運行終了が目立つようになってきた。大正時代生まれの蒸気機関車「8620形」が牽引するJR九州の「SL人吉」は2024年3月23日引退。2023年にはJR東日本の釜石線を走っていた「SL銀河」、2021年にはJR西日本の「SL北びわこ号」が運行を終了している。

そして、運行を続けるSL列車に広がっているのが「値上げ」である。

「乗り得」だったSL列車

従来、JR各社のSL列車は「乗り得列車」として知られていた。列車の種別は「快速」のため特急料金などは不要で、観光客の誘客を主な目的とする列車として乗車券と指定席券(列車によっては指定席グリーン券)のみで乗ることができた。「青春18きっぷ」でも、530円(時期によっては330円)の指定席料金を負担すれば乗車できるというものである。

それでも出発地までや到着地からの鉄道利用、また現地での消費をうながすことで鉄道会社にも地域にもメリットを生むのがSL列車であり、地域の観光振興が運行の理由にもなってきた。実際、SL列車は人気の高さから指定席が確保しにくいことが多く、普段の一般列車は1両や2両でも、SL列車は長い編成ということが多い。

2月19日、JR西日本は山口線で運転するSL列車「SLやまぐち号」の料金値上げを発表した。普通車指定席は530円(子ども半額、一部期間は330円)から倍以上の1680円に、グリーン料金(大人・子ども同額)は50kmまで780円、100kmまで1000円だったのが距離を問わず2500円となった。

新料金の適用は2024年3月16日からだが、SLやまぐち号は炭水車の不具合により2022年5月から運転を取りやめており、早ければ5月ごろの運転再開を目指している状態だ。このため、新料金は運転再開後から適用になる。なお、SLやまぐち号と同じ客車を使う「DLやまぐち号」なども同様の料金となる。ちなみに新山口から津和野まで全区間(約63km)を土休日に乗車した場合、大人1人分の乗車券と指定席券を合わせた額は1700円から2850円に、乗車券とグリーン券では2170円から3670円に上がる。

JR西日本中国統括本部によると、料金の見直しはSL列車の魅力や価値が高まっていることを背景に踏み切ったという。SL列車が減っていく中で、存在感が高まっていることが理由となっているともいえる。料金の決定については、ほかのJRの金額を参考にしたとのことだ。

SL列車のどこにコストがかかっているかについては回答を得られなかったが、SLは機関士のほかに機関助士も必要であり、運転には相当の熟練が必要だ。老朽化にともなって整備費用もかかるうえ、石炭の価格も上がっている。

JRのSL列車は軒並み値上げ

実はすでに、ほかのJR各社のSL列車は料金の値上げを実施している。そう考えると、これまでのSLやまぐち号は格安で、良心的ともいえる価格設定だった。

JR北海道が冬期に運行する「SL冬の湿原号」は指定席(子ども半額、以下JRは同様)1680円で、2022年1月の運行の際に840円から値上げして倍額となった。JR九州のSL人吉も2021年5月に料金を改定し、840円から1680円に上がった。


2024年3月23日運行終了のJR九州「SL人吉」(写真:ninochan555/PIXTA)

客車が特徴的なJR東日本の「SLばんえつ物語」は、指定席840円、グリーン料金(大人・子ども同額)は150kmまで2000円、151km以上は3000円となっている。指定席料金はSL冬の湿原号やSL人吉の値上げ前の料金と同じであるため、比較すると安いといえるが、2023年9月末までの指定席料金は530円(時期により330円)だった。

グリーン料金は一般のグリーン料金と同じで、50kmまで780円、100kmまで1000円、150kmまで1700円、151km以上1990円だったが、専用のグリーン料金設定によって上記の額となった。

もっとも、JR東日本はこの際に「当社を取り巻く経営環境の変化」を理由として、各地の「のってたのしい列車」(観光列車)の指定席料金をすべて840円に改定しており、SLばんえつ物語の指定席料金値上げもその一環である。

いずれにせよ、このところSL列車の値上げは広がっていたのだ。稼働するSLの減少やメンテナンスコストの増大、そしてコロナ禍以降の鉄道各社の経営環境の変化の中、値上げはやむをえないという状況になってきたといえる。各社はSL列車の指定席料金などを改定するほか、JR九州のようにSLの運行を終えるケースもある。

電車やディーゼルカーとは大幅に異なるSLは維持管理にお金がかかることを考えると、特別料金の不要な快速列車で、さらに指定席料金も一般の列車と同レベルという今までが安かったともいえ、値上げはいたしかたないともいえる。

私鉄はネット予約に注力

SL列車は私鉄も運行している。秩父鉄道の「SLパレオエクスプレス」は、2023年4月1日にSL指定席券(大人・子ども同額)が740円から1100円に改定された。

同鉄道のSL指定席は、現在は自社サイトで予約するシステムとなっているが、2019年9月末まではJR東日本管内の「みどりの窓口」で扱っていた。その後いったん自由席のみとなり、2020年にSLの全般検査に伴い運休した後、2021年2月に運行を再開してからは自社サイトでの予約に切り替えた。360円の値上げとなったが、その分ネット予約システムを整備して利便性を高めている。

また、東武鉄道の「SL大樹」は座席指定料金が大人760円〜1080円(子ども半額)となっており、ネット予約も可能になっている。JR各社が指定料金を値上げした中では相対的に安いといえる。


東武鉄道の「SL大樹」(編集部撮影)

「強気」の価格設定が目立つようになったSL列車。だが、その維持管理コストを考えるとやむをえないといえるだろう。SLは観光の目玉というだけでなく産業遺産であり、今後も守っていくためには、その費用をまかなえる料金設定が必要なのだ。


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(小林 拓矢 : フリーライター)