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海鮮丼を食べに行った店でグラスを割ってしまい、4万円請求されたーー。北海道旅行中にトラブルに巻き込まれた夫婦から、このような相談が寄せられている。

相談者は、手を滑らせて水の入ったグラスを割ってしまったという。怪我人はいなかったが、店側は「清掃代がかかった。調理時間を片付けに取られた」とし、注文した海鮮丼代とは別に4万円を要求してきたそうだ。

相談者は高すぎる弁償代に困惑したものの、恐怖心から払ってしまったという。このようなトラブルに見舞われた場合はどう対応すべきなのか。大橋賢也弁護士に聞いた。

●4万円の要求は「過剰」

ーー相談者は、損害賠償請求に応じなければならないのでしょうか。

はい。店に対して損害賠償責任を負うことになります。相談者は店のグラスを割ってしまっているので、少なくとも不注意である「過失」が認められ、不法行為が成立するといえるでしょう(民法709条)。

ーー具体的に、いくらの損害賠償責任を負うことになるのでしょうか。

一般的には、割れたグラスの時価相当額が店に生じた損害といえます。そのため、相談者はグラスの時価を賠償する責任を負うことになります。

店側は清掃代や調理時間を片付けに取られたことも損害として主張しているようですが、これらの事情を具体的な金額に換算し、損害として請求するのは難しいでしょう。

詳しい事情は分かりませんが、グラスを1個割ったとしても、片付けるのにそれほど時間はかからないでしょうし、清掃代がかかるとも考えにくいといえます。そのため、「損害」として認定することはできないと考えます。

以上より、グラスの時価相当額にもよりますが、一般的には4万円という店の要求は過剰であり、正当性は認められないと考えてよいでしょう。

●払ってしまったものを取り戻すのは「難しい」

ーー相談者は4万円を支払ってしまったそうですが、店の要求に正当性が認められない場合、後から取り返すことはできるのでしょうか。

一度支払ってしまったものを取り戻すことは基本的に難しいといわざるを得ません。相談者が店に4万円を支払ったのは、店との間で和解契約を成立させたと考えられるためです。

取り返すための理屈としては、2つ考えられます。まず、民法96条1項では「強迫」による意思表示は、取り消すことができるとされています。よって、(1)強迫に基づき「4万円を支払う」和解契約を取り消すことが考えられます。

また、民法90条では「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」とされています。そのため(2)店の請求が公序良俗に反する(具体的には暴利行為に該当する)として「4万円を支払う」和解契約は無効であると主張することもひとつの方法です。

しかし、店内に他に客がいる状況の場合、店員の強迫行為を立証するのはかなり難しいと思います。また、公序良俗違反(暴利行為)も要件が抽象的過ぎるので、具体的に立証するのは難しいでしょう。

以上より、残念ながら、一度支払った4万円を取り戻すことは困難と考えます。今回のような不当な請求をされた場合は、安易に支払うことなく、他の客に仲裁に入ってもらったり、警察を呼んだりするなどの対応を取るとよいでしょう。

【取材協力弁護士】
大橋 賢也(おおはし・けんや)弁護士
神奈川県立湘南高等学校、中央大学法学部法律学科卒業。平成18年弁護士登録。神奈川県弁護士会所属。離婚、相続、成年後見、債務整理、交通事故等、幅広い案件を扱う。一人一人の心に寄り添う頼れるパートナーを目指して、川崎エスト法律事務所を開設。趣味はマラソン。
事務所名:川崎エスト法律事務所
事務所URL:http://kawasakiest.com/