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同意なく性行為に及んだとして刑事告訴されたサッカー日本代表の伊東純也選手が、「虚偽告訴」をされてスポンサー契約を打ち切られたなどとして、女性2人に対して2億円を超える損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。

報道によると、女性2人は今年1月、2023年6月に大阪市内のホテルで、伊東選手らから性被害を受けたとして刑事告訴したが、一方の伊東選手側は「まったくの事実無根だ」として、虚偽告訴罪の告訴状を大阪府警に提出していた。

双方の主張が真っ向から対立しているといえるが、伊東選手側は、この問題を報道した週刊誌に対する名誉毀損の訴訟ではなく、刑事告訴した女性2人を相手取った訴訟を起こしている。どういう点がポイントになるのだろうか。西山晴基弁護士に聞いた。

●スポンサー契約を打ち切られた「損害」も認められやすい?

今回の民事提訴のポイントは、週刊誌ではなく女性2人を相手にしていることに加えて、いわゆる名誉毀損の訴訟ではなく、虚偽告訴等に対する訴訟である点です。

名誉毀損の訴訟では、もし違法性が認定されたとしても、賠償範囲について、伊東選手がスポンサーから契約解除されることによる損害や、スポンサーから賠償を求められた場合の損害についてまでは、裁判所はなかなか認めない傾向にあります。

これに対して、「虚偽告訴」に対する訴訟のほうが、スポンサーとの関係で被った損害についても、賠償が認められる可能性があるといえます。

なぜなら、世の中に知らせる目的もある「週刊誌」の報道とは異なり、相手に刑事処罰を科す目的でされる「虚偽告訴」は、女性らの伊東選手に対するダイレクトな加害行為といいやすくなるためです。

過去の裁判例に照らしても、女性らに金銭を得る目的や伊東選手を貶める目的があったといえる場合には、伊東選手がスポンサーとの関係で被る損害の賠償も認められる可能性があります。

●「虚偽告訴」の訴訟の場合、立証責任は「伊東選手」になる

とはいえ、虚偽告訴に対する訴訟は、名誉毀損の訴訟と比較して「デメリット」もあります。

まず、請求対象が個人であり、勝訴判決を得たとしても、週刊誌に比べると金銭回収は容易ではない点です。

また、名誉毀損の訴訟の場合、性加害があったかどうかについて立証しないといけないのは、週刊誌側ですが、虚偽告訴に対する訴訟の場合には伊東選手側になるので、伊東選手側の負担が大きくなります。

●伊東選手にとっては、早期解決のメリットは大きい

そのため、虚偽告訴に対する訴訟を提起するのは、立証に十分な証拠がそろっているか、または交渉による早期解決を狙っているか、いずれかではないかと考えられます。

伊東選手にとっては、早期解決のメリットは大きいと思います。

女性たちに対して、伊東選手の「逆告訴」を取り下げてもらいたいと思わせる交渉材料に加えて、数億もの損害賠償請求を取下げてもらいたいと思わせる材料も増やし、より交渉の立場を有利にして、示談交渉による早期解決をする狙いもあるかもしれません。

【取材協力弁護士】
西山 晴基(にしやま・はるき)弁護士
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/