(©︎HITSUJI WATABE/CORK)

元日経新聞編集委員の高井宏章さん。高井さんが娘のために書いた『おカネの教室』では、世の中を動かすお金と経済の仕組みの本質をわかりやすく解説しています。今回は『漫画版 おカネの教室』を一部抜粋・再構成し、株式投資とギャンブルの違いについて紹介します。

ギャンブルと投資の違い

みなさんは、株式投資とギャンブルの違いはなんだと思いますか? 投資をする人もギャンブルをする人も、どちらもお金を払って、そのお金が増えるのか、そのお金がなくなってしまうのかを試すものです。

一見すると同じもののように捉えられるかもしれないのですが、実は大きな違いがあるのです。

その答えをみなさんに知ってもらうために、漫画『おカネの教室』のワンシーンをご覧ください。

※外部配信先では漫画を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください



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いかがでしたか? この漫画を読んでもらえれば大体わかると思うのですが、私の答えは「プラスサムゲームとゼロサムゲームの違い」です。サム=sumは英語で合計。プラスサムは「参加者全員の損得を合計するとプラス」の状態。ゼロサムは全員足せばプラマイゼロのチャラになります。

競馬を例にギャンブルを見てみましょう。日本では馬券の売り上げ全体の約75%は当たり馬券を買った人に支払われます。残りはJRA(日本中央競馬会)など主催者と国の懐に入ります。「胴元」を除けば、馬券を買う人たちはマイナスサムになっている。

一方、株式投資は、少し長い期間でみると、参加する投資家全員の収益が全体でプラスになります。もちろん中には損する人もいるし、巨額の利益を上げる人もいる。凸凹はあります。でも全体はプラスです。投資家たちが株式を売り買いする「株式市場の外」からお金が入ってくるからです。

株式は英語でシェア(share)と言います。企業の所有権を小分けにして、多くの投資家でシェアするのが株式の本質です。企業はビジネスを通じて利益を上げます。ビジネスは「株式市場の外」の営みです。投資家の視点でみれば、企業が外で稼いできてくれる。だから「株式市場の中」はプラスサムになります。

見えざる手は、経済の隅々に根付いている


随分とうまい話に聞こえるかもしれませんが、株式市場が仕事をサボると、うまい話は回らなくなります。市場の仕事は「淘汰」です。

有望な企業には高い株価をつけてビジネスを後押しし、ダメな企業には厳しい評価で改善や退場を促す。淘汰が進めば、株式市場=企業のクオリティが上がり、「外」からやってくる恵みも増えます。

この仕組みの実によくできているところは、面倒な仕事を投資家が自主的にやってくれることです。

利益を上げようと必死になるほど、投資家の企業を見る目は磨かれます。誰もが自分の利益を追求しているうちに、市場全体で「いい仕事」をしてしまうのです。

こうした「見えざる手」と呼ばれる仕組みは、株式市場に限らず、私たちの経済の中に隅々まで根付いています。消費者も便利で価値が高い商品やサービスを選ぶことで見えざる手の一端を担っています。

投資と聞くと「楽してお金儲けしようとするギャンブルのようなもの」ととらえる人はまだ少なくありません。でも、現実には、投資は楽して儲かるほど甘くはないし、「お金儲けしよう」という人々の欲は見えざる手を通じて世界を豊かな場所にする大切な役割を担っているのです。

(高井 宏章 : 経済コラムニスト)