西武グループは、グループ内で複数の会員組織やサービスが存在していた状況を解消、シングルサインオン(同一IDでのログイン)に移行する。なお、2024年1月16日の開始日時点では「SEIBU PRINCE CLUB」のウェブサイト・公式アプリのみ

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 楽天グループ(楽天)は、2018年から西友との合弁事業として展開していた「楽天西友ネットスーパー」について、自社で単独運営する形態に移行すると発表した。24年中を移行期間とし、会社名・サービス名称も変更する予定。今回の運営形態変更により、楽天IDと共通ポイントプログラム「楽天ポイント」を軸にした経済圏「楽天エコシステム」を今まで以上に活用し、楽天西友ネットスーパーの倉庫型ネットスーパー事業の早期の収益改善を目指すとしている。

 「楽天エコシステム」は別名「楽天経済圏」「楽天ポイント経済圏」とも呼ばれており、金融(フィンテック)分野の「楽天銀行」「楽天証券」を除く楽天の主要サービスは、同一の楽天IDとパスワードでログインでき、「楽天銀行」「楽天証券」も楽天IDと連携させると、銀行取引や証券取引に応じて楽天ポイントがたまる仕組みになっている。この「楽天経済圏」は顧客囲い込みのモデルケースとなっており、NTTドコモ、KDDI/auもまた「ドコモ経済圏」「au経済圏」を確立しつつある。たまるポイントは、ドコモが「dポイント」、auが「Pontaポイント」で、auの場合は「au ID」と「Ponta会員ID」のID連携となるため、より自由度が高い。

 ソフトバンクでは、回線契約(ソフトバンク・ワイモバイル・LINEMO)とPayPay、LINEヤフー(Yahoo! JAPAN/LINE)がゆるくつながる仕組みで、それぞれ単独でサービス・アプリを利用でき、ID連携するとポイント還元率などがお得になり、全てを連携させると「ソフトバンク-PayPay-LINEヤフー」の巨大経済圏でさまざまな恩恵を受けられるようになる。なお、LINEヤフー発足に伴い、有料サービス「Yahoo!プレミアム」は23年11月29日にLINEの特典を追加した「LYPプレミアム」にリニューアルしている。

 今回は、こうした通信事業者の経済圏(エコシステム)に規模の点では大きく劣るものの、24年に本格的なID統合を打ち出した私鉄二社を紹介しよう。なお、JR東日本は、複数あったIDの統合とグループ共通ポイント「JRE POINT」への集約をすでに済ませており、24年春には楽天銀行のインターネットバンキングサービスを活用した「JRE POINT」がたまるデジタル金融サービス「JRE BANK」も開始予定だ。

●今年は「西武/SEIBU Smile POINT」と「相鉄」に注目!



西武グループ/SEIBU Smile POINT

 西武ホールディングスは顧客ID統合・連携に向けたグループ横断のデータ活用基盤としてNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューションが提供するカスタマー・アイデンティティ・マネジメントプラットフォーム「SAP Customer Data Cloud」を導入し、24年1月16日から、さまざまな西武グループのサービスが一つのIDでログインできる共通ID「SEIBU Smile ID」の運用を開始する。なお、開始日時点では「SEIBU PRINCE CLUB」のウェブサイト・公式アプリのみ対応する。

 これまではグループ内で複数の会員組織やサービスが存在し、それらを紐づける手段がなかった。ID統合によって利用者のユーザビリティの向上を図るとともに、顧客情報を一元化し、蓄積した情報をマーケティングに活用していく。共通IDの開始に先立ち、「SEIBU PRINCE CLUB」に入会してカード・アプリの提示などでたまるポイントサービスの名称を「SEIBU Smile POINT」に変更し、自社クレジットカードの利用でたまるポイントと共通化している。一般消費者が気にする個人情報の保護にも十分配慮しながら、今後、新しい「SEIBU Smile ID」でログインできるサービス・アプリを順次拡大し、グループシナジーを生かしたロイヤルカスタマー拡大を目指すとしている。別途、ソーシャルログイン(SNSのアカウントを使ってログインする機能)機能も追加実装していく予定。

 同様の企業共通ID・シングルサインオンはさまざまな企業が展開しており、決して珍しくはない。ただ、西武グループには、鉄道・商業施設のほか、ホテル、ゴルフ場などのレジャー施設、スポーツ施設、プロ野球球団などもあり、記者個人の考えでは、これまで楽天ID/Yahoo! JAPAN IDでログインして「楽天トラベル」や「Yahoo! トラベル」で西武グループのホテルを予約していた層の一部が、便利になった「SEIBU Smile ID」でログインして同ホテルを直接オンライン予約するように変わるのではないかとみている。既存経済圏にとっては競合の出現だ。

相鉄グループ/相模鉄道(相鉄ポイント)

 同じく鉄道事業を中核とする相鉄ホールディングスは、従来のポイントサービスを統合した相鉄グループの共通ポイントサービス「相鉄ポイント」を24年3月に開始する。あわせて現在、相鉄グループの各商業施設でたまる「ジョイナスポイント」と、「そうてつローゼン」の「ウェルカムカードポイント」を「相鉄ポイント」に統一。同時に相模鉄道(相鉄)の乗車ポイントサービス「相鉄ポイントマイル」を開始し、「相鉄ポイントマイル」から「相鉄ポイント」への交換サービスを提供する。

 「相鉄ポイントマイル」と「相鉄ポイント」の仕組みは、東武鉄道が20年11月に導入した「トブポマイル」と「TOBU POINT(トブポ)」と同じ。鉄道会社のこうした乗車ポイントやグループ共通ポイントの導入の目的は、ほぼ現金相当として使えるポイントによる他沿線への顧客流出抑止のように思える。

●24年春、いよいよ青と黄色の新「Vポイント」誕生



 24年春に共通ポイントサービス「Tポイント」と、主に決済利用などでたまるSMBCグループ共通ポイント「Vポイント」の統合を予定している三井住友カードは、23年12月23日〜24年1月14日の期間中に対象カード(三井住友カードが発行するクレジットカード)で南海電気鉄道・泉北高速鉄道・福岡市地下鉄を「Visaのタッチ決済」で乗車すると、初めてなら期間中の利用総額の50%、誰でも20%をキャッシュバックする「Visaでピッとタッチ!〜年末年始キャンペーン〜」を実施している。

 ここ1年ほど、運賃の支払手段やお得な企画乗車券としてクレジットカードなどをかざして決済する「タッチ決済」を導入する公共交通機関が増えており(実証実験や導入予定を含む)、増えれば増えるほど、タッチ決済を推進する三井住友カードと「Vポイント」の存在感は増すと予想される。全国どこでも使える「5大共通ポイント」から「Tポイント」が抜け、「楽天ポイント」「dポイント」「Pontaポイント」「PayPayポイント」「Vポイント」に変わる24年。ポイント還元やお得な施策などで集めた顧客IDを基盤に、グループシナジーを生かしたロイヤルカスタマー拡大を目指す各社に注目だ。(BCN・嵯峨野 芙美)