Rei 白熱のセッションライブ『JAM! JAM! JAM!』ブルーノート東京公演に見た、変化を楽しみ、変化を楽しんでもらうことへの飽くなき欲求
Rei presents "JAM! JAM! JAM!" 2023
2023.12.9(土) ブルーノート東京《1stステージ》
『Rei presents "JAM! JAM! JAM! 2023"』。11月29日のビルボードライブ大阪に続き、12月9日にブルーノート東京で行われたその公演の1stステージを観た。
Reiが行なっているシリーズライブというと、今年10月に15回目が行われた『Reiny Friday -Rei & Friends-』があり、それはReiがリスペクトする友達ミュージシャンをゲストに迎えてステージ上のコラボを楽しむものだが、『JAM! JAM! JAM!』はセッションプロジェクトで、毎回異なるメンバーとオリジナル曲を新たな解釈で再構築するというもの。2021年にReiが立ち上げ、今回が3回目となった。
形式は違うが、『Reiny Friday』も『JAM! JAM! JAM!』も基本的にはその日限りのミュージシャンとその日限りのライブを作るというもの。パーマネントなバンドでこそ自分らしい表現活動ができるというミュージシャンは数多くいるが、Reiはこうしてその時々で一緒にやる相手を変え、その時だからこそのグルーブを生み出すことにものすごくやりがいを感じるタイプのミュージシャンだ。先頃読んだ新作『VOICE』に関するインタビューで、Reiは「アーティストとして同じものを2度作るべきではない、と自分のなかで決めていて」「プライベートでも持っている食器を全部捨てたりすること、定期的にあるんですよ」と話しているが、恐らくそうした性質であるゆえ、ライブにおいても入れ物を度々変えることで意気が上がるのだろう。同じ食材でも調理人と調理法が変われば当然味は変わるし、食器を変えただけでも新鮮な味がする。同じ曲でもこの人とこの人とこの人の音を組み合わせたら、こんなにも変わって新鮮なものになる。そういう化学反応に何よりの刺激と面白みと喜びを感じ、それをイメージしながら人選することもまたモチベーションに繋がるのだろう。遊び心を持って、個性と個性、色と色とを混ぜ合わせたい。自分が混ぜ合わせる絵筆となりたい。変化を楽しみたい。変化を楽しんでもらいたい。そうした欲求が根底にあり、そのための場として『JAM!JAM!JAM!』がある。そういうことだ。
今回の参加メンバーは、ベースがペトロールズのメンバーであり星野源やKID FRESINOのサポートも務めるJUMBOこと三浦淳悟。ドラムがTRICERATOPSのメンバーであり吉井和哉などのサポートも務める吉田佳史。キーボードがSuchmosや賽(SAI)のメンバーでありSTUTSや七尾旅人のサポートも務めるTAIHEI。三浦と吉田はナポリタンズ(吉井和哉のサポートバンド)で共に動いてもいるが、Reiのプロジェクトに参加するのはこれが初。唯一TAIHEIだけは「JAM! JAM! JAM!」の“皆勤賞”であり、このプロジェクトに欠かせないミュージシャンとしての働きをこの夜も見せていた。
ライブは2022年のアルバム『QUILT』の最後に渡辺香津美とのコラボ曲として収められていたインストナンバー「CACTUS」でスタート。音源にはなかったTAIHEIの鍵盤音でしっとりめに始まり、Reiのギターはジャジーながらもここからライブが始まるウキウキした気分を表わしていた。ブルーノート東京というハコにもよくマッチしたオープニングだ。
そんな開幕から一転、2曲目で早くも「Lonely Dance Club」、3曲目で「ORIGINALS」と、昭和の歌ものムードもある熱量高き曲を続けて叩きこむ。Reiはメンバーたちの表情をよく見ながらプレイ。こう来たらこう行くといったセッションの醍醐味がそこにあり、まだ始まったばかりだというのに白熱した音のラリーが展開された。そしてロックスターよろしくサングラスをかけたReiはフライングVに持ち替えて「New Days」をお見舞い。間奏のギターソロをカラダを折り曲げながら弾き、TAIHEIも鍵盤音をフリーな感覚でそこに混ぜ入れた。
5曲目はこのライブのひとつのハイライトと言っていいものだったかもしれない。RHYMESTERが6月に出したアルバム『Open The Window』収録の1曲で、Reiがフィーチャーされた人気曲「My Runway feat. Rei」だ。メロディ部分をReiが作ったダンサブルなこの曲、音源ではもちろん宇多丸とMummy-Dがラップして、Reiが歌部分を担当したものだったが、このライブではラップパートも歌パートもReiがトータルで引き受けることに。ラップはガツンと、歌部分はほんのり色気も滲ませながら表現し、ライブ初披露曲とは思えぬほどの強度がそこにあった。
ここで「こんばんは、Reiです」と挨拶し、「すごく尊敬しているミュージシャンの方々をお呼びして繰り広げるこのライブも今回で3回目になりまして」「それぞれバッククラウンドが違う人たちと音楽を作ることの面白さに気がついたので、当日を楽しみにしてきました」と話した上で、参加メンバー3人を紹介。ドラムの吉田はブルーノートでプレイするのが初めてとのことで、その意味でもライブを楽しみにしていたそうだ。そして「しばらくやっていなかった曲ですが、みなさんと相談してアレンジした曲です」とReiが言って、2017年のシングル「CRY」に収録されていた「Don’t Wanna Kill My Soul」を。確かにこの曲を聴くのはずいぶん久しぶりだったが、“歌う”ことに真摯に向き合って新作『VOICE』を完成させたあとだけに、改めてこの曲を今の歌唱表現力で歌ってみたくなったのかもしれない。今現在のReiのソウルといじらしさがその歌にこもっているのを感じた。続けてライブの定番曲にもなってきた感のある「Smile!」を演奏。基本はアコースティック味のある曲だが、このメンバーならではの膨らみもそこに。TAIHEIの鍵盤が柔らかに色をつけ、Reiはまさしくスマイルで歌いながら手拍子を促す。シンガロングも優しく起こり、ブルーノートがあたたかな空気に包まれた。
三浦のベースで始まった続いての「Categorizing Me」は、とりわけこのメンバーだからこそのアレンジが効いた1曲だった。寄せては返す静かな波のような音展開と鍵盤から出されるフルート音が新味となっていた。ライブの度にアレンジが変化する曲ではあるが、このメンバーでのそれはこれまで聴いてきたものと相当感触が違っていて、それゆえに間奏のReiのギターソロもこのときだけのエモーションが表れていた。弾きながら心の声に耳をすまし、それをまたギター音にして鳴らすRei。こんなにもその日その時の感情が赤裸々に表れる曲はほかにないかもしれない。だから胸が熱くなる。
出だしのアカペラ部分をいつも以上に説得力を持たせて聴かせた「Tumblin’」でムードを変え、次の「Route246」ではメンバー3人にもっと我を出せとばかりにギターで絡んでいくRei。「アーオッ」というシャウトの出力もいつにも増して凄まじい。メンバー紹介を挿んで、新曲のポップな歌もの「Sunflower」。続く「COCOA」と「What Do You Want?」では三浦と吉田のリズムが強度を増し、Reiは完全に自己解放した様子でステージ中央に躍り出て激しく弾き倒した。その場の温度変化に左右されずに熱いビートを叩き続ける吉田、佇まいのクールさに対して情熱が零れ出る三浦、メンバーと客に対する信頼の上で小さなカラダを大きく躍動させるRei。ライブはいよいよ異種格闘技の様相を呈しもしたのだが、しかしそれを柔軟に繋いでいたのがTAIHEIだ。過去の『JAM! JAM! JAM!』でも感じたことだが、彼の場の読み力と臨機応変な対応力はたいしたもので、どんなにクセの強いミュージシャンが参加しようが彼さえいればまとまりがつくだろうと、そう思える。
アンコールでは、国外からの観客がいつもより多く客席にいたことに触れ、「音楽が国境とかいろんなものを飛び越えていく、そういうのって素晴らしいなと思いながら今日は歌わせていただきました」とRei。「私の居場所はここにあるなって」「ライブでみなさんと繋がっているんだなと思って、胸がいっぱいで……」と声を震わせながら自身の感動を言葉にした。そして「みなさん、立ち上がって一緒に踊りましょう。この曲がなきゃ2023年を終われませんよね?!」と、「BLACK BANANA」を投下。それぞれのソロもしっかり入れ込みつつ、マグマのようなエネルギーを放出させて、白熱のセッションライブの幕を閉じた。
伊藤大地、山口美代子、BOBOと巡った全国ツアー『Versus DRUMMER』、吉澤嘉代子をゲストに迎えた『Rainy Friday』、それにこの『JAM! JAM! JAM!』と、2023年もいろんな形、いろんなミュージシャンとのライブで可能性を広げていったRei。来春のツアー『Rei Release Tour 2024 "VOICE MESSAGE"』のメンバーも先頃発表されたが、ファイナルの東京公演にはスペシャルゲストでヴァイオリニストの須原杏が参加することも告知された。そこではどんなケミストリーが生まれるのか。今から楽しみでしょうがない。
取材・文=内本順一 撮影=横山マサト
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