「人の話を聞けない」原因と考えられる病気はご存知ですか?医師が徹底解説!

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人の話を聞けないとき、身体はどんなサインを発している?Medical DOC監修医が主な原因や考えられる病気・何科へ受診すべきか・対処法などを解説します。気になる症状は迷わず病院を受診してください。

監修医師:
丸山 潤(医師)

群馬大学医学部卒業。群馬県内の高度救命救急センター救急科及び集中治療科に2022年まで所属。2022年より千葉県の総合病院にて救急総合診療科および小児科を兼務。乳児から高齢者まで幅広い患者層の診療に努める。
【保有資格】
医師/医学博士/日本救急医学会救急科専門医/日本集中治療医学会集中治療専門医/DMAT隊員/日本航空医療学会認定指導者(ドクターヘリの指導者資格)/JATECインストラクター/ICLSインストラクター

「人の話を聞けない」症状で考えられる病気と対処法

人の話を聞けない症状で考えられる病気には、発達障害や聴覚情報処理障害(APD)が考えられます。
発達障害には自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)があります。これらの障害は人の話を理解することや、興味のない話題を聞くことが難しいという特徴があります。
聴覚情報処理障害(APD)は、聴力に異常はないものの、音声情報を脳内で処理できずに話の内容を理解できない障害です。
いずれも生まれつきの脳機能の特性や遺伝的な要因が関係していると考えられます。したがって、完全に治すことは難しいですが、適切な診断や治療を受けることで症状を軽減したり、日常生活や社会生活に適応していくことが可能です。
なお、「アスペルガー症候群」「高機能自閉症」についても後ほど説明しますが、これらは現在では自閉スペクトラム症(ASD)にまとめられています。診断名としては自閉スペクトラム症(ASD)となりますが、一方でこれまで長年にわたって使われていた通称として、行政や教育の場では「アスペルガー症候群」「自閉症」といった呼称が用いられることもあるため、本記事においても通称名として紹介しております。

人の話を聞けない症状で考えられる原因と対処法

人の話を聞けない症状で考えられる原因としては、発達障害と呼ばれるADHDやASDがよく知られています。これらの症状は記事の後半でも解説していますので、ここでは一般にあまり知られていないAPD(聴覚情報処理障害)についてご紹介していきます。
APDとは、音は聞こえているにも関わらず、聞き取れない、または聞き間違いが多いなど、音声を言葉として意味を捉えることが困難な症状を指します。
音そのものは聞こえているため、通常の聴力検査では異常が発見されず、耳から入った音の情報を脳で処理して理解する際に何らかの障害が起こっていると考えられています。海外ではLiD(聞き取り困難症)と表現され、国内でもLiD/APDと表記されることもあります。
この病気が発見されてからまだ数十年しか経っておらず、比較的新しい症状のため、明確な治療法は確立されていません。そのため国内ではほとんど知られておらず、周囲の理解が得られずに当事者が苦しむケースが見られます。加えて、特定の状況において聞き取りが困難になるといった再現性の難しさなどから、その検査や診断が難しく、限られた医療機関でしか診断が下せない現状となっています。
現在判明している限りでは、脳の特性が要因として考えられており、人によっては発達障害の傾向が見られる場合もあります。専門としては耳鼻科の領域ですが、LiD/APDの診断を行える医療機関は多くありません。診察、検査の過程で疑わしい点があれば、まずは診察を受けた医療機関と相談してみてください。

大人で人の話を聞けない症状で考えられる原因と対処法

大人で人の話を聞けない症状としては、アスペルガー症候群が候補として考えられます。アスペルガー症候群とは、自閉スペクトラム症(ASD)の一種で、社会的なコミュニケーションに困難を抱える障害です。一般に知的障害や言語の遅れは見られませんが、他人の気持ちや考えを読み取ることが苦手であったり、自身の趣味や興味のあることに没頭しすぎたり、変化に対して適応することが難しいなどの特徴が見られます。その原因は未だ正確にはわかっていませんが、遺伝的な要因や脳の構造や機能に関係すると考えられています。
診断や治療は精神科、心療内科で行われます。社会生活や日常生活において、他社との関わりに継続的な支障が出ているようであれば、一度精神科ないし心療内科を受診してみてください。

子どもで人の話を聞けない症状で考えられる原因と対処法

子どもで人の話を聞けない症状で考えられる原因として、高機能自閉症があります。高機能とあるように知的発達の遅れを伴わない自閉症で、言語発達や学習能力は正常かそれ以上である反面、人の気持ちを読み取ることが困難であったり、特定のものや行動、習慣に強い執着を見せたりする特徴があります。
曖昧な指示を理解したり、急な予定の変更に合わせたりすることが難しいため、指示は具体的に与える、予定変更はなるべく早く知らせる、といった対処を取るなど、家庭や学校での支援により日常生活の質が改善されることが期待できます。
治療には心理療法や薬物療法などが用いられます。特異な行動をなおしたいと思うあまり、周囲が無理に行動を矯正させようとすると、かえって激しい抵抗を見せたりすることがあるため、必ず専門家の指示に従ってください。具体的にどのような治療方法を取るかは個人によりさまざまなため、精神科や心療内科で適切な診断と治療を受けるようにしてください。

人の話を聞けずに違うことを考えてしまう症状で考えられる原因と対処法

人の話を聞けずに違うことを考える症状として、重症なものでは統合失調症が考えられます。統合失調症は、考えや気持ちがまとまらなくなる状態が続く精神疾患で、脳の機能に原因があると言われています。以前は精神分裂病と呼ばれていましたが、言葉の持つイメージが誤解や偏見を招きかねないとされ、統合失調症という名称に変更された経緯があります。
症状としては現実と区別できない幻覚・幻聴などの幻覚妄想症状や、思考や言葉の乱れ、意欲の低下、感情が乏しくなる、周囲に無関心になる、などが見られます。対処法で大事な点は、本人が見聞きしているであろう妄想をむやみに否定しないことです。寄り添った対応を行った上で、精神科、心療内科への受診を促しましょう。

治療では急性期、慢性期、症状が消えた後の維持期によって対処法が分かれ、抗精神病薬や心理療法などが症状に合わせて行われます。統合失調症は再発しやすいこともわかっており、予防のための維持期治療として長期間の服薬が必要となることも多いです。

人の話を聞けず自分の話ばかりする症状で考えられる原因と対処法

人の話を聞けず、自分の話ばかりする症状には、愛着障害があります。愛着障害とは乳幼児期に親など特定の養育者との愛着形成が上手くいかず、問題を抱えている状態のことを指します。愛着障害の人は対人関係において不安定で依存的であり、さらに拒絶などの恐怖を感じやすく、自己肯定感が低い傾向にあります。子どもの頃に発症した愛着障害が治療されず、症状が改善されないまま成長した場合、大人になっても他者との関係に支障をきたすことがあります。
愛着障害を抱えた方は、自分が安心できる対象を見つけると、幼少期に抱えていた孤独感や寂しさを埋めようとするあまり、自分の話ばかりを一方的に話し続けるような依存や執着を見せたり、反対に人を信頼できず遠ざけたりする傾向があります。発達障害との区別が難しい部分もありますが、愛着障害は先天性の障害ではなく後天的な問題であることが大きな違いです。
治療には長い期間が必要となることが多く、専門家の指導を受けながら取り組むことが重要です。精神科、心療内科で適切な治療を受けることで改善が期待できます。

人の話を聞けずにぼーっとする症状で考えられる原因と対処法

人の話を聞けずに、ぼーっとする症状では、ストレスが影響しているかもしれません。集中力や判断力が鈍るといった脳の働きの低下により、ぼーっとする症状として表れている可能性があります。
慢性的な疲労や睡眠不足、緊張状態による身体の凝りが続くと、自律神経失調症やうつ病につながる可能性があり、油断は禁物です。ストレスなどが原因の場合は精神科や心療内科、脳の病気が心配であれば脳神経内科で詳しい検査を受けてみてください。

すぐに病院へ行くべき「人の話を聞けない」に関する症状

ここまでは症状が起きたときの原因と対処法を紹介しました。
応急処置をして症状が落ち着いても放置してはいけない症状がいくつかあります。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。

急に音が聞こえなくなった場合は、耳鼻咽喉科へ

ある日突然、耳の聞こえが悪くなったり、耳鳴りやめまいなどを伴う症状が現れたりした場合、突発性難聴を疑ってみてください。前日まで何も問題がなかったにも関わらず、音が聞き取りづらくなる、全く聞こえなくなるなどの症状が左右の耳の一方で起こります(ごくまれに両方ともに起きる場合もあります)。難聴の発生の前後で耳が詰まった感じや耳鳴り、めまい、吐き気などを伴うことも多いです。
発症したら1週間以内に適切な治療を受けることで、完治や聴力の改善が見込まれますが、治療が遅れれば遅れるほど治療効果が下がり、治ることが難しくなってしまうため、症状が現れた際は速やかに耳鼻科を受診してください。

受診・予防の目安となる「人の話を聞けない」ときのセルフチェック法

・人の話を聞けない以外に幻聴や幻覚が見える場合

・人の話を聞けない以外に落ち着きがない症状がある場合

・人の話を聞けない以外に情緒不安定な症状がある場合

「人の話を聞けない」症状が特徴的な病気・疾患

ここではMedical DOC監修医が、「人の話を聞けない」に関する症状が特徴の病気を紹介します。
どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。

ADHD(注意欠如・多動性障害)

ADHD(注意欠如・多動性障害)とは、「Attention Deficit Hyperactivity Disorder」の略で、集中力が続きにくい、落ち着きがない、衝動的に行動することが多いなどの特徴を持つ神経発達障害の一種です。
ADHDは12歳以前から症状が見られることが診断の条件であり、一般的に男性の発症率の方が女性の2倍とされています。ADHDの原因は明確には分かっていませんが、遺伝的な要因や脳内の神経伝達物質の乱れなどが関係していると考えられています。
ADHDの治療には認知行動療法やカウンセリング、また必要に応じて薬物を用いた治療が行われます。日常生活や社会生活において、不注意や多動、衝動性で支障が出ているようであれば医療機関で相談してみてください。ADHDの診察は心療内科、精神科が適しています。

うつ病

うつ病とは、気分の落ち込みを招いたり、物事に対する興味や喜びを感じなくなったりする病気です。主な症状として抑うつ、無気力、睡眠障害、集中力の低下、自己評価の低下、さらには死にたいと思う希死念慮などが見られます。
うつ病のはっきりとした原因はわかっていません。遺伝的な要因、つらい出来事、ホルモンバランスとの関係、また疾患や薬の副作用が直接的または間接的に作用したりした結果、引き起こされると考えられていますが、特に大きな生活上のストレスが見られなくても発症したり悪化したりする場合もあります。
治療には心理療法や抗うつ剤などの薬物療法が用いられます。気分の落ち込みが一日中続いたり、それまで好きだったことに興味が湧かなくなったり、イライラ、眠れない、食欲の減退あるいは亢進、死にたいと思うようになる、などの状態が継続的に見られるようでしたら、早めに精神科や心療内科の受診をお勧めします。

自律神経失調症

自律神経失調症とは、医学的に正式な病名ではなく、交感神経と副交感神経からなる自律神経のバランスが崩れることで起きる諸症状の総称です。その症状は多岐にわたり、身体がだるい、眠れない、疲れが取れないなどの全身的症状のほか、頭痛や動悸、息切れ、めまい、下痢や便秘、冷えなどの器官的症状、また精神的にはイライラ、不安感、情緒不安定、うつといった症状が現れることもあります。
自律神経失調症の治療は、原因となっているストレスや生活習慣の改善を第一に行います。
また、自律神経のバランスを整えるためにホルモン剤などによる対症療法や、睡眠の周期を整える行動療法などが用いられることもあります。
症状が日常生活に支障をきたすほどひどい場合や、数週間以上続く場合などは医療機関を受診してください。自律神経失調で現れる症状はさまざまです。例えば動悸、息切れであれば循環器内科、下痢や便秘であれば消化器内科といったように、まずは一番つらい症状に合わせた診療科を受診してみてください。つらい症状の緩和に加え、自律神経失調症以外の原因を確かめることもできます。
症状に合わせた診療科を受診することによって、検査や医師の診察を受けた後に、自律神経失調症の診断・治療として心療内科やメンタルクリニックを医師からすすめられることもあります。自己判断はせず、医師の診察を受けて判断してもらうようにしましょう。

「人の話を聞けない」ときの正しい対処法は?

人の話を聞けないときの対処法としては、話を聞く前に自分のストレスを解消することをおすすめします。ストレスを解消することで落ち着いて話を聞ける状態になりますし、他の疾患の予防にもつながります。また、会話をしていて意識が自分に向き過ぎていると感じた時は、相手の表情や言葉の内容に意識を向けるようにしましょう。相手の気持ちや考えを理解しようとすることで、自然と話に集中できます。
会話中に疑問点や自分の意見が出てきたら、メモに残すことも有効です。メモを取ることで頭の中が整理されますし、見返すことで内容も理解しやすくなります。
それらの対処法を取っても話が聞けない状態が続くようであれば、何かしらの病気や障害を疑ってみてもいいかも知れません。一度精神科や心療内科で相談してみてください。

「人の話を聞けない」についてよくある質問

ここまで症状の特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「人の話を聞けない」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

人の話を聞けないのは発達障害ですか?

丸山 潤(医師)

人の話を聞けないという症状は、発達障害の一つであるADHD(注意欠如・多動性障害)やASD(自閉スペクトラム症)に関係している可能性があります。
ADHDでは集中力が続きにくいため、人の話をじっと聞くことが苦手な場合があります。
ASDでは相手の気持ちを想像する力に乏しかったり、相手の言葉を字義通りに受け止めたりする傾向があるため、人の話を理解することが難しい場合があります。
人の話を聞けないというだけで一概に発達障害であると断定はできませんが、生活に支障が出ている場合は一度医療機関に相談してみてください。精神科、心療内科が適しています。

人の話を聞けないのは治りますか?

丸山 潤(医師)

人の話を聞けないという症状は、さまざまな原因が考えられます。一時的に集中力が低下していたり、疲労やストレスが溜まっていたりする場合は、休息を取ることで改善される可能性があります。しかし、長期間続く場合などは何らかの精神的な疾患や発達障害が隠れている可能性があります。その場合は精神科や心療内科で適切な治療を受けることで改善に向かう可能性があります。

人の話を聞けない病気とは何ですか?

丸山 潤(医師)

人の話を聞けない病気には、先の質問で挙げたADHDやASDが知られており、また、これとは別に聞き取り能力の問題である可能性もあります。
音が聞き取りづらくなる難聴や、聴力に問題がないにも関わらず音声の処理機能に問題があるとされるAPD(聴覚情報処理障害)と呼ばれる疾患が考えられます。
いずれにせよ、日常生活に支障が出ているようであれば、早めに医療機関で相談してください。

まとめ

人の話を聞けないという状態は、疲れやストレスによるものから、遺伝的な要因や脳の機能の問題から来る発達障害などの病気が原因で起こるものもあります。その多くは幼少期から傾向が見られますが、大人になってから気付く例もあります。
いずれにせよ、周囲とのコミュニケーションエラーが日常生活や社会生活に与える影響は大きいですので、人の話を聞けない、他人との関係がうまく築けないといった状態が続いている場合は、一度精神科や心療内科で相談してみることをおすすめします。

「人の話を聞けない」で考えられる病気と特徴

精神科の病気

自閉スペクトラム症(ASD)

注意欠如・多動性障害(ADHD)

うつ病統合失調症自律神経失調症

耳鼻科の病気

聴覚情報処理障害(APD)

時々声をかけられているのに気づかないことがある程度であれば問題ありませんが、周りからよく指摘される場合や生活に不便を感じているような状況では上記のような病気が隠れている可能性があります。

「人の話を聞けない」と関連のある症状

関連する症状

落ち着きがない

他人の気持ちが読み取れない

強いこだわりがある

一方的に自分の話をし続ける

不安や緊張が続く

「人の話を聞けない」症状の他にこれらの症状がある場合でも「自閉スペクトラム症(ASD)」「注意欠如・多動性障害(ADHD)」「うつ病」「統合失調症」「自律神経失調症」「聴覚情報処理障害(APD)」などの疾患の可能性が考えられます。自分自身や周囲の人が生活に支障をきたしているような場合には、早めに医療機関を受診しましょう。

【参考文献】
・発達障害について(日本発達障害ネットワーク)
・突発性難聴について(厚生労働省)