Vol.133-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはクアルコムの新CPU「Snapdragon X Elite」。PCのCPUにおいて挽回を狙う同社と、他社との駆け引きを探る。

 

今月の注目アイテム

クアルコム

Snapdragon X Elite

↑自社開発のCPUアーキテクチャ「Oryon」を12コア搭載するSnapdragon X Elite。Apple M2と比較してマルチスレッドで50%高い性能を、第13世代CoreのPシリーズと比較して同じ電力量であれば性能は2倍になるという

 

PC市場での不評の刷新を狙うクアルコム

2024年はノートPC向けのプロセッサーで、大きな競争が起こる年になるだろう。

 

核となるのは、プロセッサーアーキテクチャの変更だ。

 

10月24日、クアルコムは米ハワイ州マウイ島で開催された年次開発者会議「Snapdragon Summit 2023」にて、新しいCPUアーキテクチャ「Oryon」を使った「Snapdragon X Elite」を発表した。以前から同社は、マイクロソフトなどと組んで「Snapdragonで動くWindows PC」を製品化してきた。Snapdragonはスマートフォンなどに広く使われているARM系プロセッサーだ。

 

特にWindows 10以降、PCで主流の「x86系」でなくARM系でも動くものも提供され、現在のWindows 11では、多くのx86向けソフトもそのまま動作するようになっている。だが、Snapdragonを使ったPCは動作速度が遅く、メモリーやストレージ容量が割高で、x86系を押し除けてまで購入する理由は薄い、という欠点があった。

 

そこでクアルコムは、PC向けのSnapdragonを大幅に刷新した。性能が改善されたCPUコアであるOryonを用意し、PC市場での不評を刷新しようとしているわけだ。

 

新CPU三つ巴の競争はこれから

きっかけとなったのは、2020年にアップルがMacをインテル製CPUから自社設計の「アップルシリコン」に切り替えたことにある。当時、初のMac向けアップルシリコンである「M1」を搭載したMacは、性能・消費電力の面でインテルCPU版Macを大きく上回り、移行のメリットが大きかった。

 

アップルシリコンはARM系だが、他社のARM系プロセッサーよりも性能が高く、それゆえにMac向けでも成功した。その状況を見たクアルコムはPC向け戦略にテコ入れをし、Oryonを開発して一気に性能アップを図ったのだ。

 

Snapdragon X Eliteについて、クアルコムはアップルの「M2」より高速で、消費電力も30パーセント低く、M2同様にインテル製CPUより性能・消費電力ともに優れている、と公開した。

 

そしてそのすぐ後、アップルは最新のアップルシリコンとなる「M3」シリーズを搭載したMacを発表した。M3はM2よりCPUコアがさらに15パーセントから30パーセント速くなる。クアルコムは、この時期にM3が発表されると正確に予測しており、アップルが手を打つのとほぼ同時に“対抗製品”を発表する形になったのだろうと考えられる。M3搭載Macは11月に出荷され、市場で先行する。

 

こうなると、インテルも黙ってはいられない。2023年末に「第14世代Core」シリーズを出荷し、2024年前半から多数の製品が登場することになる。第14世代では単純な高速化だけでなく、生成AIを中心としたAI処理を高速化する機能を重視し、新しいPCのあり方を模索する。

 

では各社の戦略はどう違うのか? 使い勝手はどうなるのか? 結果的に、2024年以降のPC市場はどうなるのか? そのあたりは次回以降に解説していくこととする。

 

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