「回復ムード」演出する中国悩ます3つの経済難題
2023年7〜9月期GDPの発表と同じ10月18日午前に「第3回一帯一路国際フォーラム」で基調演説する習近平国家主席(写真:Bloomberg)
「われわれは5%前後の成長という目標の実現にはとても自信を持っている」
2023年10月18日の午前10時(北京時間)、中国政府は7〜9月期の実質経済成長率が前年同期比で4.9%だったと発表した。北京の中心部、西長安街にある政府記者会見室で日本メディアの特派員から、「2023年通年で5%という目標は達成できるのか」と問われた国家統計局の報道官は胸を張って答えた。
晴れ舞台を迎える習近平主席の露払い
中国の官僚であれば、誰であってもそう答えざるを得ない。ほぼ同じタイミングで習近平国家主席が、記者会見室から目と鼻の先にある人民大会堂で晴れ舞台に立つことになっていたからだ。習近平主席自らの肝煎りである巨大経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議の基調演説だ。
ロシアのプーチン大統領をはじめ、140カ国超の4000人以上が参加する一大イベントである。「一帯一路」提唱から10年の節目として満を持して臨むスピーチに、経済の先行きを悲観する報道で水を差すわけにはいかない。報道官は中国経済にかかる暗雲を吹き飛ばすべく、「目標必達」をアピールして国家統計局への期待に応えた。
「2023年1〜9月の実質成長率は前年同期比で5.2%に達しており、10〜12月期の成長率が4.4%あれば『5.0%前後』という目標を実現できる」というのが報道官の説明だ。7〜9月期の成長率は前期比でみると1.3%で、4〜6月期の0.5%から加速している。
これは、大方の想定を上回る高い着地である。中国内外の調査機関によるコンセンサス予想は4%台半ばだった。国際通貨基金(IMF)は10月10日に2023年の中国の成長率予想を、それまでの5.2%から5.0%に下方修正したばかりだ。
確かに足もとでは景気の好転を示す指標がいくつか出ていた。国家統計局が発表する製造業購買担当者指数(PMI)は、中国の景気の先行指標として注目される。この指標は9月には50.2となり、好況・不況の境目となる50を6カ月ぶりに上回った。自動車や電気機械などの業況が好転しているという。
自動車については電気自動車(EV)、プラグイン・ハイブリッド車の好調と輸出の増加によって、9月には月間の販売台数が過去最高の261万台にまで拡大した。
なお残る3つの難題
ただ中国経済が底打ちして、このまま成長軌道に戻るかといえば、そこまで楽観はできない。解決すべき難題が少なくとも3つある。
第1は、中国経済の柱である不動産業界の低迷だ。中国恒大集団や碧桂園など民営の不動産デベロッパーの経営不安が長期化し、業者による新規投資も消費者の購買意欲も衰えたままだ。
1〜9月の不動産販売は金額で4.6%減、面積で7.5%減と落ち込みを続けている。これを反映して不動産開発投資額は前年同期比で9.1%も減り、マイナス幅は7カ月連続で拡大した。
第2に、中国では経済成長のエンジンである投資が振るわないことだ。1-9月の固定資産投資は前年同期比3.1%減で、7カ月連続でマイナスとなっている。民間投資は同0.6%減だ。政府の意向を反映したインフラ投資や国有企業による投資に比べ、民営企業による投資が決定的に出遅れている。
習近平政権は今年に入って民営企業支援の政策を続々と打ち出しているが、企業の心理は委縮したままだ。国家統計局の報道官は会見で「3分の1以上を占める不動産投資を除けば、民間投資は9.1%のプラスだ」と説明したが、それほど民間不動産企業の投資は落ち込んでいるということだ。
経済が低空飛行を続けるリスク
第3に、消費の回復が鈍いことだ。消費動向を示す社会消費小売総額は2023年1〜9月累計で前年同期比6.8%増だが、1〜6月の8.2%増より鈍化した。1〜9月累計で18.7%も伸びた飲食のほか食料品、アパレルなどが改善しているが、家電や通信機器などが振るわない。
裾野が広い不動産業界の不振は、投資にも消費にも大きく影響している。中国政府は時間をかけて不動産デベロッパーの債務再編を進める、ソフトランディング作戦を図っている。GDPの3割を不動産関連が占めるという中国経済の特性上やむをえない選択だが、それだけ中国経済が低空飛行を続けるリスクは高まる。
IMFは最新の予測で、中国の2024年の成長率をそれまでの4.5%から4.2%に引き下げた。2023年の成長率目標を達成できたとしても、なお苦難の道のりは続きそうだ。企業の投資、そして市民の消費を喚起する大きな方向転換が求められている。
(西村 豪太 : 東洋経済 コラムニスト)