大幅減速もありえる米国経済
マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、最新の情勢を踏まえた米国の先行きについて解説していただきます。
約1カ月前に「地雷原? を進む米国経済」で米国経済の先行きについて慎重な見方を紹介しました。本稿では、最新の情勢を踏まえて米国の先行きを展望しておきます。
10月10日に公表されたIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しは、「グローバルなかい離をナビゲートする」とのタイトルでした。世界の実質経済(GDP)成長率は、2022年の3.5%から23年に3.0%へ減速、24年も2.9%にとどまるとの見通しです。そうしたなかで、地域間の「かい離」が広がるとして、7月時点から米国の見通しを上方修正する一方で、ユーロ圏や中国の見通しを下方修正しています。
米国の実質経済成長率の見通しは、23年が1.8%から2.1%、24年が1.0%から1.5%への上方修正でした。米国経済は24年にかけて底堅く推移するのでしょうか。
○長期金利の上昇
9月から大きく変わったことは、米国の長期金利(10年物国債利回り)が大幅に上昇したことでしょう。FRB(連邦準備制度理事会)が「最後に」利上げした7月26日から10月6日までに長期金利は1%超上昇しました(足もとで小幅低下)。単純に言えば、米国の政策金利が維持されるなかで、0.25%の利上げ数回分の金利上昇があったことになります。
FRB関係者の間では最近になって、長期金利の上昇を理由の一つとして「追加利上げは不必要」との発言が増えています。ただ、長期金利の上昇そのものが景気に大きくブレーキをかける可能性があります。住宅ローンの金利(30年固定)は2000年以来約23年ぶりの水準まで上昇しています。中古住宅販売件数は8月時点で08年リーマン・ショック直後に近い水準まで落ち込んでおり、今後さらに減少して景気の重石になるかもしれません。
○UAWのストライキは継続中
9月15日に始まったUAW(全米自動車労組)のストライキは10日時点で4週目に突入しています。当初、3大自動車メーカーに対して1.3万人の組合員がストライキに入りました。その後、トラックメーカーなども巻き込み、メーカーによるレイオフ(一時解雇)も含めれば、4万人近い雇用が喪失しているようです。UAWと3大メーカーには歩み寄りの兆しもあるようですが、ストライキのさらなる拡大や長期化の可能性もあり、予断は許しません。
○シャットダウンの可能性は残る
10月1日に始まった24年度について、共和党と民主党が短期の継続予算で合意したことで、シャットダウン(政府機能の一部停止)は土壇場で回避されました。直後に、歳出削減を強く主張し、民主党との妥協に反発する共和党保守強硬派がマッカーシー下院議長を解任しました。共和党内部の分裂によって後任の選定は混とんとしています。継続予算は11月17日に失効します。それまでに議会が本予算(12本の歳出法)か、少なくとも新たな継続予算を成立させなければ、今度こそシャットダウンが発生します。その可能性は9月時点より高まっているようです。シャットダウンは短期であれば、一部の市民が不便を感じる程度でしょうが、長期化すればマクロ経済にも影響が出てくるかもしれません。
○学生ローンの返済が家計の財布を直撃!?
10月からはコロナ期間中に猶予されていた学生(教育)ローンの返済が再開されます。米国において学生ローンは日本で想像する以上に広く利用されているようです。Education Data Initiativeというサイトによれば、今年6月時点で学生ローン残高は1.77兆ドル。約4,400万人が学生ローンを抱えており、月々の返済額は平均503ドルとのことです。これらの数字が正確だとすれば、学生ローンの返済額は家計の可処分所得全体の1.3%。大きいとは言い難いですが、無視できるほど小さくもないでしょう(消費税が1.3%引き上げられると考えたら・・・)。
○米国経済は大幅減速も?
アトランタ連銀のGDPNow(短期予測モデル)によれば、10月10日時点で7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率5.1%と予測されています。商務省が公式統計を発表するのは10月26日ですが、すでに7-9月期の経済統計が多く発表されているので、それほど的外れにはならないはずです。問題は10-12月期以降です。Bloombergが集計した金融機関約60社の予測(中央値)によれば、実質GDP成長率は今年10-12月期に前期比年率0.5%、来年1-3月期に同0.2%、4‐6月期に同0.6%と1%未満の低成長が続く見通しです。上述したリスク要因が強く出るようならマイナス成長もあり得るでしょう。今後の米国経済の変調には注意が必要でしょう。
西田明弘(マネースクエア) マネースクエア チーフエコノミスト。日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを経て、2012年にマネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「ファンダメ・ポイント」 や「ウイークリーアウトルック」 などのレポートを配信する他、投資家のための動画配信サイト「M2TV」 でマーケットを解説。 この著者の記事一覧はこちら
約1カ月前に「地雷原? を進む米国経済」で米国経済の先行きについて慎重な見方を紹介しました。本稿では、最新の情勢を踏まえて米国の先行きを展望しておきます。
10月10日に公表されたIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しは、「グローバルなかい離をナビゲートする」とのタイトルでした。世界の実質経済(GDP)成長率は、2022年の3.5%から23年に3.0%へ減速、24年も2.9%にとどまるとの見通しです。そうしたなかで、地域間の「かい離」が広がるとして、7月時点から米国の見通しを上方修正する一方で、ユーロ圏や中国の見通しを下方修正しています。
○長期金利の上昇
9月から大きく変わったことは、米国の長期金利(10年物国債利回り)が大幅に上昇したことでしょう。FRB(連邦準備制度理事会)が「最後に」利上げした7月26日から10月6日までに長期金利は1%超上昇しました(足もとで小幅低下)。単純に言えば、米国の政策金利が維持されるなかで、0.25%の利上げ数回分の金利上昇があったことになります。
FRB関係者の間では最近になって、長期金利の上昇を理由の一つとして「追加利上げは不必要」との発言が増えています。ただ、長期金利の上昇そのものが景気に大きくブレーキをかける可能性があります。住宅ローンの金利(30年固定)は2000年以来約23年ぶりの水準まで上昇しています。中古住宅販売件数は8月時点で08年リーマン・ショック直後に近い水準まで落ち込んでおり、今後さらに減少して景気の重石になるかもしれません。
○UAWのストライキは継続中
9月15日に始まったUAW(全米自動車労組)のストライキは10日時点で4週目に突入しています。当初、3大自動車メーカーに対して1.3万人の組合員がストライキに入りました。その後、トラックメーカーなども巻き込み、メーカーによるレイオフ(一時解雇)も含めれば、4万人近い雇用が喪失しているようです。UAWと3大メーカーには歩み寄りの兆しもあるようですが、ストライキのさらなる拡大や長期化の可能性もあり、予断は許しません。
○シャットダウンの可能性は残る
10月1日に始まった24年度について、共和党と民主党が短期の継続予算で合意したことで、シャットダウン(政府機能の一部停止)は土壇場で回避されました。直後に、歳出削減を強く主張し、民主党との妥協に反発する共和党保守強硬派がマッカーシー下院議長を解任しました。共和党内部の分裂によって後任の選定は混とんとしています。継続予算は11月17日に失効します。それまでに議会が本予算(12本の歳出法)か、少なくとも新たな継続予算を成立させなければ、今度こそシャットダウンが発生します。その可能性は9月時点より高まっているようです。シャットダウンは短期であれば、一部の市民が不便を感じる程度でしょうが、長期化すればマクロ経済にも影響が出てくるかもしれません。
○学生ローンの返済が家計の財布を直撃!?
10月からはコロナ期間中に猶予されていた学生(教育)ローンの返済が再開されます。米国において学生ローンは日本で想像する以上に広く利用されているようです。Education Data Initiativeというサイトによれば、今年6月時点で学生ローン残高は1.77兆ドル。約4,400万人が学生ローンを抱えており、月々の返済額は平均503ドルとのことです。これらの数字が正確だとすれば、学生ローンの返済額は家計の可処分所得全体の1.3%。大きいとは言い難いですが、無視できるほど小さくもないでしょう(消費税が1.3%引き上げられると考えたら・・・)。
○米国経済は大幅減速も?
アトランタ連銀のGDPNow(短期予測モデル)によれば、10月10日時点で7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率5.1%と予測されています。商務省が公式統計を発表するのは10月26日ですが、すでに7-9月期の経済統計が多く発表されているので、それほど的外れにはならないはずです。問題は10-12月期以降です。Bloombergが集計した金融機関約60社の予測(中央値)によれば、実質GDP成長率は今年10-12月期に前期比年率0.5%、来年1-3月期に同0.2%、4‐6月期に同0.6%と1%未満の低成長が続く見通しです。上述したリスク要因が強く出るようならマイナス成長もあり得るでしょう。今後の米国経済の変調には注意が必要でしょう。
西田明弘(マネースクエア) マネースクエア チーフエコノミスト。日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを経て、2012年にマネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「ファンダメ・ポイント」 や「ウイークリーアウトルック」 などのレポートを配信する他、投資家のための動画配信サイト「M2TV」 でマーケットを解説。 この著者の記事一覧はこちら