米国司法省がGoogleに対して画期的な反トラスト法訴訟を起こしてから3年、ついに今年9月12日に審理が開始された。原告側と被告側それぞれの冒頭陳述は、この重要な法廷闘争の基礎を築くものだ。

Googleはもし敗訴すれば多くを失うだろう。専門家は、この訴訟の行方がオンライン広告の未来を決定づける可能性があると指摘する(同訴訟についての基礎知識、背景、予想される展開、考えられる影響などについてはこちら)。

なお9月第3週にはこれと並行して、司法省が今年前半に提訴した、オープンウェブをめぐる別の反トラスト法訴訟も行われている(最初の訴訟は検索市場に関するもので、2020年にトランプ政権下で提訴された)。

今回の訴訟の冒頭陳述は、見方によっては、オンライン広告の複雑さを理解しようとするすべての人々が短期集中講座として利用できるものだ。また、オンライン広告業界を法律のレンズを通して眺めてみたい広告主にとっても役に立つだろう(同訴訟においては、証拠を非公開とし、公聴会用のオーディオフィードへのアクセスを冒頭陳述以降は拒否しようとしている、Googleの秘密主義の姿勢も批判を浴びた)。

司法省の弁護団、司法省の訴状に賛同する複数の州の司法長官、およびGoogleの弁護団が展開した主張を以下におさらいしよう。

司法省の訴状の趣旨



この訴訟の核心は、Googleが検索市場の覇権に登りつめる過程で、米国の反トラスト法に違反したかどうかだ。9月12日、司法省の弁護団は、Googleが2020年にAppleに対し、iPhoneのデフォルトの検索エンジンとして採用してもらう見返りに40億〜70億ドル(約5905億〜1兆335億円)を支払い、また現在はこの地位を維持するために100億ドル(約1兆4760億円)以上を支払っていると述べた。この独占契約により、Googleは「強力な戦略兵器」を手にしたと、司法省民事局の局長代理を務めるケネス・ディンツァー氏は述べる。スマートフォン時代が隆盛を極めるなか、人々はますますモバイル検索に頼るようになっているためだ。

「我々は情報の検索に関して汎用検索エンジンに依存している」と、ディンツァー氏は冒頭陳述で主張した。「なんでも買い揃えられる場所であり、言ってみれば、スーパーマーケットに多種多様な商品が並んでいるおかげで我々が容易に商品を選択できるのと同じだ」

司法省の訴訟内容には、Googleが開発したAndroid OSを搭載したデバイスも含まれている。ほとんどのAndroidデバイスで利用されている、Google PlayストアやGoogleマップに関する合意の正当性などが焦点だ。「ウィジェットとブラウザはGoogleにとって上陸拠点だ」と、ディンツァー氏は言う。

Googleには、検索広告オークション市場を不正に操作し、価格を釣り上げた疑惑がかけられている。ディンツァー氏は、「オークションにおいて、あなたの入札額を上回る入札者がいないのに、オークション主催者が価格を上げ続けるようなものだ」と指摘する(司法省は広告価格に関して、広告主4社の関係者を召喚し証言させる予定だが、証人の名前は公開されていない)。

「この法廷から得られる最も重要な教訓のひとつは、Googleには広告価格を釣り上げる能力があるということだ」と、ディンツァー氏は述べた。

州司法長官の弁護団によるオンライン広告入門講座



司法省に賛同する州司法長官の代理人弁護士を務めるビル・カバノー氏は、リアルタイム入札、コンバージョンレベルデータ、マーケットファネルといった、広告業界のトピックの基礎を法廷で解説した。同氏はまた、検索広告が魅力的であるのは、マーケターが検索エンジンから人々を自社ウェブサイトに誘導したがっているためだと指摘した。さらにカバノー氏は、司法省および州司法長官が提示する証拠の概要を示し、それらはGoogleがDuckDuckGoやBingといった競合他社をいかに抑圧しているか、大手広告主がいかに広告パフォーマンスに「重大な不満」を抱いているかを裏付けるものであると主張した。

「サイト訪問者1人あたりに実際に使われた広告費に注目すると、増加の一途をたどっていることがわかる」と、カバノー氏は述べた。「Googleは法廷にこの証拠を無視するよう要請した。全体としてクエリーと広告費が増加しているというのがその理由だが、Googleはこの波をつくりだしてはいなくても、それに便乗しており、また競争的プロセスに対する侵害に同社が加担していることを示す証拠が揃っている」

Googleの広告部門の秘密主義も、司法省の冒頭陳述の重要なポイントだ。ディンツァー氏によれば、Googleは事態の発覚に至るまでに「数千、数万」の文書を隠蔽しており、これは同社が先述の契約が反トラスト法に抵触するものであることを認識していたことを示唆する。「Googleは(文書の)修正履歴をオフにして、訴訟中に書き換えられるようにした」と、同氏は主張する。

覇権を擁護する被告側



Google側の冒頭陳述を担当したジョン・E・シュミットライン氏は、Googleの覇権はマイクロソフト(Microsoft)など大手他社がPC市場の拡大に注力し、Bingなどの検索エンジンのイノベーションを怠った結果にすぎないと主張した。

シュミットライン氏によれば、被害者は広告主とユーザーではなく、むしろマイクロソフトこそが最大の被害者だ。マイクロソフトのWindowsをOSとするコンピューターではBingがデフォルトの検索エンジンとなっているが、データによればマイクロソフトユーザーはGoogle検索を選んでいると、同氏は述べた。

「米国の反トラスト法は、法律としての原理上、Googleが拡大化を果たしたからというだけの理由で、Googleが他社と競争することを阻むことはできない」と、シュミットライン氏は述べた。「それは米国反トラスト法の趣旨に反する」

シュミットライン氏は、米国の反トラスト法における市場の定義は、検索広告だけに限定されず、デジタル広告全体に適用されるものであると述べ、「競合他社への損害は、必ずしも競争の侵害にあたらない」とした。

ブラウザそのものは無料であるため、イノベーションの主要な資金源は検索広告収入であると、シュミットライン氏は論じた。たとえGoogleがデフォルトの検索エンジンであっても、ユーザーは好きなように他社の検索エンジンに変更できると同氏は述べた。ただし、判事からユーザーの検索エンジン変更の頻度についてデータの提示を求められると、Googleはこの情報を追跡していないためデータを保有していないと、シュミットライン氏は答えた。

「(モバイル)デバイスに製品をインストールさせることほど、競争の激しい分野はない」と、シュミットライン氏は述べた。「どの企業もデフォルトに採用されたがっている」

今後の展開



公式に今後10週間にわたって審理されることになるこの訴訟は、テック大企業、アドテク業界、広告主、規制当局が大いに注目するなかで進められ、証人喚問や新証拠の提示が行われる見込みだ。冒頭陳述を傍聴した、ケン・バック米下院議員(共和党、コロラド州選出)は、一連の投稿のなかで、Googleは「AppleとAndroidのOSにおけるデフォルト検索エンジンに居座ることで、ライバルを蹴落としてきた」と非難した。

バック議員はさらに、「Googleは改正反トラスト法の成立を阻み、議員を買収するために数億ドルを費やしてきた」として、「議員は私腹を肥やすのをやめ、米国民のために最善を尽くすべきだ。この訴訟は必要な最初の一歩なのだ」と述べた。

[原文:As the DOJ’s Google antitrust trial begins with opening arguments, here’s what you need to know]

Marty Swant(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:分島翔平)