by Christopher Michel

南極大陸沿岸部の棚氷で繁殖することが知られているコウテイペンギンは、地球温暖化による海氷の融解によって個体数減少の危機にさらされています。2022年には南極大陸では記録的な海氷の融解が発生し、4つのコウテイペンギンのコロニーで繁殖に失敗していることが確認されました。

Record low 2022 Antarctic sea ice led to catastrophic breeding failure of emperor penguins | Communications Earth & Environment

https://doi.org/10.1038/s43247-023-00927-x



Mass die-off strikes endangered emperor penguin chicks across 4 of 5 West Antarctica colonies | Live Science

https://www.livescience.com/animals/penguins/mass-die-off-strikes-endangered-emperor-penguin-chicks-across-4-of-5-west-antarctica-colonies

Penguin Breeding Colonies Catastrophically Failing as Ice Vanishes in Antarctica : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/penguin-breeding-colonies-catastrophically-failing-as-ice-vanishes-in-antarctica

Loss of sea ice causes catastrophic breeding failure for emperor penguins - British Antarctic Survey

https://www.bas.ac.uk/media-post/loss-of-sea-ice-causes-catastrophic-breeding-failure-for-emperor-penguins/

1年を通して南極の海氷で大規模なコロニーを形成するコウテイペンギンは南極大陸の冬における5月から6月の間に産卵し、出産したメスが栄養補給のためにエサを採りに行く間、抱卵をするオスは合計100日以上も絶食状態になるという過酷な子育てを行うことが知られています。幼い綿毛から遊泳に適した羽毛へと成長したコウテイペンギンのヒナはその後、夏を迎える12月から1月になると親鳥のもとから巣立ちます。

しかし、2022年12月初旬における南極の海氷面積は1979年の観測開始以来過去最低を記録しました。以下のグラフは南極大陸の海氷の面積を示したグラフです。2023年はほとんどの期間で面積が過去最低を示しています。



特に、南極半島西部のベリングスハウゼン海の中部および東部地域では、海氷が夏季と比較して100%減少したことが報告されています。以下はベリングスハウゼン海における海氷の融解を示した図です。赤く示された地域では大規模な海氷の融解が発生しています。



この地域では5つのコウテイペンギンのコロニーが存在することが観測されていましたが、2022年夏の海氷の融解によって4つのコロニーが消滅し、繁殖中のヒナが大規模な死滅を遂げたことがイギリス南極調査所によって報告されています。

ベリングスハウゼン海のスマイリー島を拠点とするコウテイペンギンのコロニーは、2022年夏の海氷融解によって消滅してしまいました。10月の時点では丸で囲まれた部分にコウテイペンギンのコロニーが存在していましたが、12月には海氷が融解してコロニーが消滅してしまっています。



イギリス南極調査所のピーター・フレットウェル氏は「コウテイペンギンが1シーズンでここまでの規模で繁殖に失敗するのは記録上初めてです。この地域では南極大陸における夏の間に海氷がほとんど喪失したため、泳ぐことができないヒナは生き残ることができませんでした」と述べています。また、フレットウェル氏は「コウテイペンギンは地球温暖化に対して非常に弱いことが分かっています。このまま地球温暖化が続くと、今回のような大規模な海氷の喪失がより頻繁かつ広範囲に及ぶ可能性があります」と警告しています。

研究チームによると、海氷が消滅して繁殖に失敗したコウテイペンギンは翌年、より安全な繁殖地に切り替えて、局所的な海氷の減少に対応するとのこと。しかし、地球温暖化によって生息地の大部分が融解してしまうと、この対応策は持続可能ではなくなってしまうことが指摘されています。



by Christopher Michel

地球温暖化の影響を大きく受けるコウテイペンギンに対してはこれまでに「気候変動がこのまま継続した場合、コウテイペンギンのコロニーは2100年までに約98%が消滅し、個体数は約99%減少する」との研究結果も報告されています。

コウテイペンギンの個体数が99%減少する可能性があるとして絶滅危惧種に指定へ、気候変動の影響で - GIGAZINE



こうした状況を受けて2022年10月には、アメリカの魚類野生生物局(FWS)がコウテイペンギンを絶滅危惧種に指定しています。

ついにコウテイペンギンを絶滅危惧種に指定するとアメリカ当局が決定、地球温暖化による海氷減少が脅威に - GIGAZINE



イギリス南極調査所のジェレミー・ウィルキンソン氏は「今回のコウテイペンギンの大規模な繁殖失敗は、このまま地球温暖化を続けてはいけないという人類に対する警告のサインです。各国の政治家は、気候変動の影響を最小減に抑えるためにさらなる行動を起こさなければなりません。残された時間はあとわずかです」と述べています。