初心者に押さえてほしいお金を増やすための「投資のポイント」を解説します(写真:タカス/PIXTA)

岸田内閣は2023年を「資産所得倍増元年」とし、「貯蓄から投資へ」のシフトをすすめています。そうはいっても「かえって資産が減ってしまうのでは」「何から始めたらいいの?」「リスクをとるのは怖い」などと不安に思う方もいるのではないでしょうか。

投資初心者は、いったい何から始めたらいいのか。『「お金の増やし方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』の著者の1人、藤吉豊さんが、100冊の書籍に書かれてあった内容をもとに、初心者にもおすすめの「投資の始め方」を紹介します。

お金のプロたちの考え方には共通点がある

僕たちは今回、お金の増やし方について書かれた名著を「100冊」精読し、そのエッセンスをまとめるという作業を行いました。その結果、わかったことがあります。それは、「お金のプロたちの考え方には共通点があり、プロの多くが認めるお金の『増やし方』『貯め方』『使い方』(=共通のノウハウ)がある」ことです。

共通のノウハウの中には、「これから投資を始めたい人」が知っておくべきポイントと投資の心構えが、それぞれいくつか紹介されていました。ここではその中から、最も大切なポイントと心構えをお話ししていきます。

今回、最も多くの名著がすすめていたのは、「分散投資」でした。分散投資とは、株式と債券、国内と海外など、複数の投資先に時間をずらして投資をすることです。すべての資産が一度に減るリスクを低くできます。投資にはリスクがつきものです。

投資のリスクとは、

「結果が不確実であること(予想できないこと)」

を意味します。

株式や債券(国や企業などが資金を借り入れるために発行する有価証券)などは、さまざまな影響により価格が変動します。投資のリスクをなくすことはできませんが、リスクを減らす方法はあります。その方法のひとつが分散投資です。

資産を複数持っていれば(いろいろな金融商品を保有していれば)、特定の資産が値下がりしても他の資産の値上がりでカバーできることもあるため、リスクを軽減できます。

分散する対象は、おもに次の4つです。

・資産の分散
・銘柄の分散
・地域の分散
・時間(時期)の分散

1つずつ解説していきます。

投資リスクを下げる4つの「分散」原則

(1)資産の分散

株式、債券、不動産、金など、種類の異なる資産を組み合わせて投資します。投資の世界には、「卵をひとつのカゴに盛ってはいけない」という格言があります。全部の卵をひとつのカゴに盛ると、そのカゴを落としたときに、全部の卵が割れてしまうかもしれません。ですが、複数のカゴに卵を盛っておけば、ひとつのカゴを落としても、他のカゴの卵は割れずに残ります。

投資も同じです。1種類の銘柄(や資産)にお金をつぎ込んだ場合、その1つが暴落すれば、投資したお金をすべて失いかねません。しかし複数のカゴ(複数の銘柄や金融商品)にお金を分けて投資しておけば、リスクを分散できます。

(2)銘柄の分散

銘柄とは、株式、債券、投資信託の個別の名称のこと(株式の場合なら企業名)。特定の銘柄だけでなく、複数の銘柄に投資します。株式投資であればA社だけでなく、B社、C社など、複数の企業の株を保有します(A社、B社、C社は別の銘柄だが、「株式」という点では同じ資産)。


出所:『「お金の増やし方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』

(3)地域の分散

複数の国や地域、通貨を組み合わせて投資をします。ひとつの国や地域に集中して投資をした場合、その国の経済状況が悪化すれば、リスクが大きくなります。とくに日本は少子高齢化や成長の鈍化が進み、「この先、経済が大きく発展するのか」不安を感じる要素もあります。

一方、海外に目を向けると、見通しの明るい国が存在しています。国内だけでなく海外の金融商品も組み合わせることで、リスクを抑えることができます。


出所:『「お金の増やし方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』

(4)時間(時期)の分散

積立投資は、毎月など一定のタイミングで、決まった額を購入する投資方法です。購入のタイミングをズラすことで、「時間分散によるリスク低減効果」が期待できます。この投資方法は、「ドル・コスト平均法」とも呼ばれています(ドルは「お金」の意味です。アメリカのドル建てで投資をすることではありません)。

100冊中43冊がすすめていたのが、「投資信託の購入」でした。投資信託とは、資産運用のプロを「信」じて、自分のお金を「託」す投資です。「ファンド」「投信」とも呼ばれています。

投資信託は、ファンドマネージャーが、「これと、これと、これを組み合わせると利益が出るのではないか」と考えてつくった「詰め合わせ商品」です。株式投資は、自分で投資先(銘柄)を見つけて投資します。一方、投資信託は「どの銘柄に投資をするのか」は資産運用のプロに一任します。


出所:『「お金の増やし方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』

投資信託には、「国内株式型」「国内債券型」「外国株式型」「外国債券型」「バランス型」「REIT(不動産を投資対象とする投資信託)」など、さまざまな種類があります。

バランス型は、「日本株しか投資をしない」「海外の債券にしか投資をしない」といった偏りをなくし、国内外の株式・債券にバランス良く投資します。一般的な傾向として、国内より海外、債券より株式のほうが「ハイリスク・ハイリターン(元手が大きく減る可能性もあるが、大きく増える可能性もある)」になります。

投資信託のメリットとデメリット

投資信託のメリット

● 小さな資金から始められる。
● 自分で考えなくても、運用のプロが組み合わせを考えてくれる。
●「詰め合わせ商品」なので、多くの銘柄に分散投資できる。
● 種類が豊富である。
● 運用状況が公開されているので、透明性がある(中身を自分でチェックできる)。
● 運用に携わる金融機関(販売会社、運用会社、信託銀行)が破綻しても、資金が守られる。
● NISA、つみたてNISA、iDeCoの投資対象となっている。

投資信託は、株式や債券を詰め合わせた商品なので、間接的に、いくつもの投資先に分散投資できます。

ただし、投資信託はメリットだけではありません。運用成績は市場環境によって変動するなど、デメリットもあります。

投資信託のデメリット

● 利益が出ることもあれば、投資額を下回ることもある。
● 商品の数が多いため、選ぶのが難しい。
● 短期間で大きな利益を出す方法ではない。
● 値動きの変化に合わせたタイムリーな売買には向いていない。
● ファンドマネージャーが関わるため、自分で運用するよりも手数料(信託報酬)が高くなる。

長期投資をする場合、保有にかかる手数料(信託報酬)が高いと、その分、受け取る利益が減ってしまいます。手元に多くのお金を残すためには、「手数料を安く抑える」のがポイントです。

投資信託は、運用方針の違いによって「インデックスファンド」と「アクティブファンド」の2種類に分類できます。

●インデックスファンド……インデックス=指標。日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)、NYダウ、S&P500(後者2つはアメリカの代表的な株価指数)など、特定の指標に連動するように設計された投資信託。対象とする株価指数と同じ銘柄を同じ比率で組み入れることが多い。特定の指数と似た値動きをするため、市場並みの運用成績が期待できる。「パッシブファンド(パッシブ=受け身)」とも呼ばれる。

●アクティブファンド……アクティブ=積極的。ファンドマネージャーが独自に選んだ銘柄で構成された投資信託。株価指数など市場平均を上回る運用成績を目指す。

インデックスファンドとアクティブファンドにはそれぞれに特徴があり、「どちらが優れているのか」を決めることはできません。ですが、100冊の著者の多くが、「投資の初心者にはインデックスファンドのほうが向いている」と述べています。

投資初心者にインデックスファンドが向いている理由

● アクティブファンドよりも、手数料が安い(アクティブファンドはファンドマネージャーが運用しているため、インデックスファンドよりも手数料が高め)。
● 日経平均株価やTOPIXなど、特定の指数と似た動きをするため、値動きがわかりやすい。
● ひとつの金融商品を購入するだけで、幅広く分散投資できる。日経平均株価に連動するインデックスファンドなら、日本の主要企業225社に分散投資しているのと同じ効果が期待できる。

アクティブファンドは、市場平均を上回る運用成績を目指していますが、

「結果的に、市場平均を上回ることができない」「6割のアクティブファンドがインデックスファンドを下回る」

と主張する著者もいます。アクティブファンドがインデックスファンドに勝てない理由として、

「運用成績がファンドマネージャーの手腕に左右されること」「運用コスト(手数料)がインデックスファンドよりも高いこと」

などが挙げられています。

インデックスファンドはどのくらい保有すべき?

インデックスファンドにもさまざまな種類があり、「どのインデックスファンドをどれくらいの割合で保有すべきか」についての絶対解はありません。しかし、43冊の著者の多くが、

● ひとつだけではなく、複数のインデックスファンドを組み合わせて保有したほうがリスクは分散される(例:国内株式のインデックスファンドと海外株式のインデックスファンド)

●「国内株式のインデックスファンド」よりも、「海外株式のインデックスファンド」のほうがリターンは見込める。世界経済は成長し続けているし、とくに米国株は右肩上がりなので魅力的

と述べています。

時間(時期)を分散する投資方法としては、「積立投資」がおすすめされていました。積立投資のおもなメリットは、次の3つです。

(1)少額から始められる

「つみたてNISA」や「NISA」ではおもに投資信託を毎月買っていくことになりますが、投資信託なら、月々100円から始めることができます。

(2)購入のタイミングに悩まない

「毎月20日に100円ずつ買う」などと決めて、自動的にお金を引き落とすようにすれば、購入のタイミングに悩むことなく、コツコツ投資を続けることができます。値動きに一喜一憂する必要もないので、精神的にも落ちついていられます。

(3)購入価格が平均化される

価格が上がる時期や下がる時期があっても、結果的に購入価格が平均化されます。積立期間が長くなるほど平均化される期間が長くなるため、価格変動リスクを減らせます。また、積立投資を始めたら、「長期保有する」ことが大切です。長期保有をすると、元本割れする(損をする)可能性が低くなる傾向があります。

株式投資の場合、運用期間が長いほど配当金や株主優待の回数も多くなり、利益の積み上げが期待できます。

上手に分散すれば、リスクは下げられる

金融庁が発行する『つみたてNISA 早わかりガイドブック』によると、1985年以降の各年に毎月同額ずつ国内外の株式・債券に積立、分散投資をした場合、保有期間5年では元本割れの可能性があるのに対し、保有期間20年では、損をした(元本割れした)ケースは0%です(過去の実績をもとにした結果であり、将来の成果を保証するものではありません)。

投資にリスクはつきものですが、上手に分散することで、そのリスクを下げていくことができます。「始めてみたいけれども、不安」という方ほど、なるべくさまざまな分散の形を取り入れてみてはいかがでしょうか。

投資にはリスクがともないます。リスクとは、日常的には「危険、危機」「悪いことが起きる可能性」の意味で用いられますが、投資の世界では「予想できない」という意味を含みます。

不確実の度合いが大きいこと(価格変動の振れ幅が大きいこと)を「リスクが大きい(高い)」、小さいことを「リスクが小さい(低い)」といいます。リスクが大きいとは、「大きく損をするかもしれないし、大きく利益(リターン)が出るかもしれない」という意味です。

ファイナンシャル・プランナーの中桐啓貴さんは、著書の中で、リターンからではなくリスクから投資を考えることの大切さに触れています。

「リターンからしか投資を考えていないうちは素人です。プロは常にリスクから考え、リスクに対して最大のリターンが出ているかを考えます。(略)

自分が取っているリスクに対して最大のリターン、つまり最も効率的な資産配分にするために分散投資をするのです」(『日本一カンタンな「投資」と「お金」の本』/クロスメディア・パブリッシング)

リスクの取りすぎには注意

リスクとリターンはセットになっていて、リターンを得たいなら、リスクを受け入れる必要があります。ですが、「とにかくリスクを取ればいい」わけでなく、リスクの取りすぎには注意が必要です。


世界累計で200万部を突破したベストセラーの邦訳版『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』(ダイヤモンド社)で、著者のモーガン・ハウセルさんは「リスクを好きになること。リスクは、時間の経過とともに利益を生む」と述べたあと、こう続けています。

「ただし、身を滅ぼすようなリスクには細心の注意を払うべきだ。立ち直れないほどのダメージを負ってしまえば、長期間で得られるリターンのためのリスクをそれ以上取ることができなくなる」

立ち直れないほどのダメージを受けないためには、自身が「どのくらいの損失なら耐えられるか(受け入れられるのか)」の度合いを知っておくことが大切です。

どの程度だったら生活に支障をきたさずにいられるか、心理的に耐えられるかという2つの観点から、ご自身にとっての適切なリスクを考えてみてください。

(藤吉 豊 : 文道代表取締役)