60代前後になると、子育ても終わり自分の時間も増えていきます。本来ならば子どもの自立を喜ぶべきところですが、なかには深い喪失感を抱いて、残りの人生に希望を持てない…という気持ちを抱く場合も少なくありません。

”趣味”で60代から人生をもっと楽しくするコツ

そこで、『60歳のトリセツ』(扶桑社刊)を執筆した脳科学者の黒川伊保子さんに、子育てが終わった60代から人生をもっと楽しくする方法を教えてもらいました。

●一生楽しめる趣味を、早い段階でつくっておく

子育てが落ち着いたら、とにかく重要なのが「自分のために生きること」だと語る黒川さん。そのために、若いうちから始めてほしいのが趣味をつくることです。

「子育てが終わると、身体を動かさなくなるし、気持ちもだんだん沈んでいきます。体も脳も使わなければ、機能が弱くなってしまうので、積極的に体と脳を使うためにも一生楽しめる趣味を探してほしいと思います」(黒川さん、以下同)

「今、趣味がない」という人は、とにかくなんでも手当たり次第に始めてみることがコツだとか。

「『趣味をつくるなら、立派なものであらねば』と思う必要はありません。コーヒーや喫茶店が好きならカフェ巡りでもいいし、お寺が好きなら神社仏閣巡りもいいし、花が好きだったらいろんなところに花を観に行ってもいい。テニスやゴルフのように、趣味と名のつくものではなくてもいい。自分の好きなものを追求すればいいと思います。

あと、おすすめはだれもが表現者になれるSNS。周りからのリアクションも楽しめるし、すごく刺激になります。自分の身に起こった不幸なことやムカついたことを、ただ『悲しい』とか『ムカついた』と書くのではなく、その解決策を書いてみるだけでもいいと思います」

●趣味が見当たらないなら、まずは「人のためになるもの」

趣味はあくまで、楽しんでやれることが大前提。「自分はなにが向いているのか」と悩む人は「人の役に立つもの」という視点から、選ぶのもよいとか。

「私たちの脳は、自分の行為で外の世界が反応すると快感を抱くように設計されています。たとえば、庭で自分が手間暇かけた薔薇が咲けば、脳は自己肯定感(自分がここに生きている意義)を覚えます。自己肯定感は、生きるうえで最も大切な感覚。なかでも、自分がしたことで周囲の人が喜んでくれると、脳は強く反応します。

その点では、ボランティアなどはぴったりですね。あと、現在、農業には圧倒的に人手が足りていないので、収穫期の忙しい時期だけ農園を手伝いに行くなどの取り組みもおすすめです。都会の60代は自然に触れる機会も少ないと思うので、一度やってみてもいいのではないでしょうか」

●趣味を生かした仲間内でのビジネスで、脳を喜ばせる

脳は報酬を得ると喜びを感じる作用もあるのだとか。そのため、「趣味」に留まるのではなく、自分が楽しいと思うことを仕事にすれば、楽しさと対価が同時に得られるため、脳には強い刺激が生まれます。

「『仕事』といっても大仰なモノではなく、まずはお友達などの仲間内で趣味をお金に換えるところから始めてみてもいいと思います。たとえば、私にはすてきな50代の友達がいて、文化教室で源氏物語を学んでいるのですが、彼女のことばで語られる源氏物語がとてもすてき。

とうとう『あなたのことばで習いたい』という周囲の声に応えて、自宅サロンで源氏物語の講座をするようになりました。友達に自分の趣味や特技を知らせることで、それが仕事につながることもあります」

「人に教えるような特技はない」と思う人も、じつは自分が気づいていないだけで、秘めたるスキルがある可能性も。

「『自分にはスキルがない』とおっしゃる主婦の方は多いのですが、長年主婦をやってきた方の多くは、世の中の人がびっくりするスキルを持っています。仕事と子育てで家を片付ける暇もないころ、ママ友に非常に片づけがうまい人がいたので、彼女にお金を払って家の整理整頓を手伝ってもらっていたんです。すると、口コミで広まって、予約が取れないほど人気が殺到したことも」

なお、ポイントは「友達だから」といってタダではやらないこと。ほんの少しのお金でいいので、対価をもらうことで、より脳には大きな刺激になるそうです。

黒川伊保子さんの書籍『60歳のトリセツ 』(扶桑社刊)では、このほかにも60代からの人生をもっと楽しむ秘訣を多数紹介しています。