J2ウォッチャー平畠啓史が今季推している５人。「一番10番に相応しい」「J2でも案の定やばい」「本当に全部うまい」選手とは
平畠啓史の2023年J2中間報告 注目選手編
日本屈指のサッカーマニアでJ2ウォッチャーでもある平畠啓史さんがお送りする、2023年シーズンの"J2中間報告"。ここでは今季ブレイク中で、平畠さん自身、毎回見るのが楽しみという、おすすめの選手を５人挙げてもらった。
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野村直輝（MF／大分トリニータ）
最初に挙げたいのが、大分トリニータの野村直輝選手ですね。今J2のなかで一番"10番"に相応しい仕事をしていると思います。技術もあって本当にすごい。３−４−２−１のシャドーのところで自由に仕事をしてほしいなと僕は思っていますが、チーム状況に応じていろいろ役割とタスクが変わるなかでも、違いを作れる選手です。
大分トリニータの野村直輝
大分は今ちょっとゼロトップ気味で、中川寛斗選手と野村選手の２人が並んでいますが、多分明確なタスクを背負っているというより、その場その場で２人が今チームに必要だと思うことをやっているような。それってすごいですよね。ゲーム内容によってはボランチに回る時もありますが、ボランチでも仕事ができるし、決めなきゃいけない場面では決めに行く。今、キャリアのなかでも本当に充実期みたいなところに入っている気がします。
山口素弘さんが横浜FCの監督をやっている時に、野村選手を獲得したんですね。数年後に「野村めっちゃいいですね〜」って話したら、山口さんめっちゃうれしそうな顔するんですよ（笑）。「僕が獲ってきたんですよ！」って話してくれた。その表情が忘れられません（笑）。山口さんって選手としてもめちゃくちゃすごかったと思うんですが、選手を見る眼力もすごくあるんじゃないかと。
多分、野村選手ってJリーグに入るまでは、誰もが知るような選手ではなかったと思います。取ってきた時に活躍するのもすごいことですが、数年経ってさらに活躍していくというのは価値があるなと。山口さんも喜んでるんちゃうかな。
今、野村選手にいい形でボールが入ったら、絶対何かのチャンスになるという信頼感があります。本人のプレーもすごいし、周りの選手もそう。野村選手がボールを持ったら、もうみんなが勝手に動く。それを見ても周りからどれだけ信頼されているかがわかります。
だから、多分ボールを持った時に「お前あそこに行け！」「あそこに走れ！」って言っているうちはまだまだなんだなと。
【飄々とシュートを防ぐGK】マテウス（GK／東京ヴェルディ）
ゴールキーパー（GK）で注目してほしいのが、東京ヴェルディのマテウス選手。
GKって威圧感みたいなものが求められたりするじゃないですか。肉体的な威圧感や、精神的な威圧感を醸し出して相手を凌駕するGKがいます。けれど、マテウス選手は何かそんな感じじゃないんですよね。飄々とやる感じが僕はすごく好きなんです。
東京ヴェルディのマテウス
ディフェンスに対して怒ったりしているのも、あまり見たことがありません。もちろんサッカーなんで、相手もチャンスがあってシュートを打たれるシーンもありますが、それでも何か淡々とというか、飄々としてシュートをパンパンはじいていく感じなんですよ。
今シーズンのヴェルディは守備がよくて失点数が少ないんですが、そこにはマテウス選手の活躍があることは見逃せない。飄々としていてもPKとか止めたりしますしね。そういうところはもっと評価されてもいい。単純にミスも少ないですし、基本的なセービングもしっかりしているいいGKです。
多分、「オラー！」とか「よっしゃー！」みたいにシュートを止めたほうが、アピール度が高くて「あのキーパーいいな」ってなりがちなんですけど、マテウス選手のようなタイプも本当にいいGKだなって思うんです。
止めて「ヨッシャー」とガッツポーズが見たいのはわかります。でもガッツポーズするって、ちょっと危なかったってことじゃないですか。ちょっと自分でもドキドキしたというか。
でもそんな時飄々としていると、相手側のFWは「このGKは一体どうやったら点が入るんだ」って感じると思うんです。飄々としているほうが不気味に見える。そこが僕はすごい好きですね。
【キックがすごい。クロスの判断がすばらしい】久保藤次郎（MF／藤枝MYFC）
期待というか、もう今めちゃくちゃ活躍しているのが藤枝MYFCの久保藤次郎選手。久保選手は、僕はJ3の時からマジでやばい選手だなと思っていました。大学生で特別指定選手として出場していた時もすごいプレーを披露していました。
J2にあがってきても案の定やばいですね。まず基本のキックの凄さ。僕は『隠れ"隠れ９番"』って呼んでます。シュートが本当にうまいんです。シュートがうまいといってもポジションは右のウイングバックなので、いつもシュートエリアにいるわけじゃないんですよ。でもシュートを打てるエリアに入った時のキックのすばらしさは、ちょっと半端ないですね。
藤枝MYFCの久保藤次郎
久保選手は右のワイドなので、もちろんドリブルでもボールを運べます。こういうポジションでドリブルする人ってクロスやシュートを打つ前にドリブルで仕掛けて相手をかわすことに酔いしれる選手が結構いますよね。そういう選手も僕は嫌いじゃないですが、久保選手は、次に何かをするために必要だからドリブルを仕掛ける。
久保選手がすごいのは、ドリブルを始めても相手DFが前にいる時に、相手を抜かずにクロスをあげるんですよ。それも試合中何度も。ドリブルで抜く必要がないんだったら別に抜きませんよと。そこの判断がすごくすばらしいなと思うんですよ。
ウイングプレーヤーって、どうしても相手をかわしたくなるんですよね。かわすと気持ちいいですから。でもこの選手はかわせるけどかわさずに、あげたほうがいい時はクロスを入れる。そこの判断力のすごさですよね。だからアシスト数もものすごく多くなっているんだと思います。
横浜Ｆ・マリノスとかでもよくあるシーンですけど、まず縦にドリブルで突っかけたあとに直角にグラウンダーのパスをゴール前に入れたりするじゃないですか。久保選手も真っ直ぐ縦に行ったら、相手のDFラインが下がる。そこで、直角に横にパスを入れるから、あとからちょっと遅れ気味に入ってきた中の味方選手がシュートを打てるスペースがある。
いわゆる弓なりのクロスをあげちゃうと、中でどうしても競り合いになってしまう。マリノスの水沼宏太選手も、藤枝の久保選手も、（ゴールラインと）平行に入れたほうが中の選手がシュートを打ちやすいから、あえて平行に入れていると思うんですよね。
ただ久保選手はシュートもうまいので、もしかしたらシャドーとかでもめちゃめちゃ活躍するんじゃないでしょうか。ポテンシャルが高いので、右のワイドの仕事もこなせてしまう。でも多分もっとポテンシャルがあるから、ほかのポジションを含めいろいろできると思いますね。
あと、久保選手のもう一つのすごさが体の強さです。プロフィールを見ると167cmって書いてあって、プロの世界ではめっちゃ小さいじゃないですか。だけど何回見ても「ホンマは167cmじゃないんじゃないの？」って思います。それぐらい実在する久保選手は大きく見えるのも、彼のすごさではないかと思っています。
【見るのが楽しみになる全部がうまい選手】長倉幹樹（FW／ザスパクサツ群馬）
今季、ちょっとケガ気味なんですけど、ザスパクサツ群馬の長倉幹樹選手は本当にいいですね。昨年は東京ユナイテッドFC（関東サッカーリーグ１部）でやっていて、シーズンの途中から群馬に加入した選手です。
本当に全部うまい選手。ドリブルもうまいし、シュートもうまいし、クロスに合わせるのもうまい。攻撃的なセンスが抜群でレベルが高い。FWの選手ですが、シュートシーンだけじゃなくて、自分がちょっと落ちてボール受けたりするのもうまい。また、その受ける場所も絶妙なポジショニングなんですよね。だから相手DFに捕まらないんですよ。
そういうプレーがうまいのに、ドリブルを始めても一見速く見えないんですが、相手が追いつけない。なんでこんなすごい選手が最初からJリーグに入れなかったのか、不思議なぐらいいい選手ですよ。
なおかつ、守備に回ったら守備もうまいんですよ。相手からボールを取れる選手です。だから僕はこの選手を見るのが本当に楽しみ。群馬の試合で長倉選手を見る度に、今日は何をやってくれるのかなって期待しますね。
タイプ的には先ほど挙げたマテウス選手のように、どっちかといったら飄々としているんですよね。テクニックがあるのに、何か見せつける感じじゃなくて、必要最低限のテクニック。テクニックってやりすぎたら、ちょっと邪魔になる部分ってあるじゃないですか。それが全然ないですよね。本当に削ぎ落とされた技術で、どんどんやっていく感じがすごいですね。
群馬がやっているサッカーも面白くて、フォーメーションが可変するんですね。守備の時は４バックになりますが、攻撃の時には３バックになります。メディアではツートップ表記になる時がありますが、長倉選手のポジショニングは1．5列目というか、ちょっと下がっているんですけど、そこでの働きが絶妙ですね。
大好きな選手なので、みなさんにも見ていただいたら納得してもらえると思います。おすすめですね。
【いかにもFWらしい選手が出てきた】森海渡（FW／徳島ヴォルティス）
徳島ヴォルティスのFW森海渡選手がいいですよね。いかにもFWらしい選手が出てきてくれたなって思って見ています。柏レイソルからレンタルの選手です。昨年大学生ながら柏レイソルでデビューして、ゴールも挙げました。
そのままレイソルで活躍するのが一番よかったんでしょうけど、徳島に来たら出番が与えられて、試合に出たらやっぱりやるんですよ。本当に見ていて気持ちいいっすね。ちょっと遠目からでもシュートを打って決めきるぐらいのパンチ力があります。
徳島はやっとFWの人選が固まって、森選手が収まったことで、チームとしてもようやく落ち着いてきたかなと。柿谷曜一朗選手とのツートップとの関係性とかも、すごくいい。
森選手はちゃんと周りとも合わせていけるストライカーで、個の強いストライカーにありがちな大雑把な感じはないですね。基本技術があって、チャンスと見たらおもいっきり打っていく。そこの精神性が、FWらしいなって。でももっともっと点を取れると思ってます。
徳島には柿谷選手というすごい先輩がいて、そこはすごく刺激を受けているんじゃないでしょうか。また、柿谷選手も森選手の動きを見て使ってあげたくなるようなところはあると思います。徳島が後半戦上がっていくには、柿谷＆森のツートップが活躍しないとって感じですよね。
徳島は今、全体的に大分安定してきています。後ろのDF３枚もそうですし、アンカーの白井永地選手もそうですし、サイドも結構崩せているので。あとは決めきれるかどうかっていうところだと、やっぱり前の２人の働きがむちゃくちゃ大事じゃないですかね。
平畠啓史
ひらはた・けいじ／1968年８月14日生まれ。大阪府出身。芸能界随一のサッカー通として知られ、サッカー愛溢れる語り口が人気で、多くのサッカー関連番組に出演中。『平畠啓史Jリーグ56クラブ巡礼2020 日本全国56人に会ってきた』（ヨシモトブックス）など、サッカー関連の著書も多い。
