市川猿之助容疑者(写真:Pasya/アフロ)

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歌舞伎俳優の市川猿之助容疑者(47)が母親の喜熨斗延子さん(75)に対する自殺幇助容疑で2023年6月27日に警視庁に逮捕されたことが、各メディアで報道された。

猿之助容疑者は5月18日、自宅で意識がもうろうとした状態で発見され、両親が死亡したため任意で事情を聞かれていた。事件をめぐっては6月27日朝から逮捕が近いことを報じるニュースが多数放送・配信されていたが、多くは逮捕前から「市川猿之助容疑者」と表記していた。

その一方で、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)では、番組序盤では「市川猿之助さん」という表現だったものの、番組終盤に流れた移送先の警視庁目黒警察署前からの中継では「市川猿之助容疑者」という表現に変わっていた。

「容疑者」は「マスコミによる造語」

ツイッターでは「そういえば、市川猿之助を『さん』なのか『容疑者』呼びしないのってまだ逮捕されてないから『さん』になってるのかな」といった疑問の声も上がった。J-CASTニュースは、メディアによって表記が割れていることについて、放送コラムニストの高堀冬彦氏に見解を求めた。

取材に対して高堀氏は、

「容疑者と呼べるのは逮捕状が裁判所から発布された時点からです。フライングでそう呼んでしまったら、名誉毀損にあたる恐れがあります。逮捕状の発布後、逮捕(執行)されると『通常逮捕』となります。猿之助さんのケースに当たります。また、芸能人が飲酒交通事故などを起こし、逮捕状が要らない『現行犯逮捕』で捕まると、即刻容疑者となります」

と、原則を説明。ただ、運用面では必ずしもそうならない場合があることと、その理由を明かす。

「逮捕の時点から容疑者とするマスコミもあるようです。なぜ判断がやや分かれるのか。それは『容疑者』が法律用語でも捜査用語でもなく、マスコミによる造語だからです。警察・検察は逮捕後で起訴前の人は『被疑者』と呼びます。これが正式な言葉です。マスコミでも事件畑の記者やコメンテーターが被疑者と口にすることがあります」

なぜ、被疑者ではなく容疑者と呼ぶようになったのか

なぜ被疑者ではなく容疑者と呼ぶようになったのか。高堀氏によると、容疑者という言葉が誕生したのは、かつて行われていた事件報道の際の呼び捨てが改められたのがきっかけだという。NHKが1980年代に、逮捕された人物の名前に容疑者という呼称を「人権擁護、推定無罪という観点」からつけ始めたのだと説明した。

その後、他のメディアもNHKに追随して容疑者と呼ぶようになり、容疑者という呼称が一般的になったと指摘。各局が自主的に判断したものだったとしつつ、理由として、「そろってNHKと同じ容疑者としたのはバラバラだと分かりにくいという判断もあったのでしょう」と推測した。

「TBSなど民放は『稲垣メンバー』と呼びました」

高堀氏は、マスコミの自主判断であるがゆえに、容疑者と呼ばれなかった例も挙げる。

「たとえば当時はジャニーズ事務所に所属していた稲垣吾郎が2001年、道路交通法違反(駐車違反)ならびに公務執行妨害罪(のちに不起訴)の容疑で逮捕された時、TBSなど民放は『稲垣メンバー』と呼びました。
ただし、会社員や自営業はそんな呼ばれ方はしないわけで、不公平になってしまい、批判は免れません。マスコミへの視線は厳しくなるばかりなので、もう特別扱いは難しいと思います」

(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)