【環境保護団体 Just Stop Oil】今年2月設立。道路や石油ターミナルの封鎖、政府機関や商業施設へのペンキ噴射など、連日さまざまな抗議活動を行なう。メンバーは推定1000人以上で、逮捕者は20代の若者が多い。10月14日、ロンドンの美術館で20歳と21歳の女性が突然、ゴッホの『ひまわり』にスープをぶちまけた。作品は無傷でふたりは逮捕された

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【環境保護団体 Just Stop Oil】今年2月設立。道路や石油ターミナルの封鎖、政府機関や商業施設へのペンキ噴射など、連日さまざまな抗議活動を行なう。メンバーは推定1000人以上で、逮捕者は20代の若者が多い。10月14日、ロンドンの美術館で20歳と21歳の女性が突然、ゴッホの『ひまわり』にスープをぶちまけた。作品は無傷でふたりは逮捕された

「エコ・テロリスト」と呼ばれる、一部の環境保護団体による過激な抗議活動が世界の注目を集めている。彼らはなぜ、環境問題とは無関係に思える絵画などを標的にするのか? その行為の意味、組織の成り立ちや資金源について識者に聞いた。

【画像】過激な環境保護活動家の抗議行動(15枚)

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絵画や道路に手を接着する意味

エコ・テロリストと呼ばれる過激な環境保護活動家の抗議行動が欧州で頻発している。彼らは何者で、目的はなんなのか? この問題に詳しい明星大学教育学部准教授の浜野喬士(はまの・たかし)氏に聞いた。

「ゴッホの『ひまわり』にスープを投げつけた女性たちが所属するジャスト・ストップ・オイル(以下、JSO)は今年2月にできた団体で、英国政府に対し、石油とガスに関する新規認可の停止などを求めています。

シー・シェパードに代表される、放火や爆破、誘拐などを行なう団体とは異なり、彼らは美術館の警備員に暴行を加えることもしない。ソフト路線のエコ・テロリストといえます。

JSOの設立には、エクスティンクション・レベリオン(以下、XR)、インシュレート・ブリテンというふたつの団体が深く関わっており、特にXRの創始者のひとり、ロジャー・ハラム氏という50代の男性がキーパーソンです。

彼自身が語る経歴によると、親から受け継いで経営していた小農場が、気候変動の影響で立ち行かなくなった。その後、大学院の博士課程で環境問題に取り組み、若者をリクルートして組織をつくっていった。2019年に出版されたXRのハンドブックで、ハラム氏は抗議活動のメソッドを記しています。

例えば、田舎で活動しても報道されないから都市でやりなさい。法律を破りなさい。逮捕されてメディアに叩かれるところをどんどん発信しなさい。行動はシンプルなほうがいい。道路に座り込むとか、政府の建物にペンキを塗るとか......。JSOはこれを実行に移したんです」


交通量の多い幹線道路に座り込む抗議行動も彼らの定番。自らの体を地面に接着する者も


7月5日、活動家がダ・ヴィンチの『最後の晩餐』(複製画)の下に「NO NEW OIL」と書き、自らの手を接着剤で額に貼りつけた

絵画や道路に自身の手を接着剤で貼りつけたりしているが、これにはどんな意味が?

「『ロックオン』といわれる行為で、抗議の時間を長く確保する目的があります。象徴的な意味もあって、絵画は美術館の中だけで完結しているように見えるが、外では環境が重大な危機に瀕(ひん)している。絵画もその世界とつながっているんだという主張です。

また、警官に排除される際、これだと抵抗できないので、『やった、やられた』の話になったときに自分は一切手を出していないと主張できる。

警官が接着した手を引き剥がすのは大変で、リムーバーで剥がすのは時間がかかるし、ケガをさせるわけにもいかないので、周囲のアスファルトごと切り取ってそのまま連行することもあるそうです」


10月24日、ロンドンの蝋人形ミュージアムでチャールズ国王の顔にチョコレートケーキを!


石油備蓄施設に入るタンクローリーを妨害。ガソリンスタンドで給油機を破壊する暴挙も


老舗百貨店ハロッズにオレンジ色のペンキをぶちまける。ロレックスやフェラーリのショールーム、イングランド銀行なども被害に

そんな彼らの資金源は?

「複数の個人投資家に加え、アイリーン・ゲティ氏という人物が、自身が設立した気候変動緊急基金を通してJSOに100万ドルを提供しています。彼女の祖父はアメリカの石油王、ジャン・ポール・ゲティ氏。その財産がJSOやXRに流れているわけです。

彼らは地球環境への切迫度合いが違う。XRが2025年までの温室効果ガス排出ゼロを掲げるように、ここ1、2年で行動を起こさないと後戻りできないところまで来ているのだと。だから、人の犠牲はまずいけど、モノの犠牲は仕方がないと考えている。法を超えた正義に陶酔し、逮捕も厭いとわない。過激な行動は今後も続くでしょう」


3月17日、エバートンvsニューカッスル戦の試合中に若い男性が乱入。ゴールポストに自分の首を結束バンドでくくりつけ、試合を中断させた


7月3日にはレース中のサーキットに飛び込んで座り込むという超危険行為も!


ビートルズの名盤で有名な通りをブロック。ジャケ写の舞台である横断歩道の上で、4人の服装まで再現するこだわりよう


【環境保護団体 Extinction Rebellion】2018年設立。メンバーは数千人規模。創設者のひとり、ロジャー・ハラム氏は大学などで若者をリクルートし、ジャスト・ストップ・オイルの創設にも関わったとみられる


ピカソ『朝鮮の虐殺』に手を接着!


【環境保護団体 LETZTE GENERATION】2021年設立。10月30日、ベルリンの博物館で恐竜の骨格標本を支える柱に手を接着。その1週間前にはポツダムの美術館でモネの絵画にマッシュポテトを投げつけている


今年5月、ルーヴル美術館で36歳の男性が『モナリザ』にケーキを投げつけた

写真/アフロ 時事通信社 「ジャスト・ストップ・オイル」ホームページ