学校からの配布物をきちんと持ち帰れない…そんな子どもに親がしてはいけないこと
※本稿は、本田秀夫『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■学校からの配布物をきちんと持ち帰れない子
学校生活の困りごととして、プリントなどの配布物をめぐる悩みを相談されることがあります。
例えば、子どもが配布物をほとんどなくしてしまい、親が困っているという場合があります。親が子どもに「今日、学校からの配布物はあった?」と聞くと、子どもは「なかった」と答える。でも実際にはプリントが配られている。子どもはプリントを学校の机に置いてきていて、しかも受け取ったことさえ覚えていない。結果として、親は保護者会の日時などが把握できず、苦労している。
そういうご相談がしばしばあります。
子どもが配布物を持ち帰れない場合に、みなさんはどんな対応を考えますか?
親が「配布物は?」と聞いても、本人は覚えていない。ランドセルの中を探してみても、入っていない。その場合、親に何ができるでしょう?
学校の先生はどうでしょうか。忘れっぽい子には、丁寧に対応している先生が多いと思います。子どもに「このプリントはランドセルにしまってください」「帰ったら、必ずおうちの人に見せてくださいね」などと声かけをしている先生もいるでしょう。
それでも配布物を持ち帰れない子がいる場合に、どんな対応が考えられそうでしょうか?
■親ができること:連絡帳で先生とやりとりする
親が「配布物はあった?」と聞いたとき、子どもが「そうだ」と気づいてランドセルからプリントを出せれば、問題はありません。または、学校に置いてきたことを本人が思い出して、次の日に持ち帰ることができれば、それで問題がない場合も多いと思います。
しかし、親がそのような確認をしても子どもが配布物を持ち帰れず、生活上の問題が起きているのであれば、なんらかの対応を検討したほうがよいかもしれません。
例えば、連絡帳を使って親と先生でやりとりをするという方法があります。親が先生あてに「プリントを持たせました」と書いておく。先生はそれを見たら、子どもに声をかける。また、先生からも「配布物があります」といったことを書く。そのような連絡を通じて大人同士で配布物の確認をすれば、困りごとは減っていくでしょう。
■「ほかの子はできているから」とサポートを減らすのはやめたほうがよい
親としては、「学校にそこまでのことは頼めない」と感じるかもしれません。しかし、保育園や幼稚園の頃には、同じようなことをしていたのではないでしょうか。幼児の頃は、子どもが先生に提出物などを渡すのが難しいと思ったら、連絡帳を使って先生とやりとりをしていたはずです。小学校に入ってからも、本人が一人でやるのが難しいことがあれば、大人がサポートをしてもよいのではないでしょうか。
私は、子どもに何かうまくできないことがあったときに「もう何年生だから」「ほかの子はできているから」という理由でサポートを減らすのはやめたほうがよいと思っています。
子どもによって成長のスピードは違います。年齢やほかの子を基準にするのではなく、その子の状態に合わせて対応を考えていくことが大切です。
■先生ができること:問題の対処でなく、予防に手間をかける
学校の先生にも同じように、「もう何年生なんだから、これができなければ困る」という発想を持たないようにしてほしいと思っています。特に、持ち物の管理や身だしなみ、時間を守ることのような生活習慣については、年齢を基準にして子どもを評価しないようにしてもらいたいです。
生活習慣の習得を、家庭でのしつけや本人の努力の結果だと考えている人もいますが、中には家庭でしっかり教わって、本人も一生懸命やっていても、特定の生活習慣が身につきにくい子もいます。例えば注意欠如・多動症(ADHD)の不注意の特性が強い子の場合、親も子もかなり努力していても、配布物をうっかり忘れてしまうことがよくあります。
そういう子どもには年齢に関係なく、一定のサポートが必要です。
一人の子どもをそこまで手厚くサポートするのは難しいかもしれませんが、私が見聞きしてきた現場には、うまく対応している先生もいました。
例えば、子どもにプリントを渡すときに「ランドセルに入れてね」と声をかけ、実際にプリントが入っているかどうかを下校の前に確認しているという先生もいました。
親も子も困らないように、手間をかけてサポートをしているわけですが、その先生は少し手間をかけることで、問題を未然に防いでいました。そこにポイントがあります。
親からの提出物が学校に届かない場合には、子どもに配布物を渡したかどうかを確認し、渡していなければ注意して、再度配布する必要が出てきます。場合によっては親にも連絡する必要があります。上手な先生は問題の対処に手間をかけるのではなく、先に子どもをサポートすることに手間をかけていたわけです。そうすることで、子どもを注意する回数を減らし、子どもの自信を守ることにも成功していました。
簡単ではないかもしれませんが、学校でそのように「予防型」の対応ができれば、理想的だと思います。
■協力しながらできること:親と先生のコミュニケーションを密にする
親と先生が協力して連絡帳などの形でコミュニケーションをとり、子どもの苦手なことをサポートできたら、その子は学校で過ごしやすくなります。必要なサポートは子どもによって異なります。連絡帳でうまくいく場合もあれば、「持っていってね」「持ってきた?」という声かけを増やすことが有効な場合もあります。いろいろなやり方を試しながら、よい対応方法を探っていきましょう。
■通級や支援級が子どもの保険になるケースもある
ただ、中には親と先生ができるかぎりのサポートをしても、困りごとが解決しない場合もあります。そのときには、また違う方法を考えます。そこで特別な場の利用が一つの選択肢となります。
例えば、通常学級ではいろいろな困難が解消しにくい場合に、「通級指導教室(通級)」や「特別支援学級(支援級)」などを利用することで、より細かなサポートを受けられるようになり、困難が解消することがあります。
その場合、これらの教室・学級が子どもにとって「もう一つのサポート」になるわけです。どの教室・学級を利用するかによって詳細は異なりますが、例えば、通常学級に在籍して通級を利用する場合には、親からのサポート、通常学級の先生からのサポート、通級の先生からのサポートという形で、多様な支援を受けられるようになります。一つのやり方では難しくても、別のやり方を試せるようになるわけです。
特別な場を利用すると、子どもが学校生活で困ったときに、それをカバーするための支援を受けることができます。私はそれが特別な場を利用することの重要なポイントだと考えています。
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本田 秀夫(ほんだ・ひでお)
信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事。精神科医師。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年より、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より現職。日本自閉症協会理事、日本自閉症スペクトラム学会常任理事、日本児童青年精神医学会理事。著書に『自閉症スペクトラム』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(ともにSB新書)などがある。
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(信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長 本田 秀夫)