円安は日本経済にとって悪いことなの? 円安にもメリット・デメリットがある
今年の1月、ドル円相場は1ドル=115円前後でしたが、この記事を執筆中の9月時点では1ドル=145円目前まで円安が進行しています。わずか8ヶ月で約25%も円安になったことになり、日本経済にも大きな影響を与えています。円安は日本経済にメリットがあるという言説を聞いたことがある方も多いかと思いますが、その一方で最近では「悪い円安論」を耳にする機会も増えました。今回は円安が日本経済に与える影響や、円安がもたらすメリットとデメリットについて見ていきたいと思います。
そもそも円安、円高とは?
そもそも、円安や円高とはどのような意味なのでしょうか。これは正確に言えば、私たちの国・日本が発行する通貨「円」を「ドル」や「ユーロ」などの外貨と交換する際に参照する為替レートがどのような状態にあるかを指しています。
たとえば、海外旅行でアメリカの空港についた際、1ドル=100円であれば、10,000円を両替に出せば100ドルもらえるということです。ここで、為替レートが変動して1ドル=200円になると、10,000円を出すと50ドルしかもらえず、逆に1ドル=50円になれば、10,000円を出すと200ドルもらえます。
つまり、1ドル=100円が200円になれば、ドルに対して円の価値が下がったことになるので「円安」ということになり、逆に1ドル=100円が50円になれば「円高」になったということになります。
ここで注意しなければいけないのは、1ドル=100円が50円になると、「円」の前の数字が下がっているので「円安」になったと勘違いする人が多いのですが、先ほどのように具体例を考えれば、勘違いは避けられるでしょう。これは慣れてしまえばすぐに判断できますが、慣れないうちは実際の数字を使って考えてみましょう。
冒頭に今年の1月は1ドル=115円前後で、足元では1ドル=145円目前と書きましたが、もう分かりますよね。「円安」が進行したのです。
円安のメリット、デメリット
それでは円安は良いことなのでしょうか、悪いことなのでしょうか。私たちはついつい二元論で考えてしまいがちですが、物事には多くの場合、メリットとデメリットの両面が存在します。円安のメリットとデメリットについてそれぞれ見てみましょう。
まずメリットですが、輸出産業にとって円安が追い風になるということは聞いたことがあるでしょう。その理由は、円安になると日本で作った製品を海外に輸出する際、その製品の値段を外貨換算すると安くなりますから、価格競争力が増すということです。
また、円安になるということは表現を裏返せば、外貨が高くなることを意味しますから、訪日外国人にとっては日本に持ち込んだ自国通貨を多めに円に両替することが出来るので、結果的に円安が外国人観光客を増やすことに繋がります。
一方で、デメリットとしては、海外から輸入するモノの値段が高くなってしまうことが挙げられます。これは日本経済にとっては大きな問題です。日本は原油などのエネルギー資源や、食料の多くを海外からの輸入に頼っているため、円安が進行すると輸入価格が上昇することで企業の仕入れコストが上がり、それを価格転嫁すれば私たち消費者にも影響が出ます。
悪い円安論が叫ばれる理由
このように円安にはメリットとデメリットの両面が存在するにもかかわらず、なぜ昨今では「悪い円安論」が叫ばれるのでしょうか。
円安のメリットとして2点を挙げました。まず1点目ですが、輸出産業に追い風になるということでしたが、過去複数回の円高局面で生産拠点を海外に移した日本企業が相次いだことで、昔ほど円安のメリットを享受しにくくなったということがあります。続いて2点目には円安を背景に外国人観光客が増えることを挙げましたが、ご存じの通り、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、現在は水際対策の一環として海外からの入国を制限しているため、この点においても円安のメリットを享受しづらくなっています。
この1年ほど、モノの値段が世界的に上がっています。この要因はいくつもありますが、コロナ禍からの経済回復局面において、人手不足や半導体不足などの供給制約によってモノの値段が押し上げられたことや、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い原油をはじめとするエネルギー価格が高騰したことが挙げられます。
前述の通り、日本は海外からエネルギーや食糧など多くのモノを輸入していますから、円安が進行すればそれらの輸入価格はさらに上昇することになります。つまり、円安によるデメリットがより目立つ環境下にあるということです。
円安にメリットとデメリットの両面が存在することには変わりはないものの、メリットがあまり享受できない状況にある一方で、デメリットは目立つ環境にあるからこそ「悪い円安論」が叫ばれるのです。
なぜ円安になっても賃金は上がらないのか?
円安のメリットを享受しにくい環境とはいえ、メリットが完全に消えてしまったわけではないのですから、少しは私たちにも賃金上昇というかたちでメリットが反映されないのでしょうか。
円安を追い風に輸出を伸ばして稼ぐ企業は大企業が多いですが、日本においては従業者数ベースでは7割が中小企業に勤めています。中小企業の場合は海外から素原材料を輸入して加工し、大手に卸す企業も多いため、円安によってかさ上げされたコスト増という悪影響を受けている企業の方が多いでしょう。
このように考えると、円安を追い風に業績を伸ばした企業に勤める人よりも、それ以外の方が人数としては多いでしょうから、足元の円安環境においては自分の周りで景気のいい話を聞く機会がそれほど多くないと考えます。