今季のJ2で接戦が続く理由。首位・横浜FCが昇格に一歩前進も指揮官は「不安定で苦しい」
2022年のJ2リーグは、残り10試合となった(ただし、延期などで未消化の試合があるチームも複数ある)。ようやく混戦のレースの行方が見えてきた。
第32節、首位の横浜FCが4位のファジアーノ岡山を下し、2位のアルビレックス新潟が5位のロアッソ熊本に勝利を収めている。一方で、3位のベガルタ仙台が敗れ、勝ち点差は横浜FCと8、新潟とは7に開いた。自動昇格圏の2位以内に入る戦いは正念場を迎えている。
横浜FCに安定をもたらしている守護神スベンド・ブローダーセン
では、このままの順位で推移するのか。
「残り10試合、まだ最大30ポイントあるので、毎試合、決勝戦のようなつもりで、勝ち点をつかみ取りたい」
岡山戦後、横浜FCの四方田修平監督は実感を込めて語った。この先、どう転んでもおかしくはない。
戦いは、下剋上の様相を呈している。
なかでも昇格プレーオフを争う3〜6位は混迷。8月20日時点で、5位のFC町田ゼルビアから9位の大分トリニータまで勝ち点差はわずか3とひしめき合う。6位の熊本と勝ち点差10で14位の徳島ヴォルティスさえ、1試合未消化だけに、一縷の望みはある。その一方、16位のブラウブリッツ秋田は、自動降格圏の21位いわてグルージャ盛岡と勝ち点差が6しかないのだ。
1位 横浜FC(63)
2位 新潟(62)
3位 仙台(55)
5位 町田(49)
6位 熊本(48)
9位 大分(46)
14位 徳島(38)
16位 秋田(36)
21位 岩手(30)
天国の空が見えそうで、地獄の口が足元にのぞいている状況と言えるか。22チームそれぞれの関係者にとって、スリリングな日々だろう。2、3試合で、見える景色ががらりと変わる。
接戦の理由は、どのクラブも高いレベルで戦いの形を確立していない点にあるだろう。その不安定感が、試合ごとに激しく出るのだ。
「(かつてコンサドーレ札幌をJ1に昇格させたが)当時よりも今のほうが苦しんでいます。一喜一憂せず、集中して戦い抜く、という経験は生かされているかもしれませんが。今は内容的に不安定で、1試合のなかでも浮き沈みが大きい」
四方田監督の言葉は、実に正直だ。
戦いのカギを握るGK1−0で勝利した岡山戦も、90分を通して圧倒したわけではない。前半、序盤こそ力の差を見せつけたが、プレッシングに遭うと思うようにボールをつなげなくなる。右センターバックに入った中村拓海からしか、可能性のあるボールが出ない。後半は、途中まで岡山ペースだった。しかし押し込まれるなかで、後半26分、与えたコーナーキックの流れから鮮やかなカウンターを繰り出し、どうにか決勝点を決めた。
一方の岡山はやや不運だった。6人の選手がコロナ陽性判定で欠場。当日に作った急造チームだった。それでも、拮抗した戦いを見せた。前線からのプレスでビルドアップを分断。ヨルディ・バイスを中心にサイドへボールを展開し、前線のミッチェル・デュークが高さ、強さを見せつけ、そのセカンドボールを粘り強く拾った。
「『前から強烈に行こう』と、週の頭から(のトレーニングで)選手たちには伝えていました」
岡山の木山隆之監督は、横浜FC対策を整えていた。
「自由にボールを持たれると、いいプレーを出されてしまうので。前からタイトにはめ、アバウトなプレーを誘発させて、自分たちがボールを持てる時間を増やしながら、サイドの強いところにボールを入れていく、という戦いをしました。"勝てる"という瞬間をたくさん作りましたが......」
岡山にも勝機はあったと言えるだろう。
今シーズンのJ2には、プレーの仕組みを高い水準で作り上げられているチームはない。これからクオリティが劇的に向上することは考えられず、士気の高さやコンディションといった側面が大きく影響するだろう。言い換えれば、どこが勝ってもおかしくはない。横浜FCが岩手、大宮に連敗を喫しているのは、何よりの証左だ。
上から下までほぼ全チームに自動昇格、プレーオフ、そして残留争いがかかっているだけに、気が抜けない接戦が続く。
今後の戦いで、どこが焦点になるのか。
あえて言えば、ゴールキーパーになる。例年、ビッグセーブを連発するGKが、昇格に大きく貢献している。不確定要素が強い戦いを制するのは、GKという単純な「個」である。
その法則に従えば、やはり横浜FCのドイツ人GKスベンド・ブローダーセンの存在がJ2では別格だろう。足技は決して得意ではないが、味方をうまく使いながら、最善のポジショニングを取り、神がかった反応でビッグセーブを出せる。クロスの対応や1対1で怯まずに突っ込む迫力も満点で、勝負の潮目を作れる守護神だ。
横浜FCは2019年に昇格を決めた時も、GK南雄太がMVP的な活躍を見せている。42試合の長丁場の戦いで、ゴールマウスが安定するか、うまくいかないなかでも、どうにか踏ん張れるかは、GK次第だ。
GKの次にはストライカーということになるが、必ずしも得点王が昇格に直結しない点は興味深い。
「チーム一丸となってシーズンを戦うことで、逞しくはなってきています。でも、まだまだ足りない。1年を通して成長し、少しでもレベルアップできるようにしたい」
四方田監督はそう言って、勝って兜の緒を締めていた。