韓国に快勝を収め、優勝というノルマを果たしたことは評価できるだろう。しかし、E-1選手権の最たるテーマは、4カ月後に迫ったカタールワールドカップへ向けての新戦力の発掘にほかならない。

 ただ、海外組を主体としてすでに固まりつつある日本代表のなかに、経験の少ない国内組が食い込んでいくハードルはあまりにも高い。

 海外組がいない=主軸が不在のために連係を図ることはできず、対戦相手の実力も推して知るべし。相対的な判断材料に乏しいなかで、それを補って余りあるだけのインパクトを放つ必要があるからだ。

 2013年以来、2度目の優勝を果たした今回の大会で、果たしてそれだけのパフォーマンスを見せつけた選手はいただろうか。


ボランチで存在感を示した2002年生まれの藤田譲瑠チマ

 初優勝を成し遂げた2013年大会(当時の名称は東アジアカップ)のメンバーからは、この大会で初キャップを飾った6選手が翌年のブラジルワールドカップのメンバー入りを果たした。

 森重真人(FC東京)、柿谷曜一朗(セレッソ大阪/当時)、青山敏弘(サンフレッチェ広島)、齋藤学(横浜F・マリノス/当時)、山口蛍(セレッソ大阪/当時)、そして大迫勇也(鹿島アントラーズ/当時)の6人だ。なかでも山口はブラジル大会でレギュラーの座を確保し、斎藤を除いたほかの4人もそれぞれがワールドカップのピッチに立っている。

 もっとも、彼らにはおよそ1年の猶予があった。東アジアカップでのパフォーマンスだけではなく、Jリーグでの活躍も評価に反映されたはずだ。

 しかし、今回は4カ月しかない。事前合宿ができない以上は、9月下旬の欧州遠征が最後の調整の場となる。そこに標準を合わせるのであれば、2カ月にも満たない状況だ。その意味で今回のE-1選手権は、国内組にとって、まさにラストアピールの場であった。

 3試合を振り返り、結果という観点では、MVPと得点王を獲得した相馬勇紀(名古屋グランパス)、相馬と並んで得点王となった町野修斗(湘南ベルマーレ)、香港戦で2得点の西村拓真(横浜F・マリノス)の3人がアピールに成功したと言えるだろう。

 ほかにも、すでに代表の常連であり、今大会ではキャプテンとしてチームを牽引した谷口彰悟(川崎フロンターレ)、同じく実績組であり香港戦で2アシストの山根視来(川崎)、韓国戦でゴールを決めた佐々木翔(広島)にもメンバー入りの可能性はあるかもしれない。

アピールに成功した選手は?

 ただし、いずれの活躍も驚きには値せず、インパクトには物足りなかった。対戦相手の実力を踏まえれば、想定内のパフォーマンスだった。

 とはいえ、個人的にはひとりだけ目についた選手がいる。今回のフィールドプレーヤーの中で最年少の藤田譲瑠チマ(横浜FM)である。

 パリ五輪世代のボランチは、前情報に乏しかったという点を差し引いても、驚きをもたらしてくれた選手だった。今大会では香港戦と韓国戦の2試合にスタメン出場。とりわけ韓国戦での落ち着きは、とても20歳とは思えないものだった。

 49分には正確なクロスで相馬の先制点をアシストし、72分の町野のゴールの起点にもなった。テンポよく正確にパスを入れられる能力こそ、藤田の持ち味と言えるだろう。

 また自信を持ってパスを受け、姿勢よくボールを運び、視野の広さを生かした展開力も見せつけた。一方で鋭い出足でパスカットを狙い、局面では粘り強く対応し、激しくボールを奪い取るシーンもあった。

 印象に残ったのは、終了間際のプレー。カウンターからボールを運び、走り込んだフリーの味方にラストパスを出すと思わせた瞬間、右足を強振。鋭い弾道は枠を外れたが、予想を裏切るプレーを選択したことに、サッカーセンスの高さが感じられた。

 奪って、運んで、さばいて、決定的なパスも出せる。まさにオールラウンダーなボランチは、プレー時間を刻んでいくなかで余裕すら感じさせていた。国内組主体とはいえ、すでにチームの中心としての存在感を放っていたのだ。

 今大会で替えがたい自信を手にした藤田は「今日できたことは、特に後半は自分のところでテンポを出すプレーだったり、得点に結びつくようなパスだったり、自分で持ち運んで、シュートは入らなかったですけど、ああいったボックストゥボックスの動きは多く出せたのかなと思います」と振り返る。

 一方で「奪いきれるところで奪いきれなかったり、攻撃では前に向ける時にバックパスをしてしまったところが直していくべきところかなと思います」と、反省も忘れなかった。

 それでも初のA代表で堂々たるプレーを見せつけたのだ。森保一監督の脳裏にも、そのパフォーマンスが深く刻まれたはずだ。

残り2カ月しかなくても...

「ワールドカップのメンバーとして候補に入る選手は何人もいたと思います」(森保監督)

 そのなかのひとりに藤田が加わっていることは、想像に難くない。

 一方で本人は、謙虚な姿勢を崩していない。

「そんなに簡単な壁ではないですし、この大会がよかったから呼ばれる、というのはないと思います。ただ、この大会をきっかけにまた自信がついたと思うので、Jリーグでもしっかり活躍していって、そういった日常を評価されて呼ばれたらうれしいです」

 まだ20歳である。たとえ残された時間が2カ月しかなくとも、十分に成長はできるだろう。その伸びしろの大きさを考えると、9月の欧州遠征メンバーに招集されれば、カタール大会のサプライズメンバーはこの男になるかもしれない。