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日本での「今後5年以内に、国防費を現在の2倍の対GDP比2%以上に引き上げる」という防衛力強化方針を巡る議論が、国外でも波紋を呼んでいる。現実となれば、日本は軍事費の規模で世界3位の軍事大国となる。日本の国防費強化に関する議論は、欧米諸国の目にどのように映っているのだろうか。

■アジア太平洋地域やNATO間の連携強化に焦点

岸田首相は2022年6月29日、マドリードで開幕した北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に、日本の首相として初の出席を果たした。この歴史的出来事は海外メディアにも大々的に報じられ、中国・北朝鮮・ロシアの国際的脅威が増す中、アジア太平洋地域におけるNATOとの連携の強化に焦点が当てられた。

フィナンシャルタイムズ紙は、NATOの通常の地理的範囲をはるかに超えた4ヵ国(日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド)の首脳出席について、「NATOとアジア太平洋4ヵ国との連携強化は、米国単独との同盟だけではアジア太平洋地域の安全を確保するのに十分ではないという懸念に後押しされたものだ」と言及した。

米シンクタンク、戦略国際問題研究所のクリストファー・ジョンストーン氏は、「岸田首相は特にロシアのウクライナ侵攻に強い危機感を抱いていると同時に、欧州とNATOに中国の脅威に対してもより足並みを揃えて対応することを望んでいる」と指摘。

アジア太平洋の外交誌ディプロマットは、日本のNATOへの働きかけが実を結ぶとした上で、「岸田首相のレトリック(言葉巧みな表現)とロシアに制裁を課す意欲は、NATOの指導者達から高評価を得たようだ」と報じた。

■「GDP比2%以上への防衛費引き上げ」を注視

このような中、特に注目を集めたのは日本の防衛強化策だ。日本政府がNATOや米国に呼応し、GDP比2%以上へ防衛費を引き上げることを念頭に置いている点が注視されている。

地政学リスクの高まりを警戒し、各国が競うように軍事費を引き上げている現状を目の当たりにした日本が、軍事政策においてより強硬かつ具体的な対応に迫られているのは明らかだ。

現に日本同様、第二次世界大戦の敗戦国であり、戦後は平和最優先主義に徹していたドイツが、ロシア・ウクライナ紛争を機に軍政策の大転換を図ろうと試みている。

ドイツはNATO加盟国であるにもかかわらず、長年に渡ってNATOからの国防費引き上げの要求を拒否し続けていた。ところがロシアのウクライナ侵攻が、「国際間の問題を軍事ではなく対話と外交で解決する」というドイツの外交政策を、短期間にして劇的に変化させた。

ロシアの武力行使に加え、北朝鮮の核実験問題や中国の台湾問題など、近隣諸国の軍事的な緊張の高まりは、日本とアジア・インド太平洋地域の安全保障環境を確実に悪化させている。このような背景から、海外では「中国・北朝鮮・ロシアを近隣諸国に持つ日本が、警戒感を高めるのは当然の流れだ」との見方が強まっている。

■日本は「段階的に軍備増強を行うべき」との声

一部で疑問視されているのは、その目標値の設定についてである。

国防費をGDPの2%まで増やすということは、2022年度の防衛関係費5兆4,000億円から試算すると、単純に考えて2倍=10兆8,000億円が必要となる。この金額の捻出についての課題があるのはもちろん、国防費を2倍に増やしたからといって防衛力が2倍に拡大するといった簡単な問題ではない。

ジョンズホプキンスSAISの国際関係学修士候補、ブラッドリー・イサクソン氏は、軍事的脅威から地域の安全を保護するという使命を果たす目的で、「日本はいくつかの重要かつ微妙な調整を行う必要がある」と賛同した上で、「一挙に国防費を倍増させるより、段階を追って増やすべきだ」と、慎重な見解を示した。

同氏によると、例えば2%の上限達成期間を5〜10年に引き延ばすことにより、「地域の不測の事態に備えて、目標達成に向けた予算を迅速に引き上げることができる」「安全保障の必要性を適切に評価し、新たな防衛装備を調達する時間も稼げる」とのことだ。

さらに、2020年に突如計画停止となった「イージス・アショア・プロジェクト」のような、"国防費の誤算"も回避できると付け加えた。このプロジェクトはイージス・アショア建造に約4,500億円を投じて、日本全域に「陸の盾」を構築するという壮大なミサイル防衛政策だったが、「投資に見合わない」などの理由で実現しなかった。

■英大学教授「日本の外交政策の変化が紛争を引き起こす」

日本の動きに疑問を唱える声もある。

「戦争の放棄・戦力不保持」が憲法で定められているはずの日本が、西側諸国と足並みを揃えて軍力を拡大していくことに、違和感を感じる」と語るのだ。

英イーストアングリア大学国際関係学部のラ・メイソン教授は、『日本の国防費の倍増が、世界をより危険な場所にする』という見出しで、「日本の外交政策の変化が将来の紛争を引き起こすリスクがある」との懸念を露わにした。

同教授は、日本が世界9位の軍事費を誇る「名ばかりの平和主義者」であり、平和憲法を掲げる傍ら、戦後間もなく再軍事化に着手していたと指摘。ドイツの軍事政策改革を引き合いに出し、軍事大国→敗戦→軍事無力化→軍事拡大の「サイクルを一周した」と述べた。

その一方で、「過度に拡大した後、現在は衰退しているように見える米国」と同盟を深める動きは、「日本の安全保障のアイデンティティに疑問を投げかけている」とし、「2015年に憲法の解釈の変更が批准されて以来、日本の外交政策はますます大国の外交政策化している」と疑問を投げかけた。

■「憲法解釈」は十人十色?

「憲法」をどのように解釈するかはさまざまだ。

日本国憲法が掲げる「国際協調主義」という角度から解釈するのであれば、国際秩序や国際平和を破壊する行為を見過ごす訳にはいかないとの意見もある。

しかし、敵対する国がそれを「内政干渉」と見なして反発し続ければ、国際社会の対立は悪化の一路を辿るしかない。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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